3話 魔王道の始まり
前回の三つの出来事!!
「ど、どうしたんじゃいきなり!」
一つ、魔蟲王ヤタイズナの名前が“ミミズさん”になったこと!
「なっとらんわ、このたわけ!」
二つ、ミミズさんは意外と寂しがりやだったということ!!
「だから寂しくないと言っておろうが!」
三つ、ミミズさんはなんと、私に魔王になれと言ってきたのだ!!!
「最後だけ普通に締めよった!?」
――とまぁ、私が好きだった某特撮ヒーローのあらすじ風にまとめてみた!
……途中、ミミズさんがツッコミ入れてきたけど。
とりあえず話を戻そう。そう、ミミズさんが私に「魔王になれ」と言ってきたことだ。
本気か? 本気で私に魔王になれと? 驚いている私を見て、ミミズさんはこう言った。
「本気じゃ。マジと書いて本気じゃ!」
いや、逆に信じられないよ!? ていうか、なんでその言い回しを知ってるんだ!?
「言ったであろう? おぬしの頭の中を読んだと……おぬしの記憶を辿って、言語はあらかた理解したぞ?」
な、何だって!? つまり今の私は丸裸同然!? プライバシーも何もあったもんじゃない!
「……安心せい。記憶を読めたのは、まだおぬしが生まれたてで、頭に鍵がかかっておらんかったからじゃ。もうじき、読めるのは考えていることぐらいになるわ……とりあえず続きを聞いてくれ。
実は復活してからの二百年間、ずっと召喚し続けたせいで、魔力切れを起こしてのう……この体を保つのも限界なんじゃよ」
「キュ、キュキュイ?」(え、そうなの?)
「うむ。そんな時、ついに知能を持つおぬしが生まれてきた……まさに天啓……頼む、儂の願いを聞き届けてくれぬか」
頼む……と、ミミズさんは頭を下げてきた。
どうするべきか……確かにミミズさんは私の“生みの親”なわけだしなぁ……
「キュイキュキュー?」(魔王になれば何ができるの?)と聞いてみた。
「うむ! 儂の名とスキルを一つ、受け継ぐことができるのじゃ!」
スキル? 一体どんなスキルなんだろう?
「儂のみが使える、唯一無二のスキルなのじゃ!」
な、なんか凄そうだ! 何ていうスキルなの? と聞いてみたが――
「ふふふ……それは、受け継いでからのお楽しみというやつじゃ!」
だそうで……。
私は腹を決めて、ミミズさんに言った。
「キュイ、キュキュイ!」(わかった、魔王になるよ!)
「本当か!」
ミミズさんは嬉しさを隠しきれないのか、三つの頭を左右にぶんぶんと振る。
本当に長い間、私のような知性を持つ個体が生まれるのを待っていたんだな……その心労は、私には計り知れない。ミミズさんの願い、無下にはできない。
「よし! ではさっそく、魔王継承の儀を行うぞ!」
え、もう!? 早くない!?
「汝、我が名を継ぎ、魔王となることを誓うか?」
「キ、キュイ……」(は、はい)
返事をした瞬間、私の体が発光し始めた。こ、これは一体!?
私が驚く中、ミミズさんの身体も発光し、私たちを中心に巨大な魔法陣が展開された!
「我、魔蟲王ヤタイズナは、この者に我が名を継承させ、新たな魔王とすることを誓う!」
ミミズさんが叫ぶと同時に、その身体から膨大な光の奔流が放たれ、私へと注ぎ込まれた!
それは私を包み、体の中へと染み込んでいく!
「キュイ!?」(うあっ!?)
熱い……! いや、これは“熱い”なんてものじゃない……体が、燃えるようだ……!
やがて光の奔流が収まり、魔法陣が消滅する。
「ハァッ……ハァッ……!」
《魔王継承の儀、完了しました。魔蟲王ヤタイズナより、魔王の称号と名を受け取りました》
頭の中にアナウンスが響く中、私は自分の体を見渡したが、外見に変化はなかった。
「……これで名実ともに、おぬしは魔王となった」
ドチャリ。
その音が聞こえた方を見ると、ミミズさんの身体が崩れ始めていた。
「ミ、ミミズさん!?」
「言ったであろう。この身体を保つのは限界じゃと……ぬしに魔王の称号と我が名を与えたことで、この身体はじきに崩れる……」
ドチャリ、とミミズさんの右の頭部が地面に落ちた。
「そ、そんな……さっき出会ったばかりなのに……」
ドチャリ。左の頭部も、地面に落ちる。
「おぬしが立派な魔王になれるかどうか……見守らせてもらうぞ……」
ドサァア……!
ミミズさんが、地面に倒れた。
「ミミズさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
私は叫んだ。
……だが、ミミズさんは動かない。
「ミミズさん……私は立派な魔王になる! だから、あの世で見守っていてくれ!」
私は決意した。ミミズさんの思いを受け継ぎ、立派な魔王になってみせると!
「うむ! その意気じゃ! 儂の名を継いだだけあって、良い気迫じゃ!」
……え?
今、なんか……声が聞こえたような……あたりを見回す。
だが、何もいない。
「下じゃ、下」
私は下を見る。そこには、普通のミミズよりだいぶ大きめの、白いミミズがいた。
頭部は一つだけだが、左右に赤い水晶玉のような目が五つずつ並んでいる。
ま、まさか……
「み、ミミズさん!? え、なんで!?」
「言うたじゃろう? この身体を保つのは無理じゃと。新しく身体を作れば問題ないわ!」
エッヘン! と胸を張って言うミミズさん。
「じ、じゃあ“見守る”っていうのは――」
「うむ! おぬしの傍で見守る、というそのままの意味じゃが?」
私は頭部の角をミミズさんに向けて振り回した!
「ぬおおおおおおおおおお!! な、なにをするんじゃ!?」
「うるせぇ! 私の涙を返せこの詐欺師がぁ!!」
――こうして、私の魔王道が始まった。
次回から本格的に始まります。