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75:豆台風のお越し

「マジ? 鷹緒さんの親戚かあ。あの人にもそういう人がいたのね……はじめまして。私、三崎茜といいます。よろしくね」

 可愛い笑顔で、茜が言った。

「……小澤沙織です。よろしくお願いします」

 茜の勢いに呆気を取られながらも、沙織も挨拶をする。そんな沙織の手を取って、茜が握手をした。

「さすが鷹緒さんの親戚。可愛い!」

「あ、ありがとうございます……」

「実は私もね、シンコン出たことあるんだよ」

「え、本当ですか?」

 茜の言葉に、沙織が驚いて言った。そばにいた牧が頷く。

「そうだったわね。茜ちゃん、グランプリ取ったんだっけ?」

「過去の栄光だけどね……今みたいに、全然グレード高くないし」

「いつ頃の話ですか?」

 沙織が尋ねる。茜は少し照れながら、口を開いた。

「十七の頃だから、八年前か。うわ、年取ったな……」

「へえ、十七歳……」

 二人はしばらくシンコンについて話した。

 沙織は茜から聞く審査の内容などで、少しずつ緊張したり、気持ちが和らいだりするのだった。

「そろそろ事務所閉めなきゃね……ヒロさん、まだかしら」

 しばらくして、理恵が言った。牧は時計を見て頷く。

「そうですね。今日は得意先周りやるって張り切ってましたけど、もうそろそろじゃないかしら」

「あの人、意外と外回り好きなのよね」

 一同は、理恵の言葉に笑った。その時、広樹が戻ってきた。

「あ、ヒロさんすごい。以心伝心!」

 茜が叫んだ。茜に気付いて、広樹が駆け寄る。

「おお、茜ちゃん。ずいぶん早かったじゃない。夜になると思ってたよ」

「なんだ。ヒロさん、茜ちゃんが来ること知ってたんですか?」

「うん、電話もらってたからね。バタバタしちゃって言いそびれてたよ。鷹緒とは会ったの?」

 牧の言葉を受け、広樹が茜に尋ねる。茜は頷いた。

「さっき、ちょこっとだけ」

「あははは。その様子じゃ、いつも通りの反応か」

「いいんです。優しいくせにクールなところがカッコイイんだから」

 茜の言葉に、広樹が苦笑する。

「あいつもモテるなあ……さて、着いて早々だけど、事務所閉めようか。僕はまだ仕事が残ってるから、みんな先に帰っていいよ」

「じゃあヒロさん、私も残っていいですか?」

 茜が尋ねる。

「鷹緒を待つつもり? 頑張るねえ」

「待ってるって、約束したんです」

「あはは。もちろんいいよ。僕もいろいろ話したいし」

「はい」

 広樹の言葉に、茜はソファに座り直した。

「ヒロさん。沙織ちゃん、ずっと待ってたんですよ。はい、これ」

 理恵が、二次審査の合格通知を広樹に渡して言う。

「ごめん、ごめん。合格通知だね! まあ、ここまでは想定内だ。三次審査は……来週か。ラストスパートかけなきゃね」

「はい」

 沙織も笑顔で返事した。

「じゃあ、我々は帰りましょうか」

 理恵が、沙織と牧に言う。

「はい。じゃあ、お先に失礼します」

 理恵と牧は、事務所を後にした。

 沙織は鷹緒を待つという茜のことが気になりながらも、理恵たちについて事務所を出ていった。


「茜ちゃんのパワーは相変わらずね……さすが豆台風」

 外に出るなり理恵が言った。

 沙織は首を傾げる。

「豆台風?」

「ああ、鷹緒がよく言ってたのよ、茜ちゃんは豆台風みたいだって。一種のあだ名ね」

「へえ」

「でも彼女がいると、事務所の空気が一気に明るくなるんですよね。じゃあ、私はここで。また明日」

 牧はそう言うと、別方向へと走っていった。沙織と理恵は駅へと歩いていく。

 歩きながら、沙織は苦笑して口を開いた。

「茜さん、鷹緒さんのことが好きなんですね。すごい勢いで、びっくりしちゃった……」

「うん。あの子の情熱はすごいわよ。まあ、若いってそういうことなのかな……私も彼と初めて会った頃は、あんな風にはしゃいでたもん。でも、茜ちゃんは一途よね。私が結婚する前から、あんな調子だったから」

「へえ……」

「でも、あんまり気にすることないわよ。彼とあの子は漫才コンビって言われてたんだから」

「あはは。なんか、わかる気がする……」

 笑ってそう言いながらも、沙織は茜のことが気になっていた。


 事務所では、机に向かう広樹に、茜がお茶を差し出した。

「ありがとう」

「いいえ」

 二人が笑顔で会話をする。

「相変わらず、お仕事大変そうですね」

「うーん、まあね。でも事務所も拡大しちゃったし、頑張らないと」

「……ヒロさん。どうして理恵さんを副社長にしたんですか?」

 茜が尋ねた。

「どうしてって……」

「鷹緒さんの気持ち、考えなかったんですか? 一緒にいて、平気なはずないのに……」

 突然、必死の顔になった茜に、広樹は静かに微笑む。

「うん……それは僕も考えたよ。だけどお互いによく話し合ったし、それは大丈夫だと信じたい……それに、理恵ちゃんは他の事務所で経験も積んできてるし、事務所拡大には必要な人材だと思ってるよ」

「……」

「まあ、君もしばらくは鷹緒と一緒に居られるじゃない。また事務所が明るくなって嬉しいよ」

「ヒロさん……」

「もう少しで仕事終わるよ。鷹緒もそろそろ帰ってくるんじゃないかな」

「……邪魔してごめんなさい」

 そう言うと、茜は応接スペースへと戻っていった。茜は、鷹緒が理恵と一緒にいることが辛かった。

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