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115:止まらない想い

 数日後。沙織はユウに呼び出され、ユウの部屋にいた。

「どうしたの?」

 ぼうっとしている沙織に、ユウが尋ねる。

「え?」

「ぼうっとしてるじゃない。何かあった?」

 優しく尋ねるユウに、沙織は首を振る。

 あれから何度も鷹緒のことを考えた。湧き上がるように気付かされた、鷹緒への恋心。だが目の前にいるユウに知られてはいけない。しかし、このまま嘘をつき続けるのかと思うと、気が重くてたまらない。どうしたらいいのかわからず、沙織は思い悩んでいた。

「沙織?」

「ごめんね。なんか、疲れてて……」

 沙織が言った。そんな沙織の肩を、ユウは抱き寄せる。

「ごめん、急に呼び出したから」

「そんな……ユウは悪くないよ。ツアー終わって、真っ先に声かけてくれたんじゃない」

「うん、ツアー中は会えなかったから、ずっと沙織のことを考えてたよ」

 そう笑いかけるユウを見て、沙織は泣けてきた。

「沙織?」

「ごめんね、なんでもない……」

「なんでもないって、泣きそうじゃん」

「違うの……ごめんね」

 沙織がそう言った時、テーブルに置いてあった沙織の携帯電話が鳴った。

 ユウが手を伸ばしてそれを取り、沙織に差し出す。二人の目には、画面に映る“諸星鷹緒”の文字が見えた。沙織の表情が変わる。

「諸星さんみたいだよ。出ないの?」

 ユウの言葉に、沙織が携帯電話を受け取る。それと同時に電話が切れた。

「ああ、切れちゃったね……」

 そう言うユウの目に、複雑な表情の沙織が映った。俯き加減の沙織は戸惑っているような、困っているような顔をしている。

「……沙織の元気がないのは、諸星さんが原因?」

 黙り込んでいる沙織に、ユウが尋ねた。沙織はハッと顔を上げる。真剣なユウの瞳が、沙織を見つめている。

「……違うよ」

 やっとのことで沙織が言った。だがユウにはそれが嘘だとわかって、溜息をつく。

「どうして嘘つくの? そういうふうに隠されたんじゃ、何かやましいことがあるんじゃないかって思っちゃうよ」

「やましいことなんてないよ!」

 沙織が言った。

 ユウはただ静かに沙織を見つめている。

「……じゃあ、どうしてそんなにムキになるの?」

「なんでもない……」

「……わかった。話したくないなら、もういいよ」

 ユウは静かにそう言うと、立ち上がった。少し怒っているような感じにも見えたが、その声は優しい。

「今日はもう帰りなよ。送るからさ……」

 すでに支度を始めているユウがそう言ったので、沙織も立ち上がって帰り支度を始める。すると、ユウが後ろから抱きついてきた。

「沙織……僕のこと、好き?」

 ユウの言葉に、沙織は一瞬、押し黙る。

「……うん。す……き……」

 そう言ったところで、沙織の目から涙が溢れた。もう、嘘はつけなかった。

 沙織はそのままユウの手からすり抜け、その場にしゃがみこむ。

 そんな沙織に、ユウはすべてを理解した。

「諸星さんのことが……好きになっちゃったとか?」

 静かに尋ねたユウに、沙織は首を振った。今は何も考えられない。

「ごめんなさい。今日はもう、帰るね……」

 沙織はやっとそれだけを言うと、ユウのマンションを出ていった。

 ユウはしばらく、その場に立ちつくしていた。


 家へ帰る途中、沙織の心は沈んでいた。ユウが嫌いなわけでは決してない。だが鷹緒のことを思うと、胸がドキドキして止まらない。何が恋なのか、なぜユウを好きだと言うことが悲しかったのか、沙織にはわからなくなっていた。

 ふらふらと夢遊病者のように、沙織は家へと帰っていった。


 やっとの思いで沙織が家へ帰ると、部屋の前には鷹緒の姿があった。沙織は目を丸くさせる。

「鷹緒さん……!」

「おう、出かけてたのか。電話しても出ないから、どうしたのかと思った。デート中だったか? 邪魔してたらごめんな。これ、この間の礼。いなかったら、ポストに入れて帰ろうと思ってた」

 手土産を見せながら、静かに笑って鷹緒が言う。

「鷹緒さん……」

 震える声で、沙織がそう呼んだ。鷹緒は怪訝な顔をして、沙織の顔を覗き込む。

「……どうした?」

 沙織は、しきりに首を振った。

「泣いてるのか? 喧嘩でもしたのか?」

 鷹緒の問いかけに、沙織は首を振る一方だ。

「沙織?」

「……ないで……」

「え? 聞こえ……」

「優しくなんてしないで!」

 沙織はそう言うと、鷹緒を押し退けて、部屋の鍵を開けようとする。

 そんな沙織の腕を、鷹緒が後ろから掴んだ。

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