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31:二人の関係

「元夫婦だけど、今は全然関係ないのよ。牧ちゃんとか数人以外は、事務所の人も知らないし。バレたっていいんだけれど、お互いやりにくいし、黙っていてね」

 理恵が苦笑して言った。沙織は二人を交互に見つめながら、口を開く。

「……お二人、同じ事務所で働くってことですか?」

「まあそうだけど、本当に私たちはもう赤の他人って感じだから……特に意味はないのよ」

 黙ったままの鷹緒に反し、理恵が答える。そこに、牧がお茶を持ってやってきた。

「お待たせしました」

「ありがとう」

 一同は、お茶を飲み始める。するとそこに、広樹がやってきた。

「おお、大分片付いたじゃない」

「ヒロさん、遅いですよ。男手はスタジオの方に、最後の搬出に行ってます」

 牧が言った。広樹は新しい事務所を満足げに見回し、微笑む。

「そう。あとは小物ダンボールだけかな?」

「そうだと思います」

「うん、事務所らしくなってきたな。あ、牧ちゃん。沙織ちゃんのファンレターがどこにあるか知ってる?」

「まだ届いてないと思います。小物の中だから」

「そっか……」

「なんだ? 沙織のファンレターって……」

 二人の会話に、鷹緒が尋ねる。

「ほら、沙織ちゃんにキャンディスでモデルしてもらった時の反響が思ったより大きくて、今でも問い合わせの電話がくるって、キャンディスの事務所が言ってたよ。ファンレターも、まとめて送られてきてね」

「へえ……」

「僕は、なんとか沙織ちゃんにモデル続けてほしいんだけどさ……」

 広樹の言葉に、沙織が首を振って俯く。

「でも私、今でもすごく恥ずかしくて……」

「まあ、ファンレター読めば気持ちが変わるかもよ? もう少しで届くから、待っててよ」

「あ、いえ……私、もう失礼します」

 沙織が立ち上がって言った。なんとなく、その場に居づらい雰囲気があった。それは意識している鷹緒と、鷹緒の前妻が一緒にいるということに違いない。

「え? でも」

「すみません。じゃあ……」

「……じゃあ、俺ももう行くよ」

 鷹緒もそう言って、立ち上がる。

「おまえ、今日は会議か何かだっけ?」

「ああ、BBの事務所。じゃあ、お先。行くぞ、沙織」

 鷹緒はそう言って、一瞬、沙織の肩を抱いた。

「え? う、うん……失礼します」

 一瞬だが肩を抱かれ、沙織の胸は緊張して高鳴る。やっとのことで挨拶すると、鷹緒とともに事務所を出ていった。


「な、なによ、鷹緒さん」

 外へ連れ出す鷹緒に、沙織が言った。

「べつに?」

「え? 何か意味があって、連れ出したんじゃないの?」

「いや。おまえが帰るっていうから、空気が変わったろ? 俺も出ようと思ってたから、ついでにな」

「なんだ……本当に?」

「他に何があるんだよ。じゃあ俺、あっちだから」

「うん……」

「じゃあな」

 鷹緒はいつものようにそっけなく、別の方向へと去っていった。

「なんだ。本当に、何もないんだ……」

 沙織は少し残念そうに、家へと戻っていった。


 数時間後、家へ帰った沙織は、ベッドに寝そべりながら目を瞑る。思い出されるのは、鷹緒と理恵の姿ばかりだ。今でもお似合いのカップルといった二人は、離婚したとはいえ、お互いが通じ合っているように感じた。

「しんどい……」

 沙織はそう言って、大きな溜息をついた。

 その時、沙織の携帯電話が鳴った。見ると、広樹かららしい。多分、仕事の件だろう。しかし今の沙織は、鷹緒と理恵が一緒にいる姿など、見たくはなかった。

 しばらくすると、電話のベルが切れた。

「もうやだ……なんで気になるんだろ。鷹緒さんなんか……」

 沙織は枕に顔を押し当てる。鷹緒を好きなことを認めたくはなかった。親戚という微妙な立場のため、親に相談することも出来ないと思った。

 その時、沙織の部屋のドアがノックされた。

「沙織」

 母親の声が聞こえる。

「もう寝てまーす……」

 そのままの状態で、沙織が言う。今は何をする気にもなれない。

「なに言ってんの。鷹ちゃん、来てるわよ」

「ええ!」

 それを聞いて、沙織は飛び上がるように起き上がった。

「下で待ってるから、下りてらっしゃい」

「は、はーい……」

 沙織は慌てて、鏡の前に走った。

「どうしよう、どうしよう……」

 身だしなみを整えて、沙織は鏡を見つめる。

「落ち着け……よし!」

 沙織は一人そう言うと、リビングへと向かっていった。

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