10:電話
「もしもし。沙織です」
『諸星ですけど……今、平気?』
電話からは、確かに鷹緒の声が聞こえる。
「あ、はい。大丈夫」
『連絡遅くなって悪い。ちゃんと金、もらったか?』
鷹緒が尋ねた。沙織は電話越しに頷く。
「バイト代? うん、もらったよ」
『そうか。助かったよ。ああ、BBにCDもらったんだって? よかったな』
「うん! 本当、ラッキーだよ、ありがとう。あ、BBの写真集って、もう全部撮ったの?」
はしゃぐように、沙織が言う。
『いや、今日最終。今日終わったら、入稿するから……発売は、春頃になるって言ってたよ』
「春かあ。待ち遠しいな」
『そうか』
「うん。あ、また、手伝いに行ってもいい?」
『まあ、ミーハーしなきゃな』
鷹緒の言葉に、沙織が赤くなる。
「しないもん。BBだって、べつに……」
『まあ、好きな時に来いよ。事務所はいつも誰かしらいるし。おまえの顔も、事務所の人間みんな覚えたみたいだから』
「本当? わかった。ありがとう、鷹緒サン」
『ハハ。こちらこそ……じゃあ、ありがとうな』
「うん」
『あ、おまえ、まだ学校?』
突然、鷹緒が尋ねた。
「うん、そうだけど……」
『何もないなら、渋谷に来れば?』
「え? なんで……」
『あ、呼んでる。じゃあな』
沙織はそこで、鷹緒に電話を切られた。
「なんだって?」
篤が尋ねる。
「よくわかんない……何もないなら渋谷に来れば、だって」
「渋谷に? なんで?」
「さあ……」
二人は、首を傾げる。
「何か知らないけど、ここに居てもしょうがないし、行ってみるか。それに、今日はBBの新曲発売日だしな。帰ろうぜ」
「あ、今日だっけ。じゃあ、CDショップも寄らなきゃね」
沙織と篤は、学校を出ていった。
「そういえば今日、BBのDVDも発売だったよね? この間のライブのやつ」
渋谷の街を歩きながら、沙織が言う。その横で、篤は街並みをぼうっと眺めながら口を開いた。
「そうだっけ。CDと発売日が一緒?」
「そうだよ。そういえば、前もCDとDVDの発売が一緒だった時があって、その時は原宿でシークレットライブやったんだよね」
その時、女子高生が黄色い声を上げて、走っていくのが見えた。
「キャー! BBがシークレットライブしてるって!」
その声に、二人は顔を見合わせる。
「走るぞ、沙織!」
「うん!」
二人は、女子高生たちが向かう方向へと走っていった。