眼鏡
もっと本読まなきゃ
彼は昇華、僕は蒸留、現実はろ過。
「見たことのない天井だ」
僕はベッドに寝かされている、病衣を着せられていた。
横には老人。医者のようだ。その顔を凝視する。
空いた窓から風が吹き付け僕の顔はそれになでられる。
再びまどろみへと意識をゆだねようとしすると
突然下半身に激痛が走った。性器を殴られたのだ。
見れば老人はすでに起きていた。
「覚めたかな?」
どうやら目覚まし代わりだったらしい。
彼は言葉を続ける。
「君は救われたのだ、安心してよい。実際は重罪だがな。
事情があって君は私のものとなった。悪いようにはせん」
それだけいうと彼は僕の寝る部屋から出て行った。
ふと、窓の外に眼をやると、見目麗しい女が花と戯れている。
その顔には赤い眼鏡がかかっていた。
僕は彼女に気づかれないよう繊細な動きで窓を乗り越え、そっと近づく。
彼女との間が5歩になる。花に心を奪われているようだ。
イマだ!!
僕の体は反射的に彼女へ向かう。
1歩、2歩、彼女が振り向く! 3歩、4歩、目が合った! 5歩
そして僕は力を込めて彼女の顔をひっかいた!
そううまくいかなかった。まるで人間じゃあない。
骨が砕ける力で手首を掴まれたのだ。
彼女の右手が僕の顔に伸びる。死が全身を覆う。ニゲロ!ニゲロ!
全神経がそう命令する。無理だ。彼女の指が唇に触れる。
オワリダオワリダオワリダオワリダオワリダオワリダ
オワリダオワリダオワリダオワリダオワリダオワリダ
――
オワッタ
眼鏡が外された。彼女は人である。花は花である。空気は空気。僕は誰? 僕は何?
僕は言葉。僕は存在しないもの。
赤い眼鏡がかけられる……
哲学っぽくなりました