表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/125

53:嵐のあと

「沙織」

 しばらくして、鷹緒がベランダにいる沙織に声をかけた。

「悪いな。ずいぶん遅くなった……」

「ううん」

「飯、食いに行こう。ヒロがおごってくれるってさ」

「うん……」

 沙織は、鷹緒と広樹とともに、近くのレストランへと向かっていった。

「ビッグ・キャラメル・イチゴ&チョコレート・フルーツパフェでございます」

 ウェイトレスが、鷹緒に大きなパフェを差し出しながら言う。

「おまえ……その激甘党、なんとかしろよ」

 呆れ顔で広樹が言った。鷹緒は食事もそこそこに、大きなパフェを頼んだようだ。

「いいだろ。好きなんだから……甘いもん食べるのが、俺のストレス解消法なの」

「まったく……」

 そこで広樹は、元気のない沙織に気がついた。

「どうしたの? 沙織ちゃん」

「あ、いえ……」

 沙織は小さく首を振って、苦笑する。広樹も静かに口を開く。

「さっきの、びっくりしちゃったよね……ごめんね」

「いえ、べつに。広樹さんが悪いわけじゃないし……」

「まあ、ね……」

 沙織と広樹は、黙々とパフェを食べている鷹緒を見た。二人の視線に気付き、鷹緒は顔を上げる。

「……なんだよ?」

「いや……」

 広樹の反応に、沙織はこのことには触れてはいけないのだと思った。

「……沙織、まだ飯食ってんのかよ。俺、もうすぐデザートも食い終わるぞ」

 小さく苦笑しながら、鷹緒が言う。その顔は、いつもの鷹緒である。


 しばらくして食事を終えた鷹緒は、広樹と分かれ、沙織とともにマンションへと戻っていった。

「今日は待たせて悪かったな。明日は俺、早いから送れないけど、頑張れよ。二次審査、今週だろ?」

 部屋のドアの前で、鷹緒が沙織にそう言う。

「うん……」

「じゃあな」

 まだ元気のない沙織を尻目に、鷹緒は自分の部屋へと入っていった。

「はあ……」

 沙織は溜息をつくと、自分の部屋へと入る。鷹緒と内山、そして理恵や広樹に何があったのかわからないが、知りたいと思いつつ聞くことすら出来ない空気に、沙織は苛立ちすら覚えていた。


 鷹緒は、帰るとすぐにシャワーを浴び、ベッドに寝そべった。ついさっき内山を殴ったことが、頭から離れない。そしてそれを見ていた理恵や広樹の顔も、エンドレスに思い出される。

「……豪が帰ってきた……」

 ぼそっとそう言ったその時、家の電話が鳴ったので、鷹緒は受話器に手を伸ばす。

「はい」

『……』

 相手は何も言わない。鷹緒は首を傾げる。

「……もしもし?」

『……あ……』

 女性の声が聞こえた。鷹緒はピンときた。

「理恵か?」

 鷹緒が言った。すると、力のない声が聞こえてくる。

『……う……ん』

 電話の相手は理恵であった。

「……どうした?」

 少し苛立った様子で、しかし優しく、鷹緒が尋ねる。しかし鷹緒には、理恵がどうして電話をかけてきたのか、力のない声なのかがわかっていた。

「豪と何があった?」

 何も言わない理恵に、鷹緒が具体的に尋ねた。そんな鷹緒に、理恵が静かに口を開く。

『……ごめん。なんでもない』

「馬鹿か。何かあるなら言えよ……」

『ごめん、どうかしてた。鷹緒に言うことじゃなかった……ごめん』

 理恵の言葉に、鷹緒は静かに息を吐く。

「……俺だって、部外者じゃないぞ」

『うん。でも……』

「……もう、家か?」

『うん……』

「じゃあ、今からそっちに行く」

『……でも』

「おまえ、今、一人じゃないほうがいいよ」

 いつになく優しい鷹緒の言葉に、理恵が涙ぐむ。

『ごめん、鷹緒。ごめん……』

「もういいっての。支度したら、すぐ行くから……」

『うん……』

 鷹緒は電話を切ると、すぐに支度を始めた。


 沙織はリビングで、テレビを見ながらお茶を飲んでいた。しかし、ふとしたきっかけで、やはり内山が鷹緒たちとどういう関係なのかが気になる。

 沙織は意を決して、鷹緒に直接聞くことにして立ち上がった。そしてそのまま、リビングから繋がった鷹緒の部屋がどうなっているのか、ドアに耳を当ててみる。慌てて人が歩いているような、足音が聞こえた。

 沙織は思わずドアを開ける。

「鷹緒さん!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ