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11:シークレットライブ

 しばらく行くと、とあるショッピングビルのバルコニーに、BBの姿が見えた。その上には大型スクリーンがあり、アップでのBBが映る。ビルの下には、すでに人だかりが出来ていた。

「あ! 鷹緒さんだ!」

 その中で、沙織がそう叫んだ。沙織の視線の先には、鷹緒の姿があった。鷹緒は、BBたちと同じバルコニーのステージ上で、BBの写真や、ファンの写真を撮っているようだ。

「あれ、沙織ちゃん?」

 その時、沙織に声をかけたのは、鷹緒のいる事務所の社長、広樹であった。

「ヒロさん」

 沙織も気付いてお辞儀をする。

「やっぱり沙織ちゃん。覚えててくれた?」

「はい、もちろんです。先日はお世話になりました」

「いえ、こちらこそ、助かったよ。沙織ちゃん、鷹緒から聞いてたの? このシークレットライブ」

「あ、いえ。たまたま……」

「そうだよな。親戚とはいえ、鷹緒がそんな情報漏らすわけないか……」

 広樹が、苦笑して言った。

「でも、すごいですね。シークレットライブなのに、こんなに人が……」

「うちの企画でね。今日はCDの発売日だし、写真集の宣伝も兼ねてだよ。うちの事務所の宣伝にもなるし」

 BBが映る大画面の下には、スポンサーや企画の名前が小さく連ね、そこに広樹の事務所の名前も入っていた。

「なんかすごいな……すごい!」

 沙織が興奮して言った。その言葉に、広樹が微笑む。

「そう言ってもらえると、こちらとしてもやりがいがあるよ。こちら、彼氏?」

 広樹が篤を見て言った。篤も会釈する。

「はい、遠山です。先日は、撮影現場にお邪魔させていただいて……」

「ああ、聞いてるよ。BBの大ファンらしいね」

「はい」

「ライブはもうしばらく続くと思うから、楽しんでいって。僕らも、なかなかこういう機会はないから、嬉しいよ。じゃあ僕、事務所帰る途中なんで、これで……よければまた、いつでも事務所に寄ってね」

 広樹はそう言うと、そこから去っていった。沙織と篤は、広樹にお辞儀をすると、ライブを見つめた。

「やべっ、バイトに遅れる!」

 すると突然、篤が叫んだ。

「今日もバイト?」

「うん。冬休みで、結構使っちゃったからさ」

「そっか……」

「じゃあ俺行くけど、沙織は?」

「ライブ、最後まで見ていくよ……」

「わかった。じゃあ、また明日な」

 沙織はそこで、篤と分かれた。

 ライブはそれからほどなくして終わってしまい、人の波は嘘のようにどこかへ消えていった。

 沙織はしばらくウィンドウショッピングを楽しんだ後、思い立って鷹緒の事務所へと向かっていった。


「あれ、沙織ちゃん。さっきはどうも。彼氏クンは?」

 やってきた沙織を見て、受付でお茶を飲んでいた広樹が尋ねる。

「あ、バイトで……」

「そっか。どうだった? BBのライブは」

「もう、すっごくよかったです! 興奮しちゃったんで、早速来ちゃいました」

 興奮気味で、沙織が言った。

「そうか。よかった、よかった」

「あの……鷹緒さんは、まだ帰ってないんですか?」

 沙織が、辺りを見回して尋ねる。

「スタジオにいると思うよ。あそこは鷹緒のアトリエみたいになってるから。今日は泊り込みで作業するって言ってたよ」

「……行っても平気ですか?」

 沙織が言う。先日の撮影や今日のライブのことを、鷹緒と直接会って話がしたかった。そんな沙織に、広樹が笑う。

「いいけど、仕事中のあいつって、反応ないからつまらないと思うよ? 邪魔したら不機嫌になって、扱いづらいしね」

「そうですか……」

「ああでも、顔出してやってよ。これ持って」

 そう言って、広樹は冷蔵庫から、缶のお茶とおにぎりを出し、袋に入れて沙織に差し出した。

「あいつ、仕事となると食べるのも忘れるんだよな。僕も後で顔出そうと思ってたんだけど、君が行ってくれるならいいや。なんとか食べさせてやって」

「わかりました。じゃあ……行ってきます」

 沙織はそれを受け取ると、スタジオへと向かっていった。


 沙織がスタジオへ行くと、鍵が閉まっていた。

「あれ? いないのかな……」

 そばにあった呼び鈴を鳴らし、何度かドアをノックする。しかし、応答はない。

「いないのか……」

 そう言いかけた時、ふと前にスタッフが言っていたことを思い出した。

『鷹緒さん、前にスタジオでぶっ倒れてましたよね?』

「……大丈夫だよね? でもヒロさんも、仕事となると食事も忘れるって……」

 沙織は急に、鷹緒の安否が心配になった。その時、前にスタッフがスタジオの鍵のありかについて話しているのを思い出す。

「窓枠の溝に……」

 近くの窓枠の溝を見ると、そこには鍵が挟まっている。

「本当にあった……どうしよう、泥棒みたい。で、でも、鷹緒さんが倒れてたら、シャレにならないよね」

 沙織は意を決して、その鍵でスタジオのドアを開けた。するとドアは簡単に開いた。

 静かに中へと入っていくが、スタジオに人の気配はない。

「た、鷹緒さん……いませんね。鷹緒さん……」

「なに?」

 その時、沙織の背後から、そんな声が聞こえた。

「ぎゃあ!」

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