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「ああ。それより、これから打ち上げがあるらしいんだけど、おまえも来るか?」

「え!」

 鷹緒の言葉に、沙織は目を丸くする。

「近くのスタジオスペースで、軽くやるだけみたいだけど」

「行く行く。もちろん行く!」

「オーケー。じゃあ……」

 その時、鷹緒の携帯電話が鳴った。

「ああ、悪い……」

 鷹緒は車に寄りかかって、電話に出た。

「はい。ああ……どうした?」

 沙織はそんな鷹緒を見ながら、車から出た。楽屋口は孤立しているのでファンの子はいないが、スタッフたちが忙しく搬出をしている。

「……誰かいないのか?」

 少し深刻と見られる鷹緒の電話に、沙織は写真集を眺めながら時間を潰す。

「わかった。じゃあ今から行くから……ここからなら、そんなに時間もかからないはずだから……ああ、わかった」

 鷹緒は電話を切った。

「沙織、ごめん。俺、急用が入って……」

「えー」

 不満気だが切実な目で、沙織が鷹緒を見つめる。鷹緒もいつになく困った様子だ。

「悪い……よければ一人で行けよ。話はしておくから」

「やだよ。鷹緒さんがいないなら……」

 沙織が正直に言った。いくら好きな歌手と一緒に居られても、誰も知らないところへ一人で入るのには勇気がいる。

「……じゃあ、帰るか?」

「んー……」

 残念そうに、沙織が俯く。

「あれ、まだ行ってなかったんですか?」

 その時、BBのメンバーであるアキラが声をかけた。

「ああ。悪いんだけど俺、急用が入って……」

 すまなそうに、鷹緒が言う。

「ええ、そんな……」

「悪いけど……」

「どうしたの?」

 そこへ残りのBBメンバーが全員出てきた。

「諸星さん。今日はありがとうございました」

「いい写真、たくさん撮ってくれました?」

 リュウとセンジが言う。

「うん。それはバッチリ。でも悪いんだけど、急用入っちゃって、打ち上げには出られそうにないんだ……」

 鷹緒の言葉に、一同が残念がった。

「そうですか。ゆっくり話がしたかったんですけど……」

「本当にごめんな……」

 鷹緒の言葉に、ユウが沙織を見つめる。

「まあ、仕方ないですよ。後日また集まる機会もありますし……沙織ちゃんも一緒に帰るの? 同じ用事?」

 ユウが尋ねる。

「あ、いえ……」

「そうなんだ。もしよければ、沙織ちゃんだけでも来ない? ファンの意見を間近で聞けるチャンスだし、もちろん帰りはタクシーなりで送り届けるよ」

「で、でも……」

 ユウの言葉に、鷹緒が沙織を見つめた。

「行ってきたら?」

「……鷹緒さんは?」

「俺は急用が出来たんだって……願ってもないチャンスじゃん。楽しんでこいよ」

 軽く鷹緒がそう言う。

「おい、もう行くよ」

 そこへ声をかけたのは、BBのマネージャーである。

「はい。どうする? 沙織ちゃん。やっぱり諸星さんが一緒じゃないと、心細いかな」

 ユウがそう言っていると、マネージャーが駆け寄ってきた。

「どうかしたの?」

「ああ、彼、僕らのマネージャー。諸星さんが打ち上げに来られなくなっちゃったんだけど、沙織ちゃんは迷ってるんだ。未成年だし、マネージャーが責任持って面倒見るって約束してやってよ。そうじゃなきゃ沙織ちゃんも来づらいし、諸星さんも不安でしょ」

 ユウの言葉に、マネージャーが事態を察して頷く。

「そういうことなら僕は大丈夫ですよ。家まで送り届ければいいんですよね? じゃあ、せっかくなんで一緒に行きましょうよ。バスに乗ってください」

 マネージャーの言葉に、沙織は鷹緒を見つめる。

「よかったな、行ってこいよ。終わったら電話しろよ」

 沙織の背中を軽く叩き、鷹緒が言う。

「……本当に行っていいの?」

「ああ。でも、ハメは外すなよ」

「外さないよ。じゃあ……行くからね?」

 まだ不安げながらも沙織がそう言った。鷹緒がいなくとも、行きたい気持ちが強まっている。

「ああ。楽しんでこいよ」

 鷹緒がそう返事をすると、沙織はBBのメンバーに囲まれ、移動用のマイクロバスへと乗り込んでいった。鷹緒はそれを見届けると、車に乗って去っていった。


「諸星さん、急用って、仕事かなあ?」

 バスの中で、アキラが言う。

「さあ。案外、彼女のわがままとかじゃないの? あの人、モテるでしょ」

 センジが、沙織に言った。沙織は緊張しながら口を開く。

「さ、さあ。彼女とかは聞いたことないですけど……」

「へえ。硬派っぽいもんね、あの人」

「でも、残念だなあ。ゆっくり話したかったのに」

 ユウが独り言のように呟いた。

「俺も。あの人の腕、やっぱ並みじゃないよ。さっき軽く撮ったっていうリハの写真見せてもらったけど、超カッコイイんだ! もちろんプロ意識も高いし、初めて撮ってもらった時、すごく気持ちがよくてさあ」

「わかるわかる」

 BBのメンバーは全員、鷹緒のカメラマンとしての腕に惚れていた。コンサートが終わったばかりだが疲れた様子もなく、BBのメンバーは気さくに話を盛り上げる。

「沙織ちゃん、そんなに緊張しなくて大丈夫だって。君も正式にモデルになったんでしょ? じゃあ、同じような業界じゃない。俺らのファンってことは嬉しいけどさ」

 笑いながら、リュウが沙織にそう言った。沙織は少し慣れてきた様子で、笑顔で応える。

「はい。ありがとうございます」

 一行は、打ち上げ会場へと向かっていった。


 車を飛ばして鷹緒が向かったのは、都内のとあるマンションだった。鷹緒はそこの一室のインターホンを鳴らす。

「はい」

 出てきたのは、小さな女の子であった。

「パパ!」

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