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06:憧れの芸能人

「BBだ!」

 思わず沙織が叫んだ。その声に、BBのメンバーが笑う。

「おはようございます。スタジオでその反応、新鮮ですね」

 BBの一人が言った。

 BBとは、二十代前半の男性ユニットで、ユウ、センジ、リュウ、アキラの四人で構成される、人気歌手グループである。

「す、すみません! 聞いていなかったものですから……」

 焦りながら沙織が言う。目の前にいるのが本物のBBなのか、まだ信じられない。

「沙織ちゃん。今日はね、BBさんの写真集撮りなんだよ」

 そんな沙織に、スタッフが言った。

「そ、そうだったんですか……すみません。何も知らなくて、思わず……」

「諸星さんのスタッフさんですか? 新顔ですね」

 BBのリーダーであるユウが言う。BBの中でも、一番人気を誇っている青年だ。

 ユウの言葉に、スタッフが説明を入れる。

「鷹緒さんの親戚の子なんです。ヘルプで入ってくれて」

「へえ、諸星さんの? 僕たち、諸星さんに写真集撮ってもらいたくて、ずいぶん事務所に交渉してもらったんですよ。そうか、諸星さんの……」

 しみじみと沙織を見つめながら、ユウが言う。憧れの歌手を前に、沙織はどうしていいのかわからなくなっていた。

 するとそこに、鷹緒がやってきた。

「おはようございます。遅くなってすみません」

「おはようございます、諸星さん。寝坊ですか? ひどいなあ。僕たちの写真集撮りだからって、気を抜いてるんじゃないでしょうね?」

 鷹緒の挨拶を受けて、ユウが言った。

「まさか」

 苦笑しながら、鷹緒が答える。そう言いながらも、鷹緒の手はすでに準備を始めている。

「今、諸星さんの親戚の子と話してたんですよ。面白い子ですね」

「さあ、よく知らないから……」

 鷹緒の言葉に、ユウも苦笑した。

「ハハハ、ひどいな。親戚でしょう?」

「遠いね。面白いって、何かしたの?」

「冗談ですよ。でもスタッフさんには、仕事内容くらい教えといてくださいよ」

 沙織を庇うようにして、笑ってユウが答える。

「ああ……そういや、言ってなかったか。沙織、BBのファンだったよな? こいつ、大晦日もライブ行ったみたいだよ」

「本当? 見てくれたの、僕たちの年越しライブ」

 突然、嬉しそうに尋ねてきたユウに、沙織は緊張したまま頷いた。

「は、はい……」

「それは嬉しいな。諸星さんと?」

「いえ、彼氏と。彼氏も大ファンで……」

 沙織が素直に言った。

「なんだ、彼氏持ちかあ。でも嬉しいな。そっか……諸星さん、この子のために、この仕事受けてくれたんですね」

「えっ?」

 ユウの言葉に、沙織は驚いた。だがユウは、構わず鷹緒に話しかけている。

「聞きましたよ。僕らの年越しライブのチケットは発売と同時に完売してたけど、諸星さんが渋ってたこの仕事、受ける代わりにどこでもいいから席を用意してくれって要請があったって」

「まさか……それとこれとは別だよ。さあ、始めるから着替えて」

 切り替えるように鷹緒がそう言うと、BBのメンバーは更衣室へと向かっていった。沙織はユウの言葉が気になりつつも、仕事にかかった。


 その日の撮影は、夕方までかかった。沙織は機材の片付けをしたり、買出しに行ったりし、徐々に仕事をこなしていった。間近にいる有名芸能人を前に、沙織は夢の中にでもいるような感覚を覚えていた。

「お疲れさまです」

 撮影が終わると、鷹緒はすぐに支度を始めている。そんな鷹緒に、スタッフが声をかける。

「あれ、鷹緒さん。今日はお急ぎですか?」

「ああ、これからCMの会議なんだ」

「マジっすか。大変ですね」

「いや。じゃあ、後は任せるよ。明日もここ使うから、適当に片付けたら帰っていいから」

 着々と帰り支度を進めながら、鷹緒が言う。

「鍵はどうします?」

「事務所寄らないなら、鍵閉めて、いつもの……」

「窓枠の溝っすね。わかりました」

「じゃ、お先に」

 鷹緒はそう言ったところで、沙織に気付き、そのまま沙織のもとへと歩いていった。

「沙織、明日も九時にここ。直接来ていいよ。明日も同じ、写真集撮りだから。じゃ、明日な」

 鷹緒はそう言うと、スタジオを出ていった。

 沙織は、BBのユウに言われたことが気になっていたが、結局、鷹緒に何も聞けないまま、片付けを終えた。


 その夜。自宅に戻った沙織は、彼氏の篤と電話をしていた。

『マジで! BBに会ったの?』

 篤の声が、電話から漏れた。沙織は自慢げに話を続ける。

「うん。しかもね、リーダーのユウさんが、話しかけてくれたんだよ!」

『本当かよ? 信じらんねえな』

「嘘じゃないもん! 明日も同じ撮影だし」

『……なあ。マジの話ならさ、俺も明日連れてってくんない?』

 篤が言った。

「え?」

『おまえだって、俺がBBファンだっての知ってるだろ? 俺、どうしても会いたいんだ。頼むよ、沙織』

 確かに篤は熱烈なBBファンで、ファンクラブにも入っている。ミーハーな部分も手伝って、芸能ネタにはとことん弱い。

「で、でも……私だって、仕事で行くんだよ? 話しだって出来るとは限らないし……」

 沙織は少し困っていた。篤をBBに会わせてやりたいとは思うが、遊びで行くのではない。第一、鷹緒が許すはずがないと思った。

『わかってる。でも頼む! 遠くから見てるだけでいいんだ。俺に出来ることなら、なんでもするしさ』

 篤の必死な願いに、沙織も弱っていた。

「わかった。じゃあ、親戚の人に話してみるけど……どうなるかわかんないよ?」

『ありがとう! 頑張って頼んでみてよ。絶対に邪魔はしないからさ』

「わかった……じゃあ、ちょっと待ってて。電話してみるから……」

 沙織はそう言って、電話を切った。時計を見ると、夜の十一時を回っている。

「こんな時間に大丈夫かな。会議があるって言ってたけど……」

 少しの間悩むと、沙織は意を決して、鷹緒の携帯電話に電話をかけた。

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