39話 お伽話
アメリア王国 王城の一室にて
その部屋には、一人の老執事が佇んでいた。
――私の名はクラウス・ジーイヤー。
アメリア王国に仕える執事であり、皆からは親しみを込めて「爺や」と呼ばれております。
我がジーイヤー家は、代々この国に仕えてきた由緒ある家系。その誇りを胸に、私も若かりし日の陛下にお仕えし、この王国に尽くしてまいりました。
そして今、私は陛下のご息女――オリーブ・アメリア様にお仕えしております。
姫様は心優しく、そしてその美しさもまた、まさにこの国の宝と呼ぶにふさわしいお方です。
……しかし、最近の姫様のご様子がどこかおかしいのです。
元気がなく、庭園におられるときも、ため息をつかれることが多くなりました。
メイドたちの話では、時おり「……イズナ……ん……逢い……い……」といった、聞き取れない独り言を呟かれているとか。
姫様の様子が変わり始めたのは、私がしばらく城を離れていた頃のことのようですが――
問いただしても、「爺やに話してもわかってもらえないから」と、何も教えてくださいません。
最近では、私に対してもどこかよそよそしく接してこられます……
かつては、絵本を読んでほしいと、私の元に駆け寄ってこられたあの姫様が……
私は思い出す。あの頃――幼き姫様と過ごした、優しく懐かしい日々を……
十年前の庭園にて
――姫様がまだ幼く、元気いっぱいの無邪気な少女だったころ。
「爺やー!」
「おや、姫様。どうなさいましたか?」
「じいやさん、こんにちはー!」
「こんにちは、ウィズ様。お二人そろって、私に何かご用でしょうか?」
「うん! 爺やにこれを読んでもらいたくて!」
「絵本ですか。承知いたしました」
私は庭園で、姫様とそのお友達に絵本を読んで差し上げました。
そのお話は、平和な国に突如現れた魔王が姫をさらい、勇者が魔王の城へ助けに向かうというものでした。
姫様たちは目を輝かせながら、物語に耳を傾けておられました。
「こうして魔王は倒され、勇者は助け出したお姫様と幸せに暮らしましたとさ……めでたし、めでたし」
「すごーい! 勇者様ってとっても強いんだね!」
「ゆうしゃ、かっこよかったー!」
「ねぇ爺や! 私のところにも魔王、来てくれないかな?」
「どうしてですか?」
「だって、魔王にさらわれれば、勇者様が助けに来てくれるんでしょ? だから来てくれないかなーって!」
「なるほど、そういう意味でしたか。では、いつかきっと姫様の前にも、勇者様が現れてくださいますよ」
「爺や! 魔王がいなきゃ勇者様は来ないでしょ? 魔王もいなきゃダメなのよ!」
「確かに。きっと魔王と勇者が、姫様のもとに現れてくださるでしょう」
「うん!」
「おねえちゃん、うれしそう〜」
こうして私たちは、庭園で楽しいひとときを過ごしました。
あの頃の姫様は、勇者の物語に夢中でした。
しかし翌年、姫様は急に勇者の話に興味を示さなくなりました。
きっかけは、庭園でとある虫――カブトムシを見つけたことでした。
「爺や! いま庭園でカブトムシさんを見たの! この本に載ってる、これだよ!」
「そ、そうですか……よかったですね、姫様」
「うん! はぁぁ……カブトムシさん、かっこよかったなぁ〜」
カブトムシのことを語る姫様は、まるで恋する乙女のようでした。
それから月日は流れ、姫様は美しくご成長なされましたが……
いまだに虫に夢中で、庭園では虫たちと戯れておられます。
さすがにこのままではいけないと思い、私は姫様に「虫と戯れるのはお控えください」と申し上げました。
しかし、姫様は顔を曇らせ、こう言われたのです。
「爺やもお父様と同じ……私の趣味を理解してくれないのですね! もういいです! 爺やなんて嫌い!」
それ以来、姫様は私に冷たく接するようになってしまいました。
それでも月日が経ち、ようやく姫様の態度が和らいできた……そう思った矢先、また新たな問題が発生したのです。
それは、姫様と“勇者”との婚約話。
この国を救った勇者の一人――ユウヤ・オオトリ様を陛下がお気に召し、姫様とのご婚約をお決めになったのです。
私としては、国を救った勇者様と姫様が結ばれれば、国の未来も安泰であると信じておりました。
しかし姫様は、勇者様との結婚を固く拒まれました。
陛下と私は何とか説得しようとしましたが、姫様は耳を貸してくださらず……また、私に対して冷たい態度を取られるようになってしまいました。
――ああ、どうしてこうなってしまったのでしょうか……
姫様のお気持ちも尊重したい……しかし、我が一族は代々アメリア王家に仕えてきた身。
陛下のご意志に逆らうことなど、できようはずもないのです。
ですが、だからといって……
ああ、私はこれからどうすれば……
私は自室にこもり、ただただ悩み続けておりました。
「第12回 ・次回予告の道ー!」
「というわけで、今回の主役はオリーブの執事、爺やさんでしたー!」
「まさか……モブキャラが主役の回とはな……」
「まあ、たまにはこんな話もいいんじゃない?」
「……そうかのう……」
「さて、次回は再び私たちの出番に戻るよ!」
「儂の出番は多いんじゃろうな?」
「それは次回のお楽しみってことで! というわけで、次回――『成長』! お楽しみに!」
※このコーナーは作者の気まぐれでお届けしているため、次回タイトルが変更される場合があります。ご了承ください。




