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102/125

102:スキャンダル

 それから数ヵ月後――。

 鷹緒が日本を発ってから、二年半が過ぎようとしていた。二年契約で行ったものの、鷹緒が帰る気配はないが、日本でも鷹緒の写真が多く起用され続け、ニューヨークに居ながらにして、仕事に不自由しない状況になっていた。


「へえ。じゃあ、諸星さん、全然帰って来る気配がないんだ?」

 いつものようにユウの部屋で、沙織はユウと話をしていた。もう真夜中の時間である。

 沙織は口を尖らせ、頷いた。

「うん。事務所の人が言ってた……もう知らない。親戚だっていうのに、私には全然連絡してくれないし」

「ハハハ。あの人、そういうのマメじゃなさそうだよね……あ、沙織」

 突然、ユウが窓の外を見て言った。

「え?」

「雪!」

「わあ、本当だ! どうりで寒いはずだね……」

 二人は揃って窓の外を見つめた。外は二月の終わりで、今の時間は特に冷え込んでいる。

「寒いね……」

 そう言う沙織の肩を、ユウはそっと抱き寄せた。

「うん……戻ろう」

 二人はリビングの中心へと戻っていく。

 めったに会えない二人だが、二人きりのこの時間だけが、すべてを繋ぎとめるような、絶対の時間であった。



 数日後。マスコミの嵐が、再び沙織を襲った。またもスクープ雑誌が、ユウと沙織の熱愛を報じたのである。

 すでに一度沈下されたスキャンダルは、再び一気に燃え上がった。


「すごいハッキリ出ちゃったわね……」

 事務所では、理恵が頭を抱えてそう言った。

 写し出された写真には、沙織とユウが、ユウの部屋で寄り添っている写真が写っている。それは数日前に二人で雪を見上げた、その時の写真であった。

「どこからこんな……」

 沙織も溜息をついて言う。

「張り込んでいたのね。まあ、今まで何度か報じられはしてたけど、その度にすぐに沈下出来ていたのが不思議よね。BB側の事務所のおかげだろうけど。でも今回は……」

 その時、事務所の電話が鳴った。

「もう! 今日は鳴りっ放しだわ」

「ごめんなさい……」

 虚ろな目をしながら沙織が謝る。前回とは二人の関係も立場も違うが、どうしていいのかわからなくなる。

 その時、事務員の牧が理恵に手招きした。

「理恵さん。BB事務所の社長さんからお電話です」

「はい」

 理恵はすぐに電話に出る。

『お電話代わりました。副社長の石川です。はい、あいにく社長は席を外しておりまして……』

 話を続けている理恵を尻目に、沙織は自分の出ているスクープ記事を見つめた。そこには、はっきりと自分の姿が写し出され、ありもしない噂が書き立てられている。

「沙織ちゃん。電話、代わって」

 その時、理恵がそう言ったので、沙織は受話器を受け取った。

「もしもし……」

『沙織?』

 受話器の向こうから聞こえたのは、ユウの声であった。その声を聞いた途端、沙織は安心すると同時に、泣きたくもなる。だがそれを堪えて、沙織は口を開いた。

「ユウ?」

『うん。沙織、大丈夫? 今、うちの社長と、君の事務所の副社長さんで話をしてもらった。今回のことは、前とは状況が違うだろう? 君も高校生じゃないし、新人モデルでもないんだ。それに、僕と正式につき合ってる。僕、ずっと考えてた。みんなに君との交際を公表しようって……君さえよければ、記者会見するよ。一緒じゃなくていい。僕がやる』

 ユウの決意に満ちた言葉だった。

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