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72:二次審査

「……どうぞ」

 鷹緒がそう返事をすると、ひょっこりと沙織が顔を覗かせる。

「……入ってもいい?」

「うん……」

 頷く鷹緒の前に、すかさず沙織が座る。目の前の沙織を見つめて、鷹緒が口を開いた。

「なに?」

「ちょっと眠れなくて。話してもいい?」

「ああ、いいよ……」

 沙織の言葉に、溜息交じりで鷹緒が返事をする。

「なんだか嫌そう……」

「そんなことねえよ……冷蔵庫に何かあると思うから、飲み物持ってこいよ」

「うん」

 沙織は立ち上がって、冷蔵庫を覗く。缶コーヒーやビールがゴロゴロしている中、パックのお茶などもある。缶コーヒーを取って、沙織はリビングへと戻っていった。

「ここの家、缶コーヒーはやたらあるね」

「ハハ。夜起きてることが多いからな。たまにまとめ買いするんだ。事務所の差し入れを貰うこともあるし」

「へえ」

「どう? シンコン二次審査、もうすぐじゃん」

「覚悟は出来たから、前進あるのみ!」

「おお。頼もしい」

 二人は笑った。

「鷹緒さん。あのね、シンコンが終わったら、聞いてほしいことがあるの……」

 改まって、沙織が言った。

「なに?」

「……その時になったら言う。だから、聞いてくれる?」

 遠まわしに、愛の告白であった。

「ああ。いいよ……」

 その言葉にホッとした様子の沙織は、急に笑顔になる。

「よかった。じゃあ私、シンコン頑張るからね。ちゃんと見ててね」

「ああ。見てるよ」

「うん。じゃあ、戻るね。おやすみ」

「おやすみ。早く寝ろよ」

「うん」

 そのまま沙織は、自分の部屋へと戻っていった。

 沙織は、間違いなく鷹緒に告白しようとしていた。だが今はオーディションも控えているため、そんな勇気までは出ない。ただ、昼間に理恵から事実を聞いて、沙織の思いは膨れ上がっていた。鷹緒の不器用なまでの優しさが、理恵を通して痛いほど伝わる。どうしても、自分の想いを伝えたいと思った。

 一人になった鷹緒は眼鏡を外し、ソファにぐったりと横になった。ここ数日、内山のことで気持ちが張り詰めた状態になり、疲れているのも事実である。鷹緒はそのまま眠りについた。



 それから数日後。沙織はシンデレラコンテストの二次審査へ向かった。

 二次審査は、審査員による面接だ。緊迫した空気の中、たくさんの少女が順番を待っている。中にはテレビで見たことのあるタレントもいる。沙織は少し自信を失くして俯いた。

 その時、持っていたカバンの中で、携帯電話のバイブが震えた。

「沙織ちゃん。電源は切ってって言ったじゃない」

 隣に居た理恵が言った。理恵もまた、今日ばかりは少しピリピリしている。

「ごめんなさい」

 慌てて沙織が携帯電話を見ると、着信は鷹緒からだった。

「もしもし!」

 すごい勢いで、沙織が電話に出る。

『おう、元気そうだな。調子はどう?』

 いつもと変わらぬ鷹緒の声が聞こえる。その声を聞いて、沙織の心は落ち着いた。

「うん、平気……今、順番待ってるところ」

『そうか。どう? 雰囲気は』

「うん。何か、場違いって感じ……」

『ハハハ。それはみんな思ってるだろうよ。自信持っていけよ』

「う、うん……」

『大丈夫か?』

 鷹緒の優しさが、沙織の心を軽くする。声を聞けば聞くだけ、勇気が出る気がした。

「うん。大丈夫……心配してかけてくれたの?」

『そりゃあ、まあな……おまえだったら、いつも通りで大丈夫だと思うから。三次審査に俺もいることだし、気持ち楽にして頑張れよ』

 その言葉は、沙織を芯から支えるように、強くさせる。

「ありがとう……」

『じゃあ俺、出先だから……』

「うん。ありがとう」

『ああ。じゃあな』

 そこで電話は切れた。沙織は嬉しさに微笑む。そんな様子を見て、理恵が口を開いた。

「鷹緒さんから?」

「はい。頑張れって……」

「そう。じゃあ、頑張らなきゃね」

「はい」

 沙織は何かを吹っ切ったように、面接の順番を待った。


 二次審査を終えて、沙織は理恵とともに事務所へと戻っていった。追跡取材もあったため、沙織は緊張し通しだった。

 唯一救われたことは、鷹緒から激励の電話が入ったことだ。あれがなければ、二次審査どころではなかったかもしれない。

「おかえりなさい。お疲れさま!」

 事務所に入るなり、広樹や牧が沙織に声をかける。

「ありがとうございます。でも、結果はどうなるか……」

 苦笑して沙織が言う。二次審査の合否は、後日書類で発表されることになっている。今はまだ手ごたえさえ感じられない。

 二次審査を終えてホッとしながらも、未だ緊張した様子の沙織に、広樹が明るく声をかけた。

「最善を尽くしてくれたんだ。何も言うことはないよ。これからみんなで食事に行こうと思ってるんだけど、よかったら沙織ちゃんも一緒に行こうよ」

「はい」

 事務所の雰囲気に安心した様子で、沙織が答える。そこに鷹緒が帰ってきた。

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