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38:コンサート

 早目にコンサート会場へと向かった沙織だが、すでに客が列をなしている。沙織はきょろきょろと見回した後、鷹緒の携帯電話に電話をかけた。

『はい』

 少しして、鷹緒の声が聞こえる。

「沙織です。今、会場に着いたんですけど……」

『あ、そう。今どのへん?』

「人が並んでるところにいる」

『じゃあ、裏まで来てくれよ。楽屋口に出てるから』

「はい」

 沙織は電話を切ると、コンサート会場の裏へと回っていった。


 しばらく歩くと、楽屋口の文字が見える。その近くに、鷹緒が立っていた。

「鷹緒さん!」

 沙織が駆け寄る。

「おう、早かったな」

「もちろん。BBに会えるんだもん!」

「あっそ……じゃあ、これ着けて」

 そう言って、鷹緒はバックステージパスを沙織に渡した。

「うわ、すごい!」

「それがないと入れないだけだよ。来いよ」

 沙織は緊張した面持ちで、鷹緒の後をついていく。しばらく行くと、とあるドアに「BB様」と書かれている部屋があった。鷹緒は躊躇わず、ドアをノックした。

「どうぞ」

 そんな声が聞こえ、鷹緒はドアを開ける。

「諸星さん。あ、沙織ちゃん、来てくれたんだね! 久しぶりです。わざわざ来てくれてありがとう」

 気さくに話しかけたのは、BBのリーダー・ユウである。後から他のメンバーたちも集まってくる。

「あ、あの……」

 緊張のし過ぎで、沙織は言葉を失った。

「なんだよ、おまえ。緊張して声も出ないのか?」

 笑いながら鷹緒が言う。

「あはは、おかしいな。諸星さんの親戚なら、僕らだけじゃなくて他の芸能人にも会ったりするんじゃないんですか?」

 ユウが言う。

「遠い親戚なだけだよ。こいつ、正式にうちの専属モデルになったんで、一応よろしく」

「マジですか。可愛いもんなあ、頑張ってね」

 鷹緒の言葉に、メンバーたちが、口々に言った。

 沙織は緊張しながらも、やっとのことで口を開く。

「は、はい。ありがとうございます。あの……今日は本当に、お会い出来て嬉しいです!」

「いいんだよ。僕ら、諸星さんには本当にお世話になっててね。仕事の姿勢とかも尊敬してるし。そんな人の親戚だもん。僕らのファンだって言ってくれてるわけだし、大事にしますって」

 笑顔で、ユウが言う。

「ありがとうございます……」

「失礼します。最終打ち合わせしますんで、練習室までお願いします」

 そこに、スタッフの一人が来てそう言った。

「はい。じゃあコンサート開始まではまだ時間があるんで、ゆっくりしていってね。諸星さん、写真の方お願いします」

 ユウはそう言って、他のメンバーたちと部屋を出ていった。

「……緊張した……」

 ぼそっと、沙織が言った。そんな沙織に、鷹緒は静かに微笑む。

「ふうん? じゃあ、ちょっとお茶でもするか」

 鷹緒はそう言って、沙織を連れて楽屋ロビーへと向かっていった。自動販売機でジュースを買うと、沙織に差し出す。そして椅子に座って、缶コーヒーを飲んだ。

「……今日はどんな仕事なの?」

 横目で鷹緒を見ながら、沙織が尋ねる。

「コンサート写真を撮る仕事」

「そのままだね……」

「まあな。俺もそろそろスタンバイ入るから、客席行けよ。そろそろ開場時間だろう」

「うん。ありがとう、鷹緒さん」

「ああ」

 そう言うと、鷹緒は沙織を楽屋口まで送っていった。

「鷹緒さん、終わったら会えない?」

 真っ直ぐに鷹緒を見つめて、沙織が尋ねた。

「え……まあ、会えないこともないけど」

「一人で帰るの、嫌なんだけど……」

「……わかったよ。送りゃあいいんだろ?」

 面倒臭そうに、しかし優しい瞳で、鷹緒がそう言った。沙織も自分の強引な言葉に、苦笑して頷く。

「ごめんなさい」

「まあ、遅くなるしな……じゃあ終わったら、車で待っててくれよ。そこに停めてあるから」

 鷹緒はそう言って、楽屋口のそばにある駐車場を指差し、車の鍵を沙織に渡した。

「うん!」

「じゃあ、後でな」

 鷹緒は楽屋口へと戻っていき、沙織は客席へと向かっていった。


 熱狂の渦の中、BBのコンサートが始まった。男性歌手グループのBBは、リーダーのユウを筆頭に、センジ、リュウ、アキラの四人組ユニットである。熱狂的なファンの中で、沙織も負けじと四人を応援した。


 コンサート終了後。沙織は言われた通り、鷹緒の車へと乗り込んだ。まだ夢から醒めない様子の沙織は、会場で売っていたBBの写真集を見ながら微笑む。

「悪い。待たせたな」

 しばらくして、鷹緒がドアを開けて言った。

「あ、ううん……」

「なんだ、まだ余韻に浸ってるのか?」

「だって……あ、もう仕事終わったの?」

「ああ。それより、これから打ち上げがあるらしいんだけど、おまえも来るか?」

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