24:発覚
「……俺の子供だけど?」
静かに鷹緒が言った。
「え……う、嘘でしょう?」
「嘘じゃねえよ。なんだ……母親から聞いてるんだと思ってた」
鷹緒はそう言って頭を掻くと、部屋から出ていこうとする。思わぬ事実を突きつけられ、沙織は驚いたまま、ぼそっと呟いた。
「何も……聞いてなかった……」
「……あっそ」
鷹緒はそう言うと、部屋を出ていった。沙織もそれに続いてリビングへ向かうと、俊二がスタジオからやってきた。
「あ、鷹緒さん! すみません、勝手に……」
申し訳なさそうに、俊二が言う。
「どうしたんだ? こんなお邪魔虫まで連れて……」
未だ眠そうな鷹緒が、小さく溜息をついて言った。俊二はバツが悪そうに口を開く。
「それがその、忘れ物しちゃって……あと、鷹緒さんの様子を見に。沙織ちゃんも心配していたんで、一緒に連れて来ました。事後報告になりますが、社長にも了承済みになっていると思います」
「ふうん……」
電話に起こされ、鷹緒は不機嫌そうにソファに座る。
「あ、あの、鷹緒さん……」
「俊二。おまえ、フィルム忘れるなよ」
その時、恐る恐る言いかけた俊二に、鷹緒が遮ってそう言った。
「え!」
俊二がびっくりして声を上げる。
鷹緒は目の前のテーブルに置かれたパソコンから、カメラのメモリカードを取り出し、近くに置いてあったフィルムと一緒に、俊二に差し出した。
「ああ、鷹緒さんのところにあったんですか! もう、どうしようかと思いました。すみません!」
深々と頭を下げて、俊二が言う。鷹緒は苦笑しながらも、優しく微笑む。
「もう、二度と忘れるなよな」
「はい。本当にすみませんでした! ああ、でもよかった。どこを探してもないから……」
「俺のカメラそっちに取りにいったら、そいつが置かれてるの見たんだ。データ見たら、昨日のだろ? 届けようと思ったんだけど、そのまま寝ちゃってさ……」
鷹緒はそう言いながら、もう一つカードを差し出した。
「え……」
「バックアップついでに、ちょっとレタッチしといた。まあ、おまえの仕事なんだから、暇つぶしにやっただけだし、使わなくていいからな」
そんな鷹緒の言葉に、俊二はまたも驚く。
「え、編集してくださったんですか? 本当にすみません、睡眠削っちゃって……でも、助かります。明後日までの締切なのに、何も手をつけてないんじゃ間に合わないですから……すみません!」
「いいって。体質的に、目の前に素材があったら、いじりたくなるんだよな……」
鷹緒が、苦笑して言う。
「ハハ、病気ですね……ありがとうございます。徹夜で仕上げます」
「明後日までの仕事だろう?」
「でも別の仕事が溜まってるんで、早目にやっておかないと……あと、車は僕が乗ってきたんで、駐車場にあります。これ、鍵です」
俊二はそう言って、テーブルに鍵を置く。
「ああ、サンキュー」
「じゃあ、帰ります。沙織ちゃんは……」
フィルムとカードをしまいながら、俊二が沙織に言った。
「あ、私……」
「いいよ、俺が送るから……」
小さく息を吐きながら、鷹緒が言う。
「そうですか。じゃあ、僕はお先に失礼します」
俊二はそう言うと、鷹緒の部屋から出ていった。
残された沙織は、ソファに座ってうなだれる鷹緒を見つめる。
「……コーヒー入れてくれる?」
沈黙を破って、鷹緒が言った。
「う、うん……」
沙織は言われるままに、キッチンへと向かう。広いキッチンだが、あまり使われていない様子だ。
「豆は棚の中。そこにコーヒーメーカーがある」
部屋の勝手がわからない沙織に、背を向けたまま鷹緒が言う。沙織はコーヒーを入れ、鷹緒のもとへと持って行った。
「はい……」