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36:契約の日

「もう一つお話があるのですが……」

 広樹はそう言って、シンデレラコンテストの募集チラシを差し出した。

「シンコン……」

 ぼそっと沙織がそう言った。沙織でも知っている、有名なコンテストだ。

「そう、全日本・ミス・シンデレラコンテスト。略してシンコン。実は沙織ちゃんさえよければ、シンコンに出てもらいたいんです」

「ええ、私が? 無理です!」

 すかさず沙織が言う。予想通りの反応といったように、広樹が笑う。

「あはは。そう言うと思った。でも聞いてよ。僕は今回、グランプリまでいけるモデルを探しているんだ。伊達に君を選んだわけじゃないし、その点では自信を持ってるよ。シンコンは全国から美少女を募るわけだけど、もし沙織ちゃんが受けてくれるなら、少しトレーニングを兼ねた体づくりの訓練を積んでもらうつもりだよ。ハードにはなると思うけど、基礎的な部分もしっかりやっていくし、事務所の全面的バックアップでフォローするつもりなんだけど……どうかな?」

「……無理だと思います……」

 俯いて沙織が言った。

「そうかなあ。まあ、そんなに重く受け止める必要はないんだよ。君は本当、これから磨いていくべき人なんだから、自信なんてなくて当然だし」

「あ、鷹緒さん。おかえりなさい」

 その時、事務所の入口からそんな声が聞こえ、一同は振り向いた。

「ただいま」

 鷹緒はそう言って、広樹のもとへと向かう。

「おかえり」

「ああ、もう済んだ?」

 広樹の言葉を受け、鷹緒が沙織たちを見て言った。

「ああ。今、シンコンの話をしてたところ」

「その様子じゃ、フラれそうだな」

「おまえなあ……おまえこそ、早かったな。シンコンの打ち合わせだろ?」

「ああ、すぐ終わったよ」

 息を切らしながら、鷹緒は広樹の隣に座る。

「あの……シンコンの打ち合わせって、鷹緒さんも何かやるんですか?」

 鷹緒と広樹を交互に見ながら、沙織が尋ねた。

「うん、三次審査のカメラマン。カメラテストだよ。まあ、沙織がシンコンの依頼を受けて、万が一、三次まで残るんだったら、俺がグランプリまで後押ししてやってもいいけどね……三次まで残るかが問題だな」

 鷹緒の言葉に沙織は揺れた。意地悪な言葉も耳に入らない。

「へえ。鷹緒さんが、カメラマン……」

 急に沙織は、シンコンをやってみたくなった。もし三次まで行けば鷹緒がいる。妙な安心感が、沙織を包む。

「……やってみてもいい?」

 母親を見て、沙織が言った。母親も少し心配そうに戸惑っている。

「でも、本当に大丈夫なのかしら……」

「まあ、全国規模のコンテストはたくさんあるからね。最初からシンコンじゃなくたっていいけど、たまたまこの時期だから……よければ出てみたら? 全部事務所持ちだから、タダでスポーツジムやエステに行けるよ」

 戸惑っている二人に、鷹緒が軽くそう言った。

「た、鷹緒さんも、フォローしてくれるなら……やってみようかな……」

 静かに沙織が言った。その言葉に、広樹は笑顔で鷹緒を見る。

「本当? もちろんだよな、鷹緒」

「まあ、俺に出来ることならな……」

「オーケー、決まりだ! ありがとう、沙織ちゃん。よろしく頼むよ」

 広樹はそう言って、沙織と母親に握手をした。

「よかったな。じゃあ俺、テレビ局に行ってくる」

 鷹緒はそれを見届けると、すぐに立ち上がってそう言った。

「ああ、まだ打ち合わせがあったか」

「うん。じゃ、これからよろしく。行ってきます」

 鷹緒はそう言って、慌しく事務所を後にした。

「忙しそうね、鷹ちゃん……」

 沙織の母親がそう呟く。

「ハハハ。でも契約が気になって、すっ飛んで帰ってきたんでしょうね……鷹緒は大成して、事務所としても、本当にあいつのおかげでやってきたんです。さあ、契約のお礼は今度鷹緒にしてもらうとして、今日はこの辺で終わりましょうか」

 広樹の言葉に、沙織と母親は同時に頷く。

「はい」

「今後のことは、これからスケジュールを立てます。まだ学生さんだし無理は言いませんが、出来るだけ週末は事務所に来てもらうことになります。雑誌の撮影も、大抵週末ですから。あとはまた学校帰りの暇な時にでも来てもらえれば、新設モデル部署の人間が、モデルとしてのノウハウをお教えしますので」

「わかりました。では、とりあえず週末に伺わせます」

 母親が答える。

「お願いします。今日は本当にありがとうございました」

 広樹はそう言って、沙織と母親を見送った。

 沙織はまだどうしていいのかわからなかったが、ワクワク感が包み、決意を固めた。少しでも、鷹緒のそばにいたいと思った。

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