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29:偶然の街角

「鷹緒さん!」

 驚いて、思わず沙織が叫んだ。

「おう、久しぶりだな。学校帰り?」

「うん……あ、友達の朋子です。この人は、親戚の鷹緒さん」

「ああ、カメラマンの!」

 朋子が言った。沙織がモデルをした時に、鷹緒の話は少なからず出ている。

「どうも」

 朋子に向かい、鷹緒がぺこりとお辞儀をした。そんな鷹緒に、沙織が口を開く。

「鷹緒さん、仕事?」

 沙織がそう言ったのは、鷹緒が肩から大きなカメラを提げているからだ。

「いや、オフ」

「でも、カメラ……」

「オフは仕事抜きで写真撮ってるんだよ」

「へえ。本当に写真が好きなんだね」

「まあな……」

「沙織」

 その時、二人の会話を打ち消すように、朋子が声をかけた。

「あ、ごめん、朋子」

 長話してしまったことを、沙織が謝る。

「ううん。いいの、いいの。でも私、これからバイトだから、そろそろ行くね」

「あ、うん。ごめん」

「ううん。じゃあ、また明日ね」

 朋子はそう言って、その場から去っていった。

「……じゃあ、俺ももう行くよ」

 残された沙織に、鷹緒が言った。

「え? せっかく会えたのに……」

 思わず沙織が言う。鷹緒は小さく微笑むと、辺りを見回した。目の前には喫茶店がある。

「じゃあ、茶でも飲む?」

「うん!」

 二人はそのまま、近くの喫茶店へと入っていった。


「本当にびっくりした。こんなところで鷹緒さんに会えるなんて、思ってもみなかった」

 喫茶店で紅茶を飲みながら、沙織が言った。

 先日、鷹緒が結婚していたという事実を知ってからは会っていない。別れ際の態度に、気まずさで事務所にも寄れなかったが、目の前の鷹緒は前と変わらず、笑みさえ浮かべてコーヒーを飲んでいる。そんな鷹緒に、沙織も元通りに笑いかける。

「それは俺もだよ。そうだ、おまえ、BBのファンだったよな? 写真集、欲しいならやるぞ」

「え、本当? 嬉しい!」

「ミーハーな彼氏の分も必要か?」

「あー……」

 鷹緒の言葉に、沙織はバツが悪そうに俯いた。

「どうした?」

「うん……別れたんだ。篤とは」

「……へえ。それはそれは」

 鷹緒はそう言いながらコーヒーをすすり、もう一度口を開く。

「まあ、いいんじゃねえの? どうせおまえ、本当の恋なんてしたことないんだろ?」

「そっ、そんなことないよ!」

 俯いていた沙織は顔を上げ、ムキになって反論する。

「へえ? じゃあ、その元彼クンとは、胸が張り裂けるような、激しい恋愛してたんだ?」

 意地悪気にそういう鷹緒に、沙織はムッとした顔を見せた。反論出来ない沙織に、鷹緒が続ける。

「そらみろ。おまえら十代の恋愛なんて、くっついたり離れたり、忙しない一時の感情に任せての恋愛だろ? そういうのは、恋愛とは言わないの」

「もう、誰のせいで別れたと思って……」

「……俺のせい? まさか、あの時のことが原因で?」

 驚いてコーヒーカップを置きながら、鷹緒が尋ねた。

「ううん。それだけじゃないけど……まあ、もういいの。バイトでもして、新しい彼氏見つけるわ……」

 反論出来ない沙織が、諦め顔で笑って言う。

「バイト?」

「うん。さっきトモが言ってたの。新しい出会いは、バイトだって」

「……出会いはないかもしれないけど、バイト探してるなら、うちの事務所手伝えよ」

 鷹緒が言った。

「なによ。手伝えよって……」

「ミーハーなおまえに合ってる」

 その言葉に、沙織は赤くなる。

「そりゃあ、ミーハーだけどさ……」

「まあ考えといて。今、ちょっとゴタゴタしてて忙しいのに、バイト募集してる暇もないんだ」

「へえ。繁盛してるんだ」

「まあな……じゃ、そろそろ行くよ」

「うん……」

 二人は喫茶店を出て、別々の方向へと分かれた。



 数日後。学校帰りの沙織は、久々に鷹緒の事務所へと向かった。

「あれ?」

 しかし事務所に家具はなく、空の状態である。

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