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28:再会の夜

 その夜。鷹緒は家に帰ると、買ってきたコンビニの弁当で夕食を済ませる。その時、インターホンが鳴った。モニターに映ったのは、広樹の姿である。

「よっ」

 部屋までやってきた広樹は、そう言ってワインを片手に上がり込む。

「珍しいな。おまえが来るなんて」

「仕事以外じゃ、そうだな。なんだ、またコンビニ弁当で済ませてるのか?」

 テーブルに広げられた鷹緒の夕食を見て、広樹が言う。

「いいんだよ。自分で作るより、コンビニの方が遥かにバランス取れてるから」

「おまえ、料理やらないもんなあ……あ、おでんと焼き鳥も買ってきたぞ」

「ああ。今、グラス出すよ」

 鷹緒はそう言って、キッチンへと向かった。

 残された広樹は、マガジンラックに入った雑誌を取り出した。表紙には、鷹緒の前妻、理恵が写っている。

「……どうだった? 久々の再会は……」

 広樹が尋ねる。鷹緒は苦笑して、口を開く。

「なんだ、そんなことで来たのか? 俺は大丈夫だよ。変に気を使うの、やめてくれよ」

「……おまえが本当に吹っ切ってるなら、気なんか使わないさ」

「どういう意味だよ」

 グラスをテーブルに置き、鷹緒は広樹の前に座った。

「こんな古い雑誌、こんなところに置いてるんだ……僕はおまえが吹っ切ってるなんて思ってないよ。理恵ちゃんと別れてから、恋人だって作ってないじゃないか」

 広樹はそう言いながら、グラスにワインを注いだ。鷹緒は苦笑しながら、雑誌をマガジンラックへ戻す。

「……こんなバツイチのオッサンに、恋人なんか出来るわけないだろ?」

 はぐらかすように、笑いながら鷹緒が言う。

「そんなわけないだろ。切るか切られるかの世界で、おまえは写真家として大成してる。写真だけじゃなくて、今は何もかも順調だ。そんなおまえに言い寄る女は、いくらでもいるんだぞ? それをおまえは……」

「何が言いたいんだよ、ヒロ……俺はな、ただもう面倒くさいだけなんだよ。愛だの恋だの、そんなもんはとっくに経験してんだよ。ったく、俺のことは放っておけよ。おまえだって、大した経験ないくせに」

 ワインを飲みながら、強い口調で鷹緒が言った。広樹は小さく息を吐くと、真剣に鷹緒を見つめる。

「僕はモテないだけなんだよ。鷹緒……僕は心配してるんだ。これから嫌でも、理恵ちゃんと顔を合わせることになるんだ。おまえ、やってくれるか?」

「やるもやらないも……社長のおまえが決めたことだ。社員として、俺は従うほかないよ」

「鷹緒……」

「それにおまえ、誤解してるぞ? 確かに理恵とはほとんど会ってないけど、恵美とは何度も会ってるんだ。接点がなくなったわけじゃないし、俺はとっくに終わったものだと思ってる。本当だよ」

 鷹緒がそう言った。

 広樹は今後、理恵が事務所に関わるということで、鷹緒がどうなるか心配していた。それは、鷹緒が理恵と別れてから、一度も恋に走らず、吹っ切れてないように見えていたからだ。

「おまえがそう言うならいいけど……正直、心配なんだ」

「なにを今更……まあ結婚当初から、俺とあいつは水と油だって言われてた。喧嘩もしょっちゅう……でも別れてまでお互いに干渉する関係ではないし、それに社長命令なら、うまくやっていきますよ」

 苦笑しながら、鷹緒が言った。

「そうか、それならいいんだ。よろしく頼むよ」

「ああ……」

 二人はその夜いろいろと語り合い、飲み明かした。



 数週間後。春の街並みを、沙織は友人の朋子と歩いていた。

「新学期が始まったのはいいけど、あんまり代わり映えしないね」

 朋子が言った。沙織は笑いながら頷く。

「確かに。トモとも、また同じクラスだしね」

「アハハ、腐れ縁ってやつ? でも、先輩とは本当に終わったの?」

 突然、朋子が沙織の彼氏である篤のことを尋ねた。その話題に、沙織は散りかけた桜の花びらを見つめながら、急にしんみりする。

「うん、もう連絡も取ってない……いいんだ。あっちは受験生だし、もう終わったの」

「そう……じゃあ、新しい恋しなくちゃね」

「うーん……」

「なに? 意味深だなあ。もう好きな人でもいるの?」

「えっ、そんなことないけど……」

「怪しい、その反応!」

「もう、トモってば」

 じゃれるように歩きながら、二人は笑った。そして朋子が、切り替えるように口を開く。

「じゃあ、バイトでもすれば? 私もこれからバイトなんだけど、バイト先にちょっといい人がいるんだ」

「バイトかあ。やりたいとは思うけど……」

「沙織?」

 そこへ突然、沙織を呼ぶ声があった。二人が振り向くと、そこには鷹緒がいる。

「鷹緒さん!」

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