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13:二人きりの食事

 外に出た二人は、鷹緒の車でファミリーレストランへと向かった。そのまま店に入った鷹緒は、すぐに携帯電話を見つめたので、沙織が首を傾げる。

「電話?」

「いや……」

 そう言うと、鷹緒は携帯電話の電源を切った。

「切っちゃうの?」

「食事中くらい、逃れたいんでね」

「……鷹緒さんって、すごい人なんだね。私、知らなかった」

「なんだよ、さっきから」

 鷹緒が、苦笑して言う。

「だって、いろいろ活躍してるみたいだし、忙しそうだし……」

「まあ、忙しいのは当たってるけど。それより、沙織は?」

「え?」

「だから学校とか、勉強とか、どうなんだよ」

「どうって……特にないよ。順調、順調」

「へえ……」

 その時、沙織の携帯電話が鳴った。見ると、知らない番号である。

「出ないの?」

 首を傾げている沙織に、鷹緒が言う。

「あ、うん……」

 沙織は周囲を気にしながらも、電話に出た。

「はい」

『あ、沙織ちゃん? 僕、木村広樹です。もしかして今、鷹緒と一緒?』

 電話の相手は、鷹緒のいる事務所の社長、広樹であった。

「ヒロさん。はい、一緒です」

『よかった。悪いけど、代わってくれるかな?』

「はい」

 沙織が鷹緒を見ると、鷹緒は嫌そうな顔をしている。しかし出ないわけにもいかず、鷹緒は沙織の電話を受け取った。

「はい……」

『鷹緒。おまえ、食事中に電源切るのやめろよ』

 すかさず、そんな広樹の声が聞こえる。鷹緒はうんざりした様子で口を開く。

「悪いな。飯食う時間くらいは大切にしたいんだよ」

『言うと思ったよ。今、どこだよ。スタジオ行ったら、いないからさ』

「んー、ちょっと気分転換。飯食って、沙織送って、戻るよ」

『わかった。それはいいけど、BBの事務所から連絡あってさ……』

 その話題に、鷹緒は聞き入った。

「何かトラブルか?」

『いや、別件だ。実はおまえに、BB専属のカメラマンになって欲しいっていう、要請が来たんだけど』

「専属……?」

 鷹緒は目の前の食事に手をつけながら、会話を続ける。

『そう嫌そうな声出すなよ』

「……わかってるだろ? 嫌なんだよ、そういうの。専属なんていったら被写体限られるし、いろいろと面倒臭い」

『わかってるよ。でもBBは人気グループだし、損はないよ。BBのメンバーもあっちの事務所も、みんなおまえの腕に惚れてんだよ。今回の写真集の件だって、BBのメンバーから直々の要望なんだぞ?』

 広樹の言葉に、鷹緒は考えていた。苛々するように、テーブルの上に置かれたフォークをいじっている。

「……でも、俺はこれからもいろんな仕事を受けたいし、今は写真だけじゃなくて、企画業までやってるんだ。BBばかりに構っていられないよ。スタッフだって大勢いるわけじゃないし、今でさえいっぱいいっぱいのスケジュールなのに、これ以上、仕事を増やすなよ」

 真剣な態度の鷹緒を、沙織は静かに食事をしながら見つめていた。鷹緒は尚も話を続けている。

『わかってる。スタッフの件は、今後増やすことを約束するし、事務所としてもBBとの契約はプラスなんだ。うちはまだまだ小さい事務所なんだし、わかってくれよ』

 広樹の言葉に、鷹緒は小さく溜息をついて、目を閉じた。

「……わかった。帰ってから考えるよ。リミットは?」

『まだ決まっていないが、近いうちだ』

「じゃあ、今晩考える。じゃあな」

 電話を切ろうとする鷹緒に、広樹の声がすぐに引き止める。

『あと鷹緒。携帯の電源だけは切るなよ』

「わかったよ……じゃあな」

 鷹緒は電話を切ると、沙織に返す。

「……悪かったな」

 そう言いながら、鷹緒は自分の携帯電話の電源を入れた。すると、すぐに電話が鳴る。鷹緒は溜息をつくと、電話に出た。

「はい、諸星です。はい……」

 鷹緒が電話を続けている間、沙織は食事を続けていた。

 しばらくして、鷹緒は電話を切った。

「……大変そうだね」

 苦笑しながら、沙織が言う。いつ見ても鷹緒は、忙しそうに見える。

「だから嫌なんだよ。食事くらい、ゆっくり食べたいのに……もう冷めてるし」

 鷹緒が溜息をつきながら、眼鏡を拭いてそう言った。俯く顔は長めの前髪に隠れ、素顔を見ることは出来ない。

「……目、悪いんだ?」

「昔から、かけてたよ」

「うん、知ってる。それは覚えてるよ」

 眼鏡をかけ直した鷹緒を、沙織は見つめる。改めて見ても、そこに子供の頃に知っている親戚の姿はない。まるで家族や親戚という雰囲気は持っておらず、別世界の男性に見える。

 沙織が見とれるように見ていると、そこに大きなパフェが運ばれて来た。

「うわ、デカ!」

 驚く沙織に反して、鷹緒は嬉しそうだ。

「俺の」

「超意外! 甘い物好きなの?」

「うん、かなり好き。最近疲れてるし、甘い物は腹もちいいからな」

「へえ」

 意外な鷹緒の一面に、沙織は微笑みながら、自分の食事を続ける。

「そういえば、おまえ、バイトとかしないの?」

 突然、鷹緒がそう尋ねた。

「したいとは思ってるんだけどね……」

「じゃあよかったら、うちの事務所また手伝ってくれよ。またBBに会えるかもしれないぞ」

「本当? でもやりたいけど、学校あるから夕方とか週末しか働けないよ? デートの時間だって、削られたくないし……」

「ああ、べつにいいよ。週に七日だろうが、一日だろうが、好きな時に来いよ」

 鷹緒は軽くそう言う。

「え、そんなんでいいの?」

「ああ。今日みたいに、暇な時に来ればいいじゃん」

「暇、暇言わないでよ。今日はたまたまだもん。篤がバイトで先に帰っちゃったから……」

「ふうん?」

 そう言いながら、鷹緒はパフェをたいらげた。

「すごい、一気……」

「ごちそうさま。さて、帰るか」

「うん」

 二人はファミリーレストランを出ていった。

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