58:新たな疑問
「諸星さんもパパだけど、恵美の本当のパパじゃないんだよ」
「……え?」
恵美の言葉に、沙織は耳を疑った。いつか鷹緒が、自分で恵美を娘だと言っていたはずだ。
考え込む沙織に反して、恵美は言葉を続ける。
「あのね、パパは恵美のパパだけど、血が繋がってないの。本当のパパは、ずっと外国に行ってたの。恵美は会ったことないから覚えてないけど、やっと帰ってきてくれたから、一緒に暮らすんだよ。ママが言ってた」
「……それ、本当なの?」
淡々とそう言う恵美に、沙織が聞き返す。
「うん。沙織ちゃんはパパの親戚だから、教えてあげる」
「この人……内山さん?」
沙織が写真に目を凝らして言った。小さくてよくわからないが、鷹緒でないなら内山だと思った。
恵美は尚も笑顔で頷く。
「そうだよ。知ってるの?」
「知ってるってほどじゃ……」
その時、牧が帰ってきた。
「ただいま。あら恵美ちゃん、いらっしゃい」
「牧ちゃん。こんばんは」
二人が挨拶を交わす。少なからず面識はある。
そんな二人のそばで、沙織は顔色を変えて考え込んでいた。
(恵美ちゃんの言っていることは本当なの? 鷹緒さんの娘じゃない……じゃあなに、鷹緒さんは、それを知っているの……?)
「沙織ちゃん、どうしたの?」
固まっている沙織に、恵美が尋ねる。沙織は慌てて我に返ると、硬い笑顔で首を振ることしか出来ない。
「ううん。なんでもないよ……」
「沙織ちゃん」
そこに、牧が声をかけた。
「は、はい」
「今、社長から連絡があって、もうすぐ着くそうだから。悪いけど私は先に帰るわね。会議室に、すでに缶のお茶と軽食をセットしてあるから」
「わかりました」
「じゃあ、先に帰らせてもらうわね」
「お疲れさまでした」
牧は事務所を出ていった。
「ただいまー」
そこに、入れ違いで理恵が帰ってきた。すぐに恵美が駆け寄っていく。
「ママ!」
「ああ、恵美。待たせてごめんね……これから打ち合わせだから、もう少し待ってね」
「うん」
「ただいま」
そこに、広樹と二人の男女が入ってくる。
「理恵ちゃん、沙織ちゃん。週刊トゥインクルラックの赤城君と、SYテレビの水上さん。鷹緒ともよく組んでて、昔からの知り合いなんだ。今回、沙織ちゃんの記事を載せてくれるってことで、お呼びしたわけです」
「はじめまして。副社長でシンコン担当の石川です。彼女がうちから出す候補者の、小澤沙織です」
広樹の言葉を受け、理恵が沙織を紹介し、挨拶を交わした。
「よろしくお願いします」
「じゃあ、会議室へ行きましょう」
広樹は二人を案内して、奥の会議室へと入っていった。
「さて、じゃあ私たちも行きましょう。恵美、ここで静かに待っててね」
「わかってるよ」
理恵の言葉に頷くと、恵美はソファに座って本を読み始めた。
そこにもう二人入ってきた。鷹緒と、先日事務所を騒がせた、内山豪である。異様な組み合わせに、沙織は一瞬、息を呑む。
「パパ!」
その言葉に、沙織はハッとする。恵美が駆け寄ったのは、鷹緒の方だった。
「よう」
「よう!」
親しげに、鷹緒と恵美が挨拶を交わす。その後、恵美がじっと内山を見つめた。
「あの……」
少し恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに、恵美が内山に声をかける。
「何を照れてんだ、おまえは」
鷹緒は苦笑して、恵美の頭を軽く叩くと、会議室へと向かっていった。
残された理恵と内山と恵美だが、内山が恵美を抱き上げたことで、幸せそうな家族に見えた。沙織は静かに、会議室へと小走りで向かった。
「鷹緒。理恵ちゃんは?」
会議室に入って来た鷹緒に、広樹が尋ねる。
「外で話してる。すぐ来るよ」
そう言って、鷹緒も席に着いた。その後を、沙織がやってくる。
「あ、沙織ちゃんはこっちね」
広樹に促され、沙織は指定された席に着いた。その時、すぐに理恵と内山が入ってくる。
「これで全員だね。じゃあ、始めますか」