78:真夜中の告白
「ねえ。沙織ちゃんも、鷹緒さんのことが好きなんだね!」
隣のリビングで、ソファに座りながら茜が言った。沙織は小さく頷く。
「茜さんも……ですよね?」
「そう。私はもうずっと鷹緒さん一筋よ。じゃあ、私たちライバルか……でも私はオトナだし、待つのには慣れてるの。沙織ちゃんは沙織ちゃんで頑張ってね。私は私のやり方で口説く!」
すごい勢いで茜が言うので、それがおかしく思えて、沙織が笑った。
「あ、笑った。可愛い」
「もう、茜さんったら」
「私ね、うるさいかもしれないけど、気持ちは沙織ちゃんと一緒だから。だから、一緒に頑張ろうね……」
重いまぶたに、茜はそのままソファに横になると、すぐに眠りについていた。
沙織は一瞬で寝入ってしまった茜に苦笑すると、毛布をかけてやり、寝室へと向かっていく。同じ恋のライバルだが、憎めない人だと思った。
鷹緒は割れた眼鏡を拾うと、ソファに座ってそれを見つめた。片方のレンズが完全に割れている。前に豪とやり合った時にもフレームがひしゃげてしまっていたので、今回ばかりは再起不能なようだ。大して目が悪いわけでもないが、思えば十年以上かけているその眼鏡は、生活の一部になっている。
「はあ……」
溜息をついて、鷹緒は棚に眼鏡をしまった。
「ったく、豆台風が……」
そう呟いた時、リビングのドアがノックされた。鷹緒は返事をする。
「……はい」
「わ・た・し……」
茜の声が聞こえる。
「……そちらのドアは、現在封鎖されております」
冷めた目で、鷹緒はリビングのドアを見つめながら言った。
すると勢いよくドアが開き、茜が入ってきた。
「なによう!」
「勝手に入るなよ」
「まあまあ」
「……沙織は?」
鷹緒が尋ねる。
「もう寝ちゃったみたい。私もいつの間にか寝てて……鷹緒さんは、相変わらず夜型人間ですねえ」
「誰かさんのせいで、目が冴えちゃっただけだよ」
「ふうん? 私が来たことが、そんなに嬉しいんだ」
「なに馬鹿言って……」
そう言う鷹緒に、茜が熱い視線を送る。
「……なんだよ?」
「久しぶりだね。眼鏡のない鷹緒さんを見るのも……」
「俺だって、人前で外すのは久しぶりだよ」
小さく溜息をつきながら、鷹緒が言った。
「いいじゃない。どうせ伊達でしょう? 女よけか。鷹緒さんは、眼鏡がない方がカッコイイの」
「アホか。だからって、大事な眼鏡壊されてたまるかっつーの」
鷹緒は軽く、茜の頭を叩いた。
「イタッ。まあ、私のせいで壊しちゃったのはごめんなさい……」
「……もういいよ。どうせ伊達だろ?」
軽く笑うと、鷹緒は台所へと歩いていった。そして冷蔵庫を覗いて尋ねる。
「コーヒー? ビール?」
「もちろん、ビール」
茜の言葉に、鷹緒がビールを手渡す。そんな鷹緒に、茜が不気味に笑った。
「うふふふ」
「なんだよ。気持ち悪い……」
「やっぱり優しいんだ。私、そういうところが大好き」
あっけらかんとそう言う茜に、鷹緒が苦笑する。
「相変わらずだな、おまえは」
「……鷹緒さん。私、まだ鷹緒さんのこと好きよ。鷹緒さんはどう? 気持ちは変わらない? 私のこと、女として見れない?」
ズバズバとそう言う茜は、鷹緒を見つめたまま目を反らさない。
「……そうだな。あの頃から……もしまた誰かと結婚するんだとしたら、おまえだろうと思ってたよ……」