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63:話し合い

 その日も遅くに帰ってきた鷹緒の部屋に、今日は理恵が待っていた。

「おかえりなさい……」

 少し怯えた様子で、理恵が出迎える。

「……ああ」

 返事をするものの、鷹緒は理恵を見ようとはしない。

「あの……話があるの」

「悪いけど、明日から出張なんだ」

 顔を背けたまま、鷹緒が答える。

「時間は取らせない……だけど、話しておきたいの」

「なにを? 言い訳なら聞きたくない」

「言い訳じゃないわ」

「じゃあなんだよ。俺を説得するつもりか。別れ話か? もうどうでもいいんだよ、おまえのことなんか」

 鷹緒の言葉に、理恵が深く傷ついた顔をする。しかし、理恵はすぐに口を開いた。

「言い訳なんかしない……鷹緒に何を言われたって、私が傷つく権利なんかない……」

 そう言いながらも悲しさに震える理恵は、必死に涙を堪えているように見えた。

 鷹緒は小さく溜息をつくと、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し、ソファに座った。理恵はその前に座る。

「私が全部悪いの……だけど、わかって。私、鷹緒が嫌いなんじゃない」

 理恵が言った。鷹緒は俯く理恵を見つめ、静かに口を開く。

「でも、豪が言ってたことは、本当なんだろう?」

「……うん」

「三ヶ月前からって言ったな……それから今日までずっと、俺に隠れて会ってたことは事実なんだろ?」

「う……ん」

 自分のしたことに後悔し、理恵は涙を流していた。鷹緒はきつく拳を握ったまま、冷静を保とうとしている。

「……きっかけは?」

「三ヶ月前のショーの時……豪と一緒にモデルやってて、打ち上げに行ったの。鷹緒も仕事で遅くなるからって、はしゃいでた……鷹緒、もうずっと忙しくて、最近寂しいって。豪にそれを打ち明けた……豪、親身になって聞いてくれて……」

「だから浮気したのか?」

 ズバリと言う鷹緒に、理恵は涙を拭う。

「ごめんなさい……」

「謝ってほしいんじゃない。べつに一度や二度の浮気なら、まだ許せるよ。でも違うんだろ?」

「……ずっと、豪のことが気になってた……」

 理恵の告白は、鷹緒の胸を締めつけた。

「……ごめんな」

 突然、鷹緒がそう言った。理恵は驚いて、鷹緒を見つめる。

「おまえの気持ちに気付かなかった……おまえ、もうずっと豪のことが好きだったんだろ? それなのに、俺が縛ってた。その上、仕事で構ってもやれなくて……それは事実だ。邪魔者は、俺の方かもな……」

 鷹緒の言葉に、理恵が首を振る。

「違うよ! どうして……どうしてそんなこと言うの? 怒ればいいじゃない。怒って、私を殴りつければいいじゃない! どうしてそうしないの。そうでもしてくれないと、私……」

 悲鳴のように、理恵が言った。そんな理恵に、鷹緒は静かに口を開く。

「……楽になれよ。俺だって、おまえの寂しさや傷ごと抱けるほど、人間出来てないし、ここで元のさやに戻ったって、しばらくは俺のスケジュールだって埋まってる。おまえの寂しさ紛らわせることなんて出来ないよ……」

「鷹緒……」

 訴えかけるような目で、理恵は鷹緒を見つめていた。鷹緒は眉をしかめて、俯いている。

「豪だって……あいつのことは、よくわかってるつもりだ。あいつの態度はいつだって気に食わないけど、あいつがおまえのことを好きだってことは、前から知ってた……知ってておまえのそばに居させた俺にも責任がある。なによりおまえ、もう豪の方に気持ちが傾いてるんだろう? そのくらいは、俺にだってわかるよ」

 二人の間に沈黙が走る。もう、理恵は何も言えなかった。

「……私、鷹緒と別れたくない……」

 しばらくして、理恵がやっとそれを口にした。鷹緒は理恵を見つめる。

「俺だって、別れたくないよ。でも……このままじゃいけないと思う」

「……」

「理恵……俺たち、水と油だって言われてきたけど、俺はそうは思ってない。俺たちはこれで終わりじゃない……しばらく時間を置こう。俺も真剣に考えるから」

 鷹緒はそう言うと立ち上がり、寝室へと入っていった。理恵は、その場で泣き崩れた。



 次の日の早朝。一睡も出来なかった鷹緒は、静かに部屋を後にする。

 互いの部屋に、もはや理恵の気配はない。理恵は内山のところに出ていったのだと確信し、鷹緒は一人、仕事へと向かっていった。

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