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110/125

110:結婚報告

 数日後。

「沙織ちゃん。茜ちゃんからエアメールが届いたんだ」

 仕事を終えて事務所に戻った沙織に、広樹が言った。すでに事務所は閉じていて、広樹しかいない。

 受け取ったエアメールは茜から事務所のみんな宛てで、茜の結婚報告が書かれているほか、結婚相手との写真が同封されている。

「知ってた? 茜ちゃん、結婚したんだってさ。あれだけ鷹緒に熱上げてたのに、遂に諦めたか……」

 苦笑しながら広樹が言った。

 沙織は頷き、同封の写真を見つめる。そこには幸せそうな茜の姿があった。

「前に鷹緒さんから聞きました。でも素敵な人みたいですね」

「うん。結婚か……どんどん追い越されるなあ」

 広樹の言葉に、沙織が笑う。

「ヒロさんは、そういう話あんまり聞かないですけど、結婚はしないんですか?」

「あはは、痛いなあ。しないってわけじゃないけど、相手がねえ……今はまだ事務所も手一杯だし、なんてね」

「大変ですよね……」

「まあね……鷹緒みたいにさっさと結婚しちゃうやつもいれば、僕みたいにそんな気配すらないやつもいるわけだよ」

 それを聞いて、沙織はふと尋ねる。

「鷹緒さんって、十代の頃に結婚したんですよね?」

「そう、十九だったかな?」

「えっ、じゃあ理恵さんはもっと下ですよね? もしかして、学生結婚?」

 驚いた沙織に、広樹は手を振って否定した。

「いや、理恵ちゃんはモデル一筋で、高校には行ってなかったからね。学生結婚ではないよ。でも鷹緒が十九だから、理恵ちゃんは十七か……」

「何の話してるんですか?」

 そこに、外回りから帰ってきた理恵が顔を出す。

「ああ、理恵ちゃん、おかえり。今、君と鷹緒の結婚当時のことをね」

「何を言ってるんですか。そんな昔の話を……」

 広樹の言葉に、苦笑しながら理恵が言う。それに続いて、沙織も口を開いた。

「でも、すごいですね。十代で結婚なんて……」

「すごくなんかないわよ、幼いだけ。慎重ではあったけど、周りも見えなくなっててね……さあ、こんな古臭い話は終わりにしてください。ヒロさん、子供が風邪引いてるんで、これで帰らせてもらいますね」

「恵美ちゃん、大丈夫なの?」

 急いで片付けている理恵に、広樹が尋ねる。

「はい。今朝、病院にも連れて行ったし、大丈夫です。たまに大きな風邪引くんですよね……じゃあ、お先に」

 理恵はそう言うと、事務所を出ていった。

「風邪か。今年の風邪は熱かららしいし、気をつけようね……それより、沙織ちゃんはどうしたの? 仕事終わったんだよね?」

 そう尋ねてきた広樹に、沙織は少し照れ笑いする。

「あ、さっき仕事終わったんですけど、家に帰っても一人だし、事務所に誰かいないかと思って……」

「ああ、たまに一人でいたくない時もあるよね。今日はユウさんとも会わないんだ?」

「最近会ってないです。今はツアー中だし、なかなか……」

「売れっ子とつき合うのも大変だね……じゃあ、よければ鷹緒の家に行ってきてくれない? あいつ、今日は直帰してて明日も休みなんだけど、休み中にやっておくって言ってた仕事、持って帰ってないんだよ。明日取りに来させるのも可哀想だしね」

 沙織は頷いた。全然会わない鷹緒に、会いたい気持ちもある。

「いいですよ。でも休み中にまで仕事なんて、鷹緒さんも大変そうですね」

「あいつは仕事人間だからね。そうでもなけりゃ、一人身でやってられないよ。じゃあ頼むよ」

「はい」

 沙織は大きな封筒を受け取って、事務所を出ていった。

 鷹緒の家へ行くのは、鷹緒が日本を発って以来である。

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