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20:注目の的

 沙織の通う高校では、朝からいつになく騒然としていた。

「おはよう、沙織!」

 昇降口で沙織に声をかけたのは、クラスメイトの茂木朋子もぎともこである。沙織とは仲の良い友達だ。

 沙織は少し疲れた様子で笑いかける。

「トモ、おはよう」

「沙織。最近、元気なくない? 先輩と別れたから?」

 朋子の言葉に、沙織が溜息をついた。朋子のいう先輩とは、篤のことである。沙織と篤は、あれから何度もメールなどでやりとりしているものの、つかず離れずの状態だ。

「はあ……」

 沙織は、もう一度溜息をついた。

「嫌だな、溜息なんて……深刻なの?」

「うん、なんかもう、何言っても駄目で……でもまだ別れてない、と思う」

「そっか。原因、なんだっけ?」

「誤解っていうか、なんていうか……」

「なに、修羅場?」

 朋子が、興味津々といった感じで尋ねる。

「……私、最近仲良くなった親戚の人がいて、なんだかその人と会うのが楽しかったんだ。事務所の人もみんな優しいし。篤がバイトで忙しいから寂しかったこともあって、そこの職場に入り浸りだったの。それを知った篤が、俺より大事なことがあるのかってキレちゃって……」

「へえ……」

「誠意を示すためにも、もうそこには顔も出してないんだけど、信じてくれないし……篤だって、その親戚の人にはお世話になってるし、知らないわけじゃないのに……」

 独り言のように、沙織が言った。浮かない顔の沙織に、朋子も溜息をつく。

「よくわかんないけど、大変そうだね」

「まあね……」

 二人は、教室へと向かっていった。

「あ、来た。沙織!」

 教室に入るなり、沙織のどんよりした心に反して、クラスメイトの女子が叫ぶ。その勢いに、沙織は目をパチパチさせる。

「え、なに?」

「これ、沙織でしょ! なんで言ってくれなかったのよ、いつからモデルやってんの?」

 その言葉に、沙織はまたも驚いた。クラスメイトが差し出した雑誌の表紙には、数人の少女が写っており、その中に沙織もいたのだ。

「あ! それ、今日発売だったの?」

 思い出したように、沙織が言う。

「ちょっと、どういうこと? 沙織」

「ってゆうか、見せて! ええ、表紙に載っちゃってるの?」

 沙織は赤面しながら、雑誌にかじりついた。

「やっぱりこれ、沙織なんだ。すごいじゃん! 表紙だけじゃないよ。ほら、こっち」

 女子たちが群がって、雑誌をめくる。数ページに渡るメインコーナーには、沙織とわかる写真が大きく出ていた。

「うわ、何これ!」

 あまりの目立ちように、沙織自身も驚いた。数人いるモデルの中で、沙織がメインに撮られているような構図に見える。

「なんであんたまで驚いてんのよ。これ、沙織なんでしょ。どういうことなの?」

 女子たちが尋ねる。沙織はそこまで大々的なものになるとは思ってもいなかったが、経緯を女子たちに話した。

「へえ、意外。沙織にそんな知り合いがいたんだ。カメラマン? すごいじゃん」

「ってゆうか、ヘルプで出た割には、メインで撮られてない? きっとその親戚、沙織のことが可愛くてメインで撮っちゃったんじゃないの?」

 はしゃぐように、女子たちが言った。沙織は、顔を赤らめたまま叫ぶ。

「そんなこと、あるわけないじゃん。ああもう、超恥ずかしい!」

「いいじゃん。キャンディスっていったら、ティーン向け雑誌の中で一番読まれてるんだよ? 読者モデルだって、難易度高いんだから。超恵まれてるよ、羨ましい!」

「私は私で、必死だったんだよ。嫌だったし……」

「もう、贅沢モノ!」

 この一件で、沙織は一躍有名人となっていた。


 その日、学校が終わると、沙織は久しぶりに鷹緒の事務所へと向かっていった。

「こんにちは……」

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