6話 虫愛づる姫君
ランド大樹海の東に位置する国家、アメリア王国。
この国は緑豊かな土地として知られ、主に農業が盛んな平和な王国である。
しかし、約一年前から突如として魔物の活動が活発化し、周辺国家は大きな被害を受けた。アメリア王国も例外ではなく、その脅威に晒されることとなった。
この事態を収めるため、アメリア王国は古来より伝わる「勇者召喚の儀」を執り行い、四人の勇者を異世界より召喚した。
その結果、勇者たちの力によって魔物は王国周辺から姿を消し、再び平和が訪れたのだった。
――それから一ヶ月が経った、ある日のこと。
アメリア王国城の庭園で、一人の少女が蝶と戯れていた。
そこへ、年老いた執事が慌ただしくやってくる。
「姫様! ここにおられましたか。勝手に外へ出られては困りますぞ! 爺にも立場というものが……」
「もう、うるさいわね、爺や! せっかくの蝶々さんが逃げちゃったじゃない!」
少女の名は、オリーブ・アメリア。アメリア王国の王女である。
「姫様……そろそろ虫と戯れるのはおやめになってはいかがでしょうか」
「その言葉、何度聞いたかしら。……それで、用件は何?」
「はっ、国王様が姫様をお呼びでして。お話があるとのことです」
オリーブは、うんざりした様子でため息をつく。
「今はお父様に会いたくありません。どうせまた、“勇者様と結婚しろ”って話でしょう?」
「姫様……勇者様はこの国を救ってくださった英雄。結婚に反対される理由など――」
「いくら英雄でも、よく知らない人といきなり結婚なんて、私は絶対に嫌です! それに……」
「それに?」
「タイプじゃありません」
そう、まったく好みではなかったのだ。
世の女性たちは勇者を一目見るなり黄色い声をあげるけれど、一体どこがいいというのか?
確かに整った顔立ちではある。だが、歓声を上げるほどのものか? と私は思った。
それなのに父は勇者の一人をいたく気に入り、「娘を嫁にやる」などと言い出したのだ。
“何を言ってるんですかこの人!?”と、心の中で私は叫んだ。
しかも当の勇者も、まんざらでもない様子だった。
私は「結婚は嫌です」とはっきり言ったのに、気がつけば“婚約者”になっていた。
“嫌って言ってるのに、なぜ婚約者なの!?” そのときも心の中で絶叫した。
「私は部屋に戻ります。お父様にはお会いしませんから!」
「ひ、姫様!? お待ちください!」
爺やの呼び声を無視して、私は部屋へ向かう。
しかし、向かった先には、四つの人影があった――
「あら? オリーブ姫じゃない。こんなところでどうしたの?」
……勇者様たちだった。なんてタイミングの悪い人たち。
「こ、これはアヤカ様、それに皆様も……」
「おはよう、姫様。今日はいい天気だねー」
「お、おはようございます、姫様……」
これが、勇者様たちである。
右から、アヤカ・タチバナ様、カイト・モリヤマ様、ミズキ・ワタナベ様、そして……
「おはよう、オリーブ。今日も綺麗だね」
……この爽やかすぎる人が、私の婚約者・ユウヤ・オオトリ様。
「お、おはようございます、ユウヤ様。今日はどうしてこちらに?」
「王様に呼ばれたんだ。西の方で魔物が暴れてるらしくて、討伐に行ってくれって」
「そ、そうですか。……頑張ってきてくださいね?」
「ああ! すぐに魔物を倒して、君のもとに帰ってくるよ!」
颯爽と走り出していくユウヤ様。……そんなに早く帰って来なくてもいいんですけど。
「ちょ、待てよ悠矢!」
「そ、そんなに急がないでくださいよ~」
「まったく……ごめんなさいね、オリーブ姫。あいつ、あなたと結婚する気満々で……」
「い、いえ、アヤカ様が謝ることでは……」
「でも、あなたは悠矢と結婚したくないんでしょう? 何とかしてあげたいんだけど、あいつ、昔から人の話聞かなくてさ……」
「アヤカ! 何してるんだ、早く来いよ!」
「わかった、すぐ行くわ! ……じゃあオリーブ姫、またね」
「あ、はい! いってらっしゃいませ、アヤカ様」
勇者様たちはそのまま出発していった。
アヤカ様は私の数少ない相談相手であり、ユウヤ様の幼馴染。彼の暴走を止められる、貴重な存在である。
私は部屋に戻り、テーブルの上に置かれた本を開いた。
それは「昆虫図鑑」と呼ばれる、さまざまな虫の絵が載った本だ。
――そう、私は昆虫が大好きなのだ!
私はお気に入りのページをめくる。そこには「カブトムシ」と呼ばれる昆虫が描かれている。
子供の頃、城の庭にある木に止まっていたカブトムシ。
あのカブトムシはすぐにどこかへ飛んで行ってしまったが、私は今でもあのときの光景を忘れられない。
ため息をつきながら、私は天井を見上げる。
もう一度、あのカブトムシに会いたい――そう願いながら。
――その頃、ヤタイズナとミミズさんは……
「何で“3日に1回”なんだよ!? せめて5回にしてくれ!」
「まだ言うか、このたわけ! それほど強力なスキルだというのが、なぜわからんのじゃ!」
「何だと!? もう我慢できん、叩き潰してやる!」
「ああん!? やる気かぬし!? 儂は元魔王じゃぞ!」
「(笑)だけどなぁ!?」
「“笑”言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
……まだ口論してたのか。
今回ミミズさんたちの出番は少なめになりました。




