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107:再会の事務所

「……寂しくない? 慕ってくれた人が、結婚しちゃうなんてさ……」

 思い切って沙織が尋ねた。そんな沙織に、鷹緒は笑う。

「ハハ……喜ばしい限りですよ」

「ふうん、そういうもの。じゃあ、私がユウとつき合ってることも……」

「ん?」

「う、ううん。なんでもない。あ、うちはそこです……」

 続く言葉を飲み込んで、沙織は数軒先のマンションを指差して言った。小さいが表通りに面し、セキュリティもしっかりしているようだ。

「あ、お茶でも……」

「いい。恋人以外の男を、絶対中には入れるなよ」

 言いかけた沙織に、鷹緒が拒否して言った。

「う、うん……」

「じゃあな。早く中入れよ」

「うん……鷹緒さん、本当にこれからは、ずっとこっちにいるんだよね?」

 確認するようにもう一度、沙織が尋ねた。

 鷹緒は頷き、微笑む。

「ああ、とりあえずはな」

「うん……じゃあ、またね」

「ああ。おやすみ」

 沙織が中へ入るのを確認すると、鷹緒は事務所へと戻っていった。


 部屋に入ると、沙織は嬉しさに思わず顔をほころばせた。鷹緒が帰ってきた。そう思うと、心が弾んで仕方がない。その時、カバンの中で携帯電話が震えた。

「あ、忘れてた!」

 沙織はカバンを漁ると、携帯電話を取り出す。

 鷹緒との再会に、携帯電話の存在すら忘れていた。画面を見ると、いくつかメールが来ているのがわかる。

「ユウから二回もメールあったんだ……」

“こっちは終わりました。諸星さんに今日来てくれたお礼、伝えておいてください”

“盛り上がってるのかな? もう遅いので今日は寝ます。おやすみ”

 沙織はすぐに返信する。

“気付かなくてごめんね。今帰りました。ヒロさんと鷹緒さんと三人で話してました。久々にいろいろ話して盛り上がったよ。遅くなってごめんね。おやすみなさい”

 そう返信すると、沙織はベッドに寝そべり、携帯電話のデータを呼び起こす。さっき撮ったばかりの、鷹緒と広樹の写真があった。

「本当に、帰ってきたんだ……」

 沙織はそのまま、眠ってしまった。



 次の日の早朝。

 鷹緒に会いに、沙織は事務所へと向かっていった。まだ事務所が開いて間もない時間だが、事務員が群がっている。案の定、その中心には鷹緒がいた。

「鷹緒さん、おかえりなさい! 帰って早々、事務所で寝泊りなんて、なにしてんですか」

「よかった、変わってない。でも、ちょっと痩せたんじゃないですか? 向こうの料理、合わなかったですか?」

 事務員がそれぞれに、鷹緒に言う。

「おまえら、うるさい。二日酔いで寝起きだってのに……」

「あははは。相変わらずだなあ」

 その時、沙織の後ろに人影があった。副社長の理恵である。それを見つけた鷹緒が、優しく微笑んだ。

「ただいま」

 鷹緒が声をかける。

「おかえりなさい」

 理恵はそう言いながら、鷹緒に近付いていく。鷹緒は一同を見つめ、立ち上がった。

「みんなも相変わらず元気そうで安心した……じゃあ俺、一度家帰るから」

 そんな鷹緒に、理恵が声をかける。

「あ、部屋だけど、スタジオの掃除の日に、ついでにちょこちょこ掃除しておいたから。細かいところまでは出来てないけど、それなりに綺麗のはず」

「ああ、マジで? サンキュー、助かる。これから大掃除しなきゃいけないと思ってた。じゃあ風呂でも入って、挨拶回り済ませてくるよ」

「帰国早々、挨拶回りですか。仕事人間だなあ」

 事務員たちが鷹緒に向かって、口々にそう言った。

「当然、常識。じゃあ、今度ゆっくりな」

 鷹緒はそう言うと荷物を抱え、入口のところにいる沙織に近付く。

「入らないの?」

「あ……ううん」

「じゃあ、またな」

 沙織の肩を軽く叩くと、鷹緒は事務所を出ていった。



 その日から、鷹緒は二年半前と変わらず、仕事に明け暮れる日々を送っていた。

 沙織にとって違うことは、自分の周りの環境だけ。そこに鷹緒が違和感なく入ってきたように、二年半の月日を越えて、新たな日々が始まっていった。

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