9話 地底洞窟の守護者現る
テールシザーを倒してから二日後、私は再びミミズさんとともに洞窟内を探索していた。
その間、実に多くの魔物と遭遇した……のだが。
「ねぇ、ミミズさん」
「なんじゃ?」
「さっきから、テールシザーにしか遭遇してないんだけど」
そう、探索中に出くわした魔物は、何故かテールシザーばかりだった。
その数、ざっと二十匹。おかげでレベルは5に上がったが……。
「うむ……おかしいのぅ。儂が全盛期だった頃は、多種多様な魔物がいたんじゃがのぅ……」
「……全盛期って何年前?」
「たしか……九百年前じゃったかのぅ?」
私は無言で、ミミズさんを前脚で引っ叩いた。
「な、何をするんじゃおぬし!?」
「うるさいよ! 九百年も経ってたら変わるの当たり前でしょ!? あんた、やっぱバカでしょ!?」
「ば、バカとはなんじゃ!? バカって言ったほうがバカなんじゃぞ!」
「子供か!」
そんなくだらない言い争いをしていたその時——進行方向に、新たな魔物の気配があった。
「おお、やっと別の魔物に遭遇したぞ!」
「あれって……トカゲ、か?」
私たちの進む先に現れたのは、全長70センチほどの大きなトカゲだった。
すぐにステータスを確認する。
ステータス
名前:なし
種族:甲殻鱗蜥蜴
レベル:7
属性:地
称号:なし
スキル:防御甲殻鱗
……なかなか強そうだ。
防御甲殻鱗か……私の角で貫けるか心配になる。
ひょっとしたら、負けるかもしれない。
そんな私の不安を察したのか、ミミズさんが笑いながら言った。
「フハハハハハハ! 安心せい! あの程度の雑魚にやられるおぬしではない! 魔王たるもの、堂々としておれ!」
「ミミズさん……そうだな、私は魔王なんだ! あんなトカゲに負けてたまるか!」
その時、スケイルリザードがこちらに気づき、突進してきた! 私は身構える。
「さあ来い! 受けて立つぞ!」
その瞬間——スケイルリザードの姿が、消えた。
……いや、消えたわけではない。
地面から突然現れた何かに、喰われていたのだ。
バキバキ……ボキャ!
骨の折れる音。恐らく頭蓋骨ごと食われている。
私は慌てて、魔物の姿を観察した。
全長3メートルはある巨体。触覚と巨大な顎肢を備えた頭部。細長い胴体には無数の足……これは、百足だ。
見た目からして、恐らく——トビズムカデ。日本産のムカデでは最大級の種。
私はすぐに鑑定を使う。そして表示されたステータスに、凍りついた。
ステータス
名前:クルーザー
種族:地獄百足
レベル:35
属性:地
称号:地底洞窟の守護者
スキル:猛毒の牙、毒耐性、怪力鋏、昆虫鎧
ユニークスキル:穴堀の達人
勝てない。
今の私では、絶対に勝てない相手だ。
逃げなければ、殺される。
今ならまだ、食事中の今なら——!
「ミミズさん! 逃げ——」
「なにしとるんじゃあ! さっさと逃げるぞー!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
さっきまで隣にいたミミズさんは、ものすごいスピードで逃げていた!
え、あのミミズってそんなに速く動けるの!? っていうか、そんなこと考えてる場合じゃない!
「ちょ、置いていかないでよーっ!」
私は、カブトムシってこんなに速く動けたっけ? と思うほどの勢いでミミズさんを追いかける。
だが、その音に気付いたヘルセンチピードがこちらを振り向き——
「キシャァァァァァァァァァァァァァァ!!」
洞窟が震えるような咆哮を上げて、こちらへ突っ込んできた!
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!? こっち来たぁぁぁぁぁ!?」
「叫んどる場合かぁ! とにかく走れぇぇぇぇぇぇ!」
私とミミズさんは洞窟の中を全力で逃げ回る!
しかし、ヘルセンチピードはしつこく私たちを追い続けてくる。
「キシャアアアアッッ!!」
「まずい、追いつかれ……うわあぁっ!?」
ヘルセンチピードが突進してきた! 私はとっさに横跳びして回避!
「キシャアァッッ!」
「何っ!? ぐはぁっっ!?」
細長い胴体を鞭のようにしならせての一撃! 私は壁に叩きつけられ、地面に転がった。
「ヤタイズナッ!?」
「ぐ、うぅ……」
全身に激痛が走る。だが、まだ意識はある。……立ち上がるんだ……!
「キシャアァァァァァ……」
ヘルセンチピードが顎肢をカチカチ鳴らしながら、ゆっくりと迫ってくる。
このままじゃ……やられる……!
「キシャアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
顎肢を大きく広げて突進してくる!
こうなったら……一か八か!
私は前脚を畳み、姿勢を低くして突進を回避。角を頭部の下に滑り込ませ——
「キシャアア!?」
「オラァァァァァァァァッッ!!」
そのまま持ち上げ、思い切り投げ飛ばす! ヘルセンチピードは天井に激突し、土煙が舞い上がった。
「ヤタイズナ、大丈夫か?」
「なんとか……今のうちに、逃げて……!」
「ギシャアアアアアア!!」
瓦礫をぶち破り、ヘルセンチピードが飛び出す!
多少の傷はあるものの、まるでダメージが通っていない……!
「くそっ……どうする、ミミズさん! このままじゃ……!」
「こうなれば最後の手段じゃ! 《昆虫召喚》を使うのじゃ!」
「はあ!? 今それ使うの!?」
「いいから使えぇぇぇ!」
「……わかったよ! 《昆虫召喚》!」
言葉とともに、ヘルセンチピードの目の前に魔法陣が現れる。
光の中から現れたのは——昆虫の卵だった!
「キシャアアッ……!?」
ヘルセンチピードは一瞬戸惑いながらも、すぐに卵に噛みついた。
だが——ガキンッ! 硬すぎて傷ひとつ付かない!
「キシャアアアア……キシャアアッッ!」
苛立ったヘルセンチピードは、卵に向かって攻撃を繰り返す。
「よし! 今のうちじゃあああああ!」
私とミミズさんは、全力でその場から逃げ出した——!
私たちはヘルセンチピードを囮にして、なんとか洞窟の最深部まで戻ってくることができた。
心身ともに疲れ切って、私はその場に倒れ込む。
そんなボロボロの私を見て、スティンガーはとても心配してくれた。
(ごしゅじん、だいじょうぶ!? しっかりしてー!)
そう言って、必死に励ましてくれたのだ。
ちなみにミミズさんも、私と同じく地面に突っ伏していた。
「そういえばミミズさん、卵を囮に使うなんて、よく思いついたね」
「うむ。三日に一度しか使えぬ奥の手じゃ。最後の手段として使うがよいぞ」
「わかった……。ところでさ、ミミズさん。あの百足を鑑定してみたんだけど、アイツ……名前持ちだったよ」
「そ、そうなのか……」
「……もしかして、だけどさ。あの百足のこと、知ってた?」
「……たぶん、あれ、儂が召喚したヤツじゃと思う……」
「スティンガー! 今日の夕食はこのミミズに決定!」
(わーい! いただきまーす♪)
「めおぉぉぉぉ!? 待て! やめるのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
――その頃、ヘルセンチピードは、まだ卵と格闘していたとか……。




