表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/125

62:裏切り

「鷹緒……」

 理恵はすぐに内山から離れ、明らかに動揺していた。

「……なに。どういうこと?」

 二人を交互に見つめながら、鷹緒が言った。理恵は押し黙る。

「今日は仕事だったんじゃ……?」

 そう言いながら、鷹緒の頭は混乱していた。

「うん、仕事よ……豪と一緒……」

 しどろもどろで理恵が言った。その時、内山が不敵に微笑んだ。

「なに言ってんですか、先輩。この状況、見てわからないんですか?」

「ちょっと、なに言うのよ、豪!」

 内山の言葉に、慌てて理恵が止めに入った。しかし、内山は言葉を続ける。

「だって、この状況だよ? 認めちゃおうぜ。先輩、僕たちつき合ってるんですよ」

「……なに言って……なに言ってんだ、おまえ」

 目を丸くさせ、鷹緒がやっと状況を察して言った。

「見ての通りです。今だって、ホテル帰りですよ。ほら」

 ホテルのライターを見せ、内山が言った。そのライターを、無言で鷹緒が振り払う。

「あーあ。落ちちゃったじゃないですか」

 そう言ってしゃがみこむ内山は、くすりと笑った。

「でも、お気楽な人ですね。今まで本当に気がつかなかったんだ……僕たち、もう三ヶ月もこの状態なのに」

 内山の言葉に、鷹緒が逆上した。その途端、内山の頬に鷹緒の拳が飛ぶ。

「うわ!」

 勢いよく内山が倒れた。それと同時に、行き交う人の目も釘づけになる。

 その時、広樹が走り寄ってきた。

「なにしてんだ、鷹緒!」

 尚も殴ろうとする鷹緒を、広樹が必死に止めようとする。だが鷹緒は、内山を離そうとしない。

「うるさい!」

「やめろって! 何があったか知らないけど、こんなところでなにやってんだ! 仕事だってなくなるぞ」

 体当たりで止める広樹に、鷹緒が理恵を見つめる。理恵は怯えた表情をしたまま、何も言おうとはしない。そんな理恵に、鷹緒は背を向けた。

「鷹緒……」

 理恵が、やっとそう口にする。

「どっか行けよ……もう、おまえの顔なんて、二度と見たくない!」

 鷹緒はそう言うと、その場から去っていった。広樹は理恵の方を見つめながらも、鷹緒について去っていった。


「鷹緒!」

 早足で歩く鷹緒を、追いかけながら広樹が言う。だが鷹緒は、無言のまま歩いていく。

「鷹緒、待てよ。何があったっていうんだ?」

「……あいつら、つき合ってるんだとさ」

 険しい表情で、苦笑しながら鷹緒が言った。その言葉に驚き、広樹は一瞬、言葉を失った。

「まさか、そんなこと……」

「……飯、食いに行こうぜ」

 二人は、近くの料理屋へと入っていった。


「……確かなのか?」

 料理を口にしながら、広樹が尋ねる。聞きにくい状況でありながらも、放ってはおけない。

 鷹緒はうつろな表情をしながら、重い口を開いた。

「……考えてみると、思い当たる節がいくつもある。最近あいつ、仕事と言っては遅くなってたし……」

「でも……」

「……もういいんだ。しょせん俺たちは、水と油。こうなる運命だって、俺たちが結婚した時から、おまえら言ってたじゃん」

 苦笑しながら、鷹緒が言う。

「それは、冗談でだよ。本気で言うはずが……」

「……もういいんだ」

「いいって、おまえ……」

「いいんだ……それより、飲もうぜ」

 日本酒を注ぎながら、鷹緒が言った。広樹もそれ以上、何も言えなかった。


 夜中十二時をとっくに回って、鷹緒は自宅マンションへと帰っていった。しかし、部屋に人の気配はない。ふと見ると、リビングから繋がった隣の部屋の明かりが漏れているのが見える。

 同じマンションに二部屋持つ夫婦は、互いに家を持っている感覚で、プライベートも別々である。それは、互いの生活リズムがあまりにも違うということからだったが、今となっては空しさだけが残っていた。

 一方、理恵もリビングにいながら、鷹緒が帰ってきたことを悟っていた。しかし、今は合わせる顔がない。話はしたかったが、何を言ったらいいのかわからない。

 二人は互いの気配を感じながらも、今日は顔を合わせることはなかった。



 次の日。鷹緒は朝早くから仕事に出かけた。理恵と内山のことが気になって仕方がないが、今は忘れようと思う。先のことは、まったく考えられなかった。


 その日も遅くに帰ってきた鷹緒の部屋に、今日は理恵が待っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ