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虫から始める魔王道  作者: 稲生景


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7話 孵化

昆虫の卵を召喚してから、一週間が経った。


その間、食事はどうすればいいのかとミミズさんに尋ねてみたのだが――


「言ってなかったかのう? 昆虫の卵から生まれた者たちは、一週間くらいは食べなくても平気じゃぞ?」


初耳だった。


(このミミズ、まだ隠してること多すぎない?)


……と一瞬思ったけど、考えるのも馬鹿らしくなってやめた。


この一週間で、さらに二つの卵を召喚してわかったことがある。

まず、召喚される卵の大きさはそれぞれ違うということ。


二つ目の卵は20センチほどで、三つ目は15センチ。

これはきっと、生まれてくる虫のサイズに応じて違うのだろう。


「はて、そろそろ孵化してもよい頃なんじゃがのう……」


「そうなの?」


「うむ。昆虫の卵は、早ければ三日で孵化するのじゃが……おかしいのう?」

「もしかして、中から割る力が足りないとか?」

「それは無い。……昆虫の卵のスキル、覚えておるか?」

「ああ……たしか『絶対防殻』だったっけ?」

「うむ。鑑定で詳細を確認したじゃろう?」

「え、できるの?」

「鑑定を使った後、スキルに意識を向けて“詳細確認”と念じればできるのじゃ」


――また初耳だった。


さすがにそろそろ引っぱたこうかと思ったが、まずは卵に鑑定を使って、スキルの詳細を確認してみた。





ユニークスキル:絶対防殻

昆虫の卵のみが所持する常時発動型スキル。あらゆる外部からの攻撃・状態異常を完全に遮断する。このスキルは孵化と同時に消滅する。




なにそれチートスキル!?

つまり孵化するまで、誰にも壊せないってこと?


「このスキルは外からでは壊せん。生まれてくる者にしか破れんのじゃ。しかも、中からなら簡単に破れるという優れモノじゃ」


ミミズさんがそう言ったと同時に、卵にひびが入った。


「おお、どうやら生まれるようじゃのう」

「さて、どんなやつが出てくるのかな……」


私は期待の目で卵を見つめる。


パキパキ……パキン!


ついに卵が割れ、中から現れたのは――


「ぴぃぃぃーーー!」


さそりだった。

全長25センチほど。黄色と黒の体に、大きな尻尾を持っている。


私の知識ではこれは“オブトサソリ”――節足動物鋏角亜門サソリ目、キョクトウサソリ科に属するサソリ。主に中東やヨーロッパに生息し、「デスストーカー」とも呼ばれる、非常に毒性の強い種類だ。


名の通り、鋏よりも尾が太く、毒針の威力は抜群。獲物を仕留めるのも防衛も、積極的に毒針を使う。その毒性は人間ですら死亡例があるほどで、砂漠の厳しい環境で確実に獲物を仕留めるために進化した凶悪なサソリだ。


素早く、走る速度も方向転換も速い。気性も荒く、攻撃性も高い。日本では輸入すら禁止されている。


……しかし、昆虫の卵って名前なのに、昆虫じゃないのも出てくるんだな。

蠍は蜘蛛の仲間で、昆虫じゃないんだけど……まあ、虫全般好きだから、全然問題ないけど。


ミミズさんは少し驚いた様子で口を開いた。


「ほぉ、スコルピオンか。珍しい奴が生まれたのう」

「そんなに珍しいの?」

「うむ。儂のときは、2、3匹しか見たことがない。鑑定してみたらどうじゃ?」


言われるままに鑑定を使うと、蠍のステータスが表示された。







ステータス

名前:無し

種族:スコルピオン(希少種)

レベル:1

称号:魔王のしもべ

属性:地

スキル:毒針







……希少種? ってことはレアってことか?


気になって聞いてみると――


「なんと! 希少種とな!? おぬし運がよいのう。儂ですら出したことないんじゃぞ!」

「え、本当に!? やっぱコイツ、超レアなんだ……!」


そう話していると、蠍がこちらへ歩いてきて、小さな声で鳴いた。


そして――


(はじめましてごしゅじん! ぼくのなまえなーに? おしえておしえてー!)

「ミミズさん、なんか名前を聞いてきたんだけど……?」

「なにを言っとる。名づけるのはおぬしじゃろうが。しもべなんじゃぞ?」


名前か……どうしよう。そうだ!


「よし! お前の名前は《スティンガー》だ!」


スティンガー――意味は“刺す者”だ。

尻尾がでかいし、何でも貫けそうだしな。


スティンガーは嬉しそうに尻尾をブンブン振りながら鳴いた。


(わかった! ぼくスティンガー! かっこいいなまえありがとーごしゅじん! ぼくがんばるねー♪)


嬉しそうなスティンガー……だが、しばらくするとピタリと動きを止め、再び鳴いた。


(ごしゅじーん……おなかすいたー。そこのミミズたべていい?)


ミミズさんは、すごい勢いで私の背後に隠れた。


「こ、こいつ今、儂を食おうとしとったじゃろ!? 儂は食い物ではないぞ!? おぬしからも何か言ってくれ!」

「スティンガー、このミミズさん食べたら、お腹壊すからやめた方がいいぞー?」

(そうなのー?)

「おいぃ!? いくらなんでも言い方というもんがあるじゃろうが!」

(うー……おなかすいたー……あ! たべものだー!)


スティンガーは、自分の卵の殻を食べ始めた。


「ミミズさん、あれって食べられるの?」

「ん? ああ、卵から生まれた者は一週間食べずとも平気なはずじゃが、稀に腹をすかして食う者もおるぞ?」

「へー……あれ? そういえば私の卵の殻はどこ行った? あれも食べられるんでしょ?」

「え、あー……それはのぅ……」


ミミズさんは、吹けもしない口笛を吹いている……まさか。


「ミミズさん……まさか食べたとか?」

「そのぅ……なんじゃ……美味かったぞ?」


その一言で、私はミミズさんに角を振りかざした。


「ぬおぉぉぉぉ!? な、何するんじゃあ!」

「何するんだ、じゃねぇよ!? なんであんたが食ってんだよ!」

「新しい体になってから、ちと小腹が空いてのぅ……す、すまん、許してくれぇー!」

(もぐもぐ……おいしー♪)


私がミミズさんに角を振り回している間、スティンガーは幸せそうに卵の殻を食べていた。

スティンガーが仲間に加わった!

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