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33:誘われて…

「なに?」

 怪訝な顔をして、鷹緒が尋ねる。沙織は尚も手を差し出して、口を開いた。

「私にも、名刺ちょうだいよ」

「なんでだよ。おまえはもう、事務所の住所知ってんだろ?」

「知らないもん」

「ったく、ほら」

 鷹緒が、沙織に名刺を渡す。

「わあ。ちゃんとした名刺だ」

「当たり前だろ。じゃ、そういうことで、お邪魔しました」

 そう言うと、鷹緒は広樹とともに、沙織の家を後にした。


「それで、沙織はどうしたいの?」

 リビングに戻った沙織は、母親の問いかけに俯く。

「わかんないよ……やってみたいって気持ちはあるよ。私、お母さんの子だからミーハーだし」

「なによ、その言い草は……」

 母親が苦笑する。

「でも、私で出来るのかなって、不安も大きい……」

「あんたの将来なんだから、あんたが決めなさい。私はどっちでもいいわよ。あんたにやりたいことが出来るなら大賛成よ。趣味の一つもないんだから」

「放っといてよ……」

 沙織はそう言うと、紙袋からファンレターを取り出した。

「本当にファンレターだ……なんか信じられないな」

 手紙を読みながら、沙織が言った。手紙には、沙織に憧れを抱いた少女からの文章が連ねられている。

 それを横で読みながら、母親も驚いて口を開く。

「本当、すごいじゃない」

「……どうしよう」

「まあ、よく考えて決めなさい。あんたはまだ高校生なんだし、そう焦る必要はないと思うけどね……でも、今しか出来ないこともあると思うし、本当にやりたいと思うなら、お母さんはやってもいいと思うわよ」

「うん……」

 沙織は小さく頷いて、すべてのファンレターを読んでいった。



 数日後。沙織はまだ決心出来ず、相談しようと鷹緒の携帯電話に電話をかけた。しかし、留守番電話に繋がる。沙織は少しためらった後、鷹緒の事務所へと電話を入れた。するとすぐに、牧の声が聞こえる。

「あ、あの……小澤沙織です。牧さんですか?」

『ああ、沙織ちゃん。どうしたの?』

「突然すみません。あの……鷹緒さんはいますか?」

 牧が電話に出たことで、少しホッとしながら沙織が尋ねた。

『ううん。鷹緒さん、今日は午後からオフなのよ。帰って仕事するって言ってたから、自宅にはいると思うけど』

「そうですか……わかりました。ありがとうございます」

『ううん。あ、またファンレター届いてるのよ。今度取りに来て』

「え、またですか? はい……じゃあ、今度。失礼します」

 沙織は電話を切った。すると、すぐに電話が鳴る。

「わあ!」

 思わず沙織が驚いた。見ると着信画面には、鷹緒の名前が浮かんでいる。沙織はすぐに電話に出た

「はい!」

『あ、悪い。気付かなくて……電話くれたか?』

 鷹緒の声が聞こえる。

「うん。今、事務所に鷹緒さんいるか聞いてたの。ちょっと相談したいことがあって……」

『ああ、モデルのこと?』

 見透かすように、鷹緒が言った。

「う、うん……今、家にいるの?」

『ああ。おまえは?』

「まだ学校の近くなんだけど……」

『そう。俺、仕事やってて、もう少しかかりそうなんだけど……それでよければ、どっか出るけど?』

「じゃあ、私がそっち行く……駄目?」

 勢いながらも、勇気を振り絞って、沙織が言った。

『こっちって、俺んち?』

「うん。駄目か……」

 苦笑して、沙織が言う。

『べつにいいけど……場所わかるか?』

 軽く了解を得たことで、少し緊張気味だった沙織は、拍子抜けした。

「う、うん、多分……」

『駅さえ間違わなきゃ、すぐわかるよ。じゃあ家にいるから……あ、途中で煙草買って来て。いつもの』

「はーい。じゃあ、後でね」

 そう言って、沙織は電話を切る。また鷹緒の家に行けることが嬉しかった。

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