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 翌日、朝早くに目を覚まして情報端末を覗き込む。画面をスクロールさせていき何か良い依頼はないか探していく。

 しかし、どれもが出向くには遠すぎる場所の依頼だったりあまりにも安い依頼だったりで、良いものが見つからなかった。

 結局、端末の電源を落として椅子に深々と座り込む。久々の、何もない一日だった。

 いつもは適当にしている朝食を揃える。そうこうしていると、ユカが目をこすりながら起き出した。

「……おはよう」

「おはよう、ございます……」

 手招きして近寄らせ、テーブルの前で座らせる。

「……あれ? ケイさん、今日は出かけないの?」

「ああ、今日は一日する事が無くてな」

 そう言って、焼いたパンと水差しをテーブルに置いた。

「……そうだな、今日は水浴びに行くか」

「水浴び?」

 パンを手に取ろうとしたユカが、怪訝そうな顔でこちらを見てくる。

「ああ。いい加減、いろいろ洗わなきゃいけないからな」

 使っている食器や、汚れた服、そして汗や垢で汚れた自分自身の体など、洗わなくてはいけない物はいくらでもある。

「でも私、着替えられる物持ってない……」

「ん? ああ、そうだ、これ」

 昨日買った服を渡していないことを思い出し、鞄の中から取り出す。

「体洗ったら、これを着ればいい」

「あ、ありがとう……ございます」

「礼はいいからさっさと食え。早いうちに水浴びに行くぞ」

 手の止まったユカに一言いって、パンを口に詰めた。


 地面に擦りそうなぐらい丈の長い外套を羽織り、ユカをその中に隠すようにして歩く。

 依頼にでる時間とはズレて人があまりいないとは言え、他人に見られないに越したことはない。

 ゆっくりと歩きある建物の中に入る。川に隣接して建てられているそこは、この街で唯一水が得られる場所だ。

 無論、タダではない。ここを管理している人間に金を渡し、タライと蛇口のあるだけの個室を借りる。

「……もう出て良いぞ」

 外套の前を開けてユカを外に出す。

「まずは食器とか洗い物を先に済ませろ。石鹸はこれ使え」

 そう言って小さくなった石鹸をユカに渡した。代わりに新しい石鹸の封を切る。

 荷物を水のかからないところに置いてタライに水を張り、食器、汚れた服と洗っていく。

「ユカ、服脱げ。洗うから」

 自分も服を脱いでいく。ユカの服、自分の服と、タライの中でジャブジャブと洗っていく。

 真っ黒になった水を捨て、もう一度水を張って石鹸で洗っていく。

「……寒いか?」

 ちらとユカを見ると、しゃがんで膝を抱えて肩を小さく震わせていた。

「外套でも羽織っていてくれ。まだしばらくかかる」

 外套をユカに渡し、衣服のたまった汚れを落とし水気を絞り取っていく。

「うし、次体洗うから、こっち来い」

 ユカに手招きして外套を脱がせ、タライに新しく水を張る。

「冷たいが我慢しろよ」

 そして一気に水を掛けた。

「冷たっ……!」

「石鹸使ってさっさと体擦りな」

 震えながら石鹸で体を擦っているユカの隣で、タライに水を張って同じように水をかぶり石鹸で体を擦る。

「あー……、背中ちゃんと洗えてねぇぞ」

 手に持った石鹸を泡立て、ユカの背中を洗ってやる。

「よし、水掛けるぞ」

 タライいっぱいの水を、上から少しずつ流して泡を落としていく。全身きれいになったユカに、水気をふき取るためのタオルを渡した。

 自分の体にも、泡を落とすために水を掛けていく。泡を落としきって素早く体を拭き、未だわたわたと体を拭くのに手間取っているユカを手伝ってやる。

「タオル貸せ。拭いてやる」

 背中や脇の下、足などを手で優しくたたくようにして水気を拭き取っていく。手の触れるほとんどが、肉の少ない骨ばった体だった。

「拭き終わったぞ。新しい服を着な」

 水がかからないように退けていた荷物から、ユカの新しい服を出して渡してやる。

 ユカが着替えている間、持ってきたタンクに水をためながら自分も着替え、使ったタオルを洗った。

「ケイさん、着替え終わったよ」

「ん、おう」

 タンクの蓋を閉め、できる限り水を絞り取った洗濯物を鞄に閉まって外套を羽織る。

 そしてユカを外套の中に隠して受け付けに行き、追加料金が無いことを確認してタライを返却し、帰路に就く。

「ユカ、ちょっと出かけてくるから家で静かに待っていてくれ」

 家の中にユカを残し、大きめの袋を持って街の中心部に向かう。目指すは食糧市場だ。体を拭いたときに気づいたが、ユカは痩せすぎている。体重を少しでも増やすため、今は多くの食糧が必要だった。

 程なくして街中心部の市場にたどり着く。ここで売っている物は新鮮な物というわけではない。

 ここにあるのは全て保存の利くものだ。クズ肉の腸詰め、質の悪いチーズやバター、形の悪い野菜の酢漬け。

 農業コロニーから金持ちに行く食料から弾かれた物の、これまた農業コロニー内でも食べないような物たち。

 小麦粉や米などの食糧も、農業コロニーで保存されていた物から日の経ちすぎた廃棄寸前の物を横流しして得られたものだ。

 右も左も、目に映る物はどれも質が悪い。だがそれでも、それを食わねば生きてはいけない。死にたくないという、たった一つの絶望から逃れるために。

 少しでも状態の良い物を探して購入していく。肉、小麦、乳製品、果物。生きるために必要なそれらを、自分自身そこまでの種類を食べるのは久々な程買って袋に詰めていく。

 久しく行ってないガルムの所へ行こうと思い立ち、酒を探そうとするとガルム本人に出会った。

「……よう、ガルム」

「ん? ケイか。ここで会うのは珍しいな」

「ああ、久々におまえの所に行こうと思ってな。酒を買いに探してたんだ」

 そこまで言うと、ガルムはニッと笑って右手を持ち上げた。

「そいつは残念だったな。最後の一本、ちょうど俺が買ったところだ」

 ガルムの右手には、黄金色の液体が入ったボトルが握られていた。

「ま、この間はお前が奢ってくれたからな。今日はお前の家でこいつを呑もうぜ」

「それはいいな……、あ、いや、ダメだ。うちで呑むのは止めよう」

 一瞬同意しかけたが、よく考えれば家にはユカがいる。それをいくらガルムと言えども、見つけられるべきではない。

「なんだ、女でも連れ込んでんのか? お前が? 珍しい。そうなりゃなんとしてもその面を肴に呑まねぇとな」

 そう言ってガルムはガハガハと笑った。たとえもう一度断ったとしてもついて来るだろう。ガルムはそういう男だ。何よりも面白そうなものを求める、この最悪な世界ですら楽しもうとする男。

 だからここは折れて、むしろガルムを抱き込むことにした。

「わかったよ。だが誰にも言うなよ?」

 買った食料の半分を持ってもらい、家まで歩く。入り口の取っ手に手をかけたところで、違和感に気づいた。

「……ガルム」

「……何があった」

 声色と声量で、ガルムが何か起きたことを察してくる。

「ピッキングされてる……」

 その言葉を言い終わらないうちに、家の中から何かが倒れる音と人がもみ合いになった音が聞こえてきた。

「っ!」

 ドアを勢いよく開けつつ拳銃を懐から引き抜く。後ろからガルムがランタンを投げ込むと、そこに照らし出されたのは見知らぬ男と口を布で塞がれ抱えられたユカだった。

「てめぇ……!」

 拳銃の引き金を引く。放たれた一発の弾丸は、吸い込まれるようにして男の左肩に潜り込んでいった。

「ぎゃっ!」

 男が悲鳴を上げてユカを離し、ユカはそのまま地面に落ちる。

 照準を合わせ、もう一度拳銃の引き金を引く。弾丸は懐にのばそうとした男の右手の甲を貫き、その場に悲鳴と赤い花を咲かせた。

 家の電気をつける。よく見るとその男は、ユカの服を買った服屋の男だった。

「ひ、ひぃっ! ほんの、ほんの出来心だったんだよ旦那。だから、だから殺さないでくれぇ……!」

 大の男が大粒の涙を流し、助命を請いてくる。一度大きく息を吸って気を落ち着けてから、男に拳銃を突きつけて言った。

「二度と関わらないと誓え。ガキがいることも漏らすな。もしも誰かに言えば、地の果てまで追いかけるぞ。傭兵の恐ろしさを、知らぬとは言うまい」

「は、はいぃぃ……」

 そうして男は、点々と血を残しながらヨタヨタと逃げていった。

 地面に倒れたままのユカに近寄り、口を覆っている布や手足を縛っていた紐をほどく。

「大丈夫か?」

「け、ケイさん、怖かったよぉ……」

 静かに泣き始めるユカを抱き上げながら、優しくポンポンと背中をたたく。

「へぇ、ケイにそんな趣味があったとはな」

「ちげぇよ」

 ふざけたことを言ってくるガルムに反論する。

「はっ、わかってるっての。どうせ助けてくれと泣きつかれて助けちまったんだろ?」

 図星だったために押し黙る。

「まったく、甘ちゃんだなお前は。さっきの男もそうだ。なぜ殺さない」

「……殺した後の死体処理が面倒だからだ」

 殺さなかった理由の一つを口にする。

「どうせあの怪我じゃ、長くは生きられないだろうよ」

 床に残っている血はおびただしい量で、早くに止血しなければあの男は失血死するだろう。

「んー、まあそうだな。んじゃさっさと床を綺麗にして呑みますか」

 適当な布をガルムに投げてよこす。自分もユカを抱えながら、床に残った血を拭き取った。


 ランタンの明かりを絞り、俺は自分のコップで、ガルムは持参したコップで酒をゆっくりと呑む。

「……しかしお前、そのガキを養えるだけの余裕はあるのか?」

 唐突にガルムが尋ねてくる。

「まあ、大丈夫だ。今まで一人だった分、な」

「昼間は? ここに放置か?」

 その通りなので黙って酒を一口呑む。抱えていたユカはすぐに泣き疲れて眠ってしまい、首に回された手をほどいて起こしてしまうのが可哀想で抱えたまま寝かせている。

「またいつ襲われるかわからねぇぞ。今までが偶然、襲われなかっただけだ」

「分かってる」

 そう、分かってる。いつまでも見つからずに安全なんて事はあり得ない。

「……なあガルム。お前の所に預けるのはダメか? 日中、俺が仕事に出てるときだけでいいんだ」

「俺に何か見返りがあれば考えてやらんこともない」

「ちゃんと礼はする。ガルムは仕事の合間にでも、ユカが危ない目に遭わないか見ているだけで良い。頼む」

 そういって頭を下げる。

「……顔を上げろ。酒だ。毎回呑む酒をお前が持ってくるなら、そのガキの面倒を見てやる」

「ありがとう。恩に着るよ」

 空になっていたガルムのコップに酒を注ぎ、自分のコップにも酒を注ぎ足して一気に呷る。

 後はただ静かに、酒を呑みながら夜を過ごしていった。


 翌朝、情報端末から依頼を一つ見つけてユカを起こす。

「ユカ、昨日俺と一緒にいた人を覚えているか?」

「……うん」

「今日から俺がいない間はその人の家で静かに待っていてくれ。今から行くから、準備してくれ」

 ユカが毛布を畳んでいる間に丈の長い外套を羽織る。そしてその中にユカを隠して家を出た。

 多少早歩きだったためか、すぐにガルムの工房に着く。呼び鈴を鳴らして扉をゆっくり開け、さっと中に入る。

「おはよう、ガルム」

「……ああ、おはよう」

 もう既に工作機械をいじっているガルムと挨拶を交わす。

「それじゃ、ユカを頼む」

 そう言って外套の中からユカを出す。

「その娘はユカっていうのか。おう、任された。心行くまで稼いでこい」

 ユカの頭を一回撫で、ガルムの工房を出る。今日の依頼は簡単だ。廃墟の街にて発見された改造生物の排除。早いとこ指定場所に行き受領登録してしまいたい。定員数が設定されているからだ。

 掲示板に登録されて五分で見つけられたのは運が良かった。他より一回り報酬額の大きいこの依頼はすぐに人が集まるだろう。指定場所が近いことも、いっそう運が良かった。

 指定場所に着く。最終的に集まったのは十五人、定員数集まってからはその後やってくる人は追い返されていく。

 依頼主は三大勢力の一つだった。産業拠点化しようとしたところで改造生物が見つかったためこれを排除してほしいとのこと。

 弾薬を二百発支給され、三人一組で隊を組む。そして各隊に通信機が一つ渡された。

 依頼主からの事前情報は二つ。数が三体であることと、今まで見たことのない種類であること。

 だがまあ、不死の物はこの世には存在しない。見つけ次第撃ち殺して、報酬を貰う。

 渡された索敵範囲の地図を基に各隊で探索経路を決める。そして廃墟の街へ足を踏み入れた。

 同じ隊の人間は熊のような大柄な男と性別が一瞬分からなくなる痩せた体格の女。

 女の胸がないのは恐らく切り落としたからだろう。この世界で、遊女でもない限り女性の象徴なんて物は無駄なものだ。体内に釘を仕込む奴もいると聞く。

 対して男の方はわかりやすい。体格が大きければその分体力もあり、重い武器すら軽々と使えるようになる。

 そんな隊の先頭を歩いて、瓦礫にまみれた廃墟の街を進む。

『こちらポイントデルタ、入り込んだ改造生物はまだ見つからない』

『ポイントアルファ、こちらもまだ見つからないわ。もう少し探してみる』

 出発点に近いポイントの探索チームから、改造生物は未発見であることが伝えられる。

『ポイントエコーにも改造生物は見当たらない。このまま見つからなければ、丸儲けだな俺ら』

『そりゃ最高だな……、ちょっと待て。ポイントチャーリー、改造生物らしき姿を確認、数は一。何だあいつ等、見たことねぇ。人型……?』

 軽口を叩き合っていたところで改造生物発見の報を聞く。既に探索を済ませたアルファとデルタ、エコーが順に向かうことを無線で告げた。

「聞こえたとおりチャーリーで改造生物が見つかったらしい。ポイントブラボーの探索が済み次第、俺たちもチャーリーに向かおうと思う」

「それで問題はないな」

 急ぎポイントブラボーまで行き、瓦礫の陰や廃墟の中を手早く探索する。そして改造生物がいないことを無線で伝えた。

「こちらポイントブラボー、改造生物無し。チャーリーに移動して加勢する」

 一拍おいて無線が返ってくる。

『了っ解……、だがブラボーで待機してくれ。そちらに撤退する! くそっ、理由はそちらに先行した奴に聞いてくれ!』

 無線からは緊迫した状況と銃声が伝わってくる。

 しばらく待つとエコーの隊の人間がこちらに走ってきた。

「どうした、何があった!」

「はぁ……はぁ……、チャーリーの隊が、全滅した。改造生物の奇襲を受けたようだった」

 荒い息をつき座り込みながらエコーの隊の人間が言う。

「奇襲、つまりあいつ等には策を練る知性があるって言うのか?」

 そう言ったのは後ろで腕を組んでいた同じ隊の女だった。

「知性なんてものじゃねぇ。あれはおそらくベースが人間だ。チャーリーの奴らは、待ち伏せを食らったんだ。二体隠れてやがった! 銃弾を打ち込んでもこっちに向かって来やがるし、くそっ」

 息を整えたエコーの隊の人間が立ち上がる。

「これから俺は向こうに戻ってここまで誘導してくる。お前等はここで隠れて奴らの背中を撃て。相手は強靭な改造生物だ、ありったけの弾を撃ち込め」

 そう言って走っていくのを見送り、自分たちは瓦礫の陰に隠れられる場所を探す。

 そして息を潜めること十数分、別の場所の探索をしていた隊がバラけて隠れている自分たちの前を走り抜けていった。

 その後ろを改造生物が追いかけていく。体中に銃痕を刻み血を垂れ流しているにも関わらず、怯むことなく追いかけていた。

「今だ!」

 改造生物が走り抜け背中を見せたところで、全員で瓦礫から飛び出して銃の引き金を引く。

「ガアアァァアァ!」

 流石に銃弾の雨が背後から襲いかかってくるのには驚いたのだろう。一体はその場で転び、一体はその場でパニックに陥ったのかキョロキョロと回りだし、残る一体は振り向いたものの三方向からの銃弾にどれを標的にするか迷って立ち止まった。

「全員転身、足が止まった改造生物にありったけの弾をぶちまけろ!」

 逃げていた他の隊も攻撃に加わり、改造生物を蜂の巣にしていく。腕が飛び、足が折れ、改造生物の呻き声が聞こえなくなって漸く、引き金から指を離した。

「よーし、改造生物の頭を切り取るぞー」

 デルタの隊の男がナイフを取り出し、改造生物の死体に近づく。

「これどう見ても、人間だよねぇ」

 近くに残りの改造生物がいないか警戒しながら、一人また一人と改造生物の死体に近寄っていく。

 その姿は改造生物の例に漏れず、体毛はなく変色した皮膚と隆起した筋肉、代謝によって流れた汗にまみれていた。

 だがその形状は獣などではなく、ある意味見慣れた、二足歩行の動物の姿だった。

「今後はこんなのも相手しなければいけないのかねぇ。全くいやになるよー」

 デルタの隊の男が言った言葉が、何故か耳にこびり付いた。


 改造生物の頭を回収した後、一応チャーリーに生存者がいるか確認して依頼主のところに戻る。

「改造生物は三体、全部排除に成功と。確認した、報酬を持ってこよう」

 依頼主が小間使いに何か言うと、すぐに小間使いは走っていった。

 各々が思い思いの場所に座って報酬を待つ。だがその間に一人の男が口を開いた。

「なぁ依頼主さんよー、この種の改造生物は、いつ頃から見つかってるんだ?」

 それは改造生物の頭を切り落とした、デルタの隊だった男だった。

「……我々も初めて見る。だがそれがどうした?」

「いやぁ、ぶっちゃけ、どこがこいつら造ってるのかなーとね」

 へらへらとした口調で言ってはいるが、その目は真っ直ぐに依頼主を見ていた。

「……少なくとも我々ではないな。人を使うなどという冒涜的なこと、我々はしない」

 そうこうしているうちに小間使いがアタッシュケースを持ってきて開いた。

「報酬は自分たちで分け合うといい」

 そう言って依頼主が去っていく。いがみ合ったり争ったりせずに報酬を分け合う俺たちを、小間使いが憎らしそうな目で見ていた。


 ガルムの所によってユカを回収し、外套の中に隠して家に帰る。

 缶詰めと野菜の酢漬け、そして適当にパンをテーブルに置いて、静かに食事をとる。

 頭の中は今日殺した人の姿をした改造生物の事でいっぱいだった。

 噂では改造生物は子供に薬物を投与して造るらしい。筋肉が壊れやすくなる薬物と、大量の栄養を与えられて。

 ふとユカを見る。初めて会ったときの言葉を思い出した。改造生物を造ることを生業にしている者に捕まっていたら、改造されてどこかで誰かに殺されていたのだろうか。

 それか改造生物の母体として使い潰されていたのかもしれない。

「ケイさん? どうしたの、食べないで」

 食べる手が止まっていた。

「……いや、大丈夫だ。何でもない」

 人ですら改造生物になる。その事が恐ろしく感じた。

次は4/29の18:00

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