47:家族が揃う日
「なんだよ、その驚きようは」
「だ、だって……」
「まあ、子供雑誌ではあるけど、おまえも撮影現場に慣れておいた方がいいぞ?」
鷹緒の言葉に、沙織は頷く。
「うん……でも、いいの?」
「邪魔しなきゃな。じゃあ、牧。沙織連れて行ってくるから」
「はい。行ってらっしゃい」
牧に見送られ、鷹緒と沙織は事務所を出ていった。
「今日は車じゃないの?」
駅へ向かう鷹緒についていきながら、沙織が尋ねる。
「ああ。今日は時間がないから、身動きとりやすい電車。それに、先に俊二が俺の車に乗って行ってる」
そう言いながら、鷹緒は切符を二枚買うと、沙織にも渡して改札を通っていった。
「で、でも、本当に行っていいの? 理恵さんと、さっき分かれたばっかりなんだよ……?」
撮影現場には娘だけでなく理恵がいるということを、鷹緒が気付いてないのだと思って、思い切って沙織が言った。鷹緒が親子で揃う場面を、事情を知る沙織に会わせたくはないはずだと思った。
沙織の言葉に、鷹緒は苦笑する。
「ああ、だからか……わけのわからんやつだな。関係ないじゃん」
鷹緒はそう言いながら、やってきた電車に乗り込む。
「……鷹緒さんは、関係ないの?」
動き出した電車の中で、やっと言った沙織の言葉に、鷹緒は眉をしかめた。
「なに言ってんの?」
「え……?」
「俺もあっちも、それぞれプロとしてやってんだ。どんな事情があろうと、仕事は仕事だろ? 関係ないじゃん」
珍しく鷹緒が強い口調で言ったので、沙織はそれ以上、何も言えなくなってしまった。
「……ごめんなさい」
そんな沙織に、鷹緒は小さく溜息をついた。
「……まあ、やりにくいのは確かだけどな……」
そう言って苦笑する鷹緒に、沙織もやっと小さく微笑んだ。
「諸星さん」
撮影スタジオに着いた二人は、早速声をかけられた。雑誌の編集者である。
「おはようございます。遅くなりました」
鷹緒が言う。
「いいえ。こちらこそ、ご都合が悪い中、無理にお呼び立てしてすみません。それに、おたくの腕の良いお弟子さんが頑張ってくれてますよ」
撮影はすでに始まっていて、鷹緒の弟分である俊二がすでに撮影にかかっていた。今日はもとから鷹緒は遅れる予定だったので、前半は俊二ということも了承済みである。
「それはよかったです。キリのいいところで交代させてもらいます」
「ええ、お願いします。こちらのお嬢さんは?」
編集者が、沙織を見て尋ねた。すかさず鷹緒が口を開く。
「うちの新人の小澤沙織です。今度シンコンに出ることになりまして、撮影現場に慣れさせたくて……邪魔はさせませんので、隅にでも置いてやってください」
「そうでしたか、シンコンの……なるほど可愛いお嬢さんですね。うちのティーン向けファッション誌にも、ぜひ出てもらいたいなあ」
「機会があれば、是非お願いします」
鷹緒が、肘でつついて沙織を促す。
「小澤沙織です。よろしくお願いします」
すかさずお辞儀をして、沙織がそう言った。編集者は優しく微笑んで頷く。
「こちらこそ、よろしくお願いします。私はラムラブ編集者の河野です。諸星さんとは、もう結構長いつき合いになりますね。しかし、諸星さんが新人さんに親身になっているとは知りませんでしたよ」
「僕は誰にでも親身になってますよ」
笑って鷹緒がそう言った。
「あははは。それは失礼しました。小澤さん、ゆっくりしていってくださいね」
そう言うと、河野という編集者は別のところへ去っていった。
「鷹緒さん」
その時、俊二が声をかけた。
「おう、一段落着いた?」
鷹緒が尋ねる。
「はい。十五分休憩です」
「ご苦労さん。これ、カメラ」
「すみません……」
「いいよ。でも、もう自分のカメラ、忘れんなよ。後半は二人で一気にいくからな」
「はい」
「諸星さん!」
そこへ、そう言って女の子が駆け寄って来た。鷹緒と理恵の娘・恵美である。