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04:初仕事

 次の日。沙織は待ち合わせの時間に、昨日のタレント事務所へと向かった。

 事務所は朝にも関わらず、狭い室内に人でごった返している。沙織はしばらく、きょろきょろとその光景を見つめていた。

 するとそこに、鷹緒がやってきた。

「おはよう」

 鷹緒の言葉に、沙織が振り向く。

「お、おはようございます」

 仕事ということで、昨日から鷹緒に念を押されていたので、沙織が他人行儀で挨拶をする。

「おう。早いじゃん」

「約束は守ります」

「感心、感心」

 鷹緒が、そう言って沙織の肩を叩く。

「あ、諸星さん。お待ちかね!」

 すると、近くにいた数人の少女が、鷹緒に声をかけた。

「悪いね……全員揃ってる?」

「はい、います」

 少女たちが答える。

「じゃあ、先に行きますか」

「はーい」

 鷹緒の言葉に、そばにいた少女たちが、荷物を持って鷹緒についていく。

「沙織。おまえ、奥にいるスタッフの荷物持って、一緒について来て」

「はい」

 沙織は素直に返事をすると、事務所の奥にいるスタッフのもとへと向かっていった。

「諸星さん。あの子、誰ですか? やけに親しげじゃないですかー」

 そばに居た少女たちが、沙織の背中を見つめて言う。鷹緒は苦笑しながら歩き出した。

「ああ……親戚の子だよ」

「諸星さんの親戚? 姪とか、従兄弟とか?」

「従兄弟の娘。まあ、よく知らないよ。さて行こうか」

「はーい」

 一行は、そのまま近くのスタジオへと向かっていった。


 撮影が開始されたスタジオでは、少女モデルが次々にポーズを取っている。沙織は、鷹緒と話す間もなく、仕事に追われていた。

 沙織に与えられた仕事は、鷹緒のスタッフのアシスタントで、物を探したり、渡したり、磨いたり、買出しに行ったりする、いわば雑用であった。忙しかったが、スタジオの雰囲気が、新鮮で面白かった。


 数時間後。

「はい、これで終わります。お疲れさまです」

「お疲れさまでした」

 スタッフの声に、モデルたちが一斉に挨拶をした。

 残ったスタッフたちは、機材を片付け始める。その中で、鷹緒は一人、隅の机でパソコンをいじっている。そんな鷹緒を見ながら、沙織も片付けに入った。

 するとそこに、広樹が現れた。

「あれ、また終わっちゃったか」

「遅いですよ、ヒロさん」

 スタッフの一人が、広樹にそう声をかける。

「悪いねえ……鷹緒は?」

「仕事フルモードですよ」

「そっか。じゃあ、今は話しかけない方がいいな」

「そうっすね」

 広樹は沙織と目が合って、沙織に近付いた。

「沙織ちゃん、お疲れさま」

「お疲れさまです」

 沙織が会釈をして答える。広樹は頷きながら、言葉を続けた。

「どう? 大変だったでしょう」

「はい。写真の撮影も、結構時間がかかるんですね……」

「うん。でも、鷹緒はスピーディーで有名でね。早い方なんだよ」

「へえ……」

「社長。片付け終わりました」

 スタッフが言った。

「オーケー。じゃあ、我々も事務所に戻りますか」

 広樹が言う。その言葉に、沙織は広樹を見つめる。

「あの……鷹緒さんは?」

「あいつは、まだ仕事中。今撮った写真を加工するまでが、今日のあいつの仕事だからね。パソコンの前に座ったら、テコでも動かないよ。それより、みんなでご飯でも食べに行こうよ」

「は、はい」

 広樹の誘いに、とっさに沙織が頷く。

「鷹緒! 僕たち、事務所に戻るからな」

 広樹が、鷹緒に向かってそう叫んだ。

「んー……」

 生返事で、鷹緒が返事する。

「いつもああなんだ。さあ、一旦事務所へ戻ろう」

 苦笑する広樹とともに、スタッフたちは仕事中の鷹緒を残して去っていく。沙織は広樹やスタッフたちと事務所へ戻り、そのまま食事へと出かけた。


「へえ。沙織ちゃんって、まだ十六歳なんだ? 若いなあ」

 食事をしながら、スタッフたちが沙織に言う。みんな気さくな人ばかりで、沙織もすぐに打ち解けていた。沙織は首を振りながら返事をする。

「でもみなさんとも、そんなに年離れてないですよね?」

「そうはいっても、ここにいるのはみんな二十代だからね。十代は遠いよ」

「へえ……」

「社長って、二十九でしたっけ。鷹緒さんもそうですよね?」

 するとスタッフの一人が、広樹にそう尋ねた。

「うん、同じ年」

 広樹が答える。その話題に、沙織も興味をそそられた。身を乗り出して広樹を見つめる。

「そうなんですか? 社長さんと鷹緒さんが?」

「まあね……仕事でずっとかち合ってて、腐れ縁ってやつだよ」

「そういえば鷹緒さん、まだですかね。大丈夫かな? 前、スタジオでぶっ倒れてましたよね」

「え、そうなんですか?」

 スタッフの言葉に、驚いて沙織が尋ねる。

「ああ、そんなこともあったよな……でも、あの時はめちゃくちゃ忙しくて、徹夜漬けだった時だろ? 心配いらないって」

 その時、広樹の携帯電話が鳴った。

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