25:ショック
「サンキュー」
鷹緒はコーヒーを受け取ると、まぶたを押さえた。大分、眠気は取れたようだが、だるそうにしている。
「あの、ごめんなさい。ついてきたりして……」
不機嫌な様子のままの鷹緒に、沙織が素直に謝る。鷹緒はコーヒーに口をつけると、軽く顔を掻いた。
「べつにいいけど……それで、何の用?」
「あ、あの、キャンディス見てびっくりしちゃって……」
「ああ、よく撮れてたろ?」
静かに笑って、鷹緒が言う。
「うん……でも、あんなに大々的に載るとは思ってなくて、びっくりした」
「まあ、メインページだから仕方ないだろ。何か問題でもあった?」
「ううん。ただ、学校ではちょっとした噂になっちゃって……」
「ハハ。よかったじゃん」
「よかったのかな?」
立ったままの沙織は、思い切って鷹緒の横に座った。鷹緒は何も言わず、ぼうっとしている。
「雑誌はおまえの家に、何部か届けてあるはずだから。あと、ヒロがおまえをモデルにってうるさいんだよ」
「うん、さっきも言われた。でも私、来年は受験生にもなるし……」
「なに? 興味ないんだ、モデルとか」
鷹緒が、意外そうに尋ねる。
「興味がないわけじゃないよ。正直、楽しかったけど……でもすごく緊張したし、仕事としては考えられなくて」
「ふうん? まあ、俺はどうでもいいけどな……」
「なにそれ、ひどい」
「だって、選ぶのはおまえだろ?」
いつもと変わらず、そっけない態度の鷹緒に、沙織は俯いた。
「そうだけどさ……」
「さあ、帰るか」
「あ、うん……」
沙織は頷くものの、なんだか心が晴れない。
鷹緒はコーヒーを飲み干すと、立ち上がって支度を始めている。そんな鷹緒に、沙織も立ち上がり、口を開く。
「あ、いいよ。電車で帰る……今日は寝た方がいいよ。だるそうだし」
「いいよ、べつに」
「よくないよ。ちょっと辛そうだもん」
「……いいのか?」
「うん、まだ全然早いし。それより、さっきの話だけど……」
「さっきの話?」
聞きにくそうに尋ねる沙織に、意味がわからず、鷹緒が聞き返す。
「だから、さっきの写真……鷹緒さん、本当に……子供がいるの?」
沙織が言った。鷹緒はもう一度ソファに座った。
「ああ……その話か」
面倒くさそうに、鷹緒は顔をしかめる。
「私、知らなかった……」
「……だからなんだよ。知ってたら、どうだったって?」
溜息をつきながら、鷹緒が言った。その態度は今までと違い、強い拒否のようなものが、体全体で伝わってくる。
「どうって、べつに……」
「俺に子供がいようといなかろうと、俺がどういう人間だろうと、おまえには関係ないだろう? 親戚っていっても、大して交流もない親戚なんだから。もう帰れよ」
いつになく冷たく突き放す言い方をする鷹緒に、沙織は驚いて俯いた。
「わかった。ごめん……」
沙織はそれだけを言うと、急いで部屋を出ていった。
残された鷹緒は、そのままソファに横になり、大きな溜息をついた。
家へ帰った沙織は、ショックで落ち込んでいた。
鷹緒が結婚していたということ、そして子供がいたという事実に、ショックを隠しきれない。そして沙織は、鷹緒のことが気になって仕方がないという気持ちに、気付かされていた。
「私……鷹緒さんのことが好き……?」