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虫から始める魔王道  作者: 稲生景


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24話 カブトvsニセハナマオウカマキリ

 来た……来ちゃったよ……!


 カマキリ界の魔王様――ニセハナマオウカマキリが!


 ニセハナマオウカマキリは、カマキリ目・ヨウカイカマキリ科に属する昆虫で、ケニアなど東アフリカに生息している種だ。


 幼虫の頃は地味な褐色だが、成虫になると一変。まるで精密迷彩のような鮮やかな模様をまとい、その異様な美しさと禍々しいフォルムで、カマキリマニアの間では“憧れの存在”とされている。


 ――もう、本当に信じられない!

 この世界でまさか、こいつに出会えるなんて――!


 昆虫の枠を超えた異形!

 まるで神話から抜け出してきたような造形!

 虫好きの魂を一撃で射抜く“カッコよさ”が、ここにある!


 だってさ、考えてみてよ? 漢字で書くと「偽花魔王蟷螂」だよ!?


 この厨二病全開の名前……カッコ悪いわけがないじゃないか!

 いや、むしろカッコよすぎて反則でしょこれ……なんなんだよ、この完璧なフォルム……ッ!


「――いい加減に戻ってこんか、このたわけ!」

「いったぁ!?!?」


 突然、ミミズさんが体当たりしてきた!


「な、何するの、ミミズさん!?」

「“何する”じゃないわ! また目が据わっとったぞ! いつもの“変な状態”になっとったじゃろうが! ええ加減、自制せえ!」

「えっ、また……!?」


 ……どうやらまた、無意識に“トリップ”していたらしい。

 だって仕方ないよね!? あんなにカッコいいカマキリが目の前に現れたら、興奮するのが虫好きってもんじゃないの!?


「――話は終わったか?」

「あ、うん」

「では改めて問う。お前が“南の王”か?」

「南の王……?」


 ……ああ、“南の森王”っていう称号のことか。


「南の王かと問うている」

「はい、たぶん……そうだと思います」

「そうか」

「ところで……あなたは誰?」

「我は“東の森王”。お前に興味があって、ここへ来た」


「東の森王……?」


 ちょっと待って、さっきから“南”とか“東”とか……どういうこと!? 困惑していると、バノンが驚きの声を上げた。


「“東の森王”だと!? マジかよ!」

「えっ、バノン、知ってるの?」

「知ってるも何も、アイツはランド大樹海の東側を支配する魔物だ! つまり“東の支配者”ってことさ!」

「……マジで!?」


 ってことは――


「私が“南の森王”ってことは……南側の支配者ってこと!?」

「……知らなかったのか?」

「な、なんと!? 本当か、お主、それは本当か!」

「ちょ、ちょっと待って……確認するから!」


 慌てて私は《鑑定》を起動し、手に入れた称号を確認する。


 称号:南の森王

 ランド大樹海・南の森の頂点に立つ者の証。


 ……やっぱり私、“南の森”の頂点になってた。

 アントエンプレスを倒したときに手に入ったから、あの戦いが条件だったらしい。


「で、どうじゃ?」

「あ……うん、そうみたい」

「おおっ! それは素晴らしいことじゃ!」

「凄いで御座る! 流石は拙者が惚れ込んだ殿で御座る!」

(ごしゅじん、すごーい!)

(おめでとうございます、主殿!)

(俺、ご主人、スゴイ。尊敬する。言う)

(やはり魔王様は偉大なお方であります!)


「あ、ありがとう、みんな……」


 ガタクたちが揃って私を称えてくれる。って、レギオン、お前作業中じゃなかったっけ!?


「……話を続けていいか?」

「あ、うん。どうぞ」

「我がここへ来たのは、ただ一つの目的のためだ。お前と――戦うためだ」

「……は?」


「聞こえなかったか? 我は“南の森王”たるお前と戦いたいのだ」

「ちょ、ちょっと待って! なんでいきなり戦う流れになるの!?」

「理由は要らん。ただ、その力を見てみたい。それだけだ。――《暴風》」


「っ!?」


 東の森王がそう言った瞬間、大気がうねり、突風が私を襲う!


「ぐああっ!?」

「ヤタイズナッ!」

「殿ぉぉぉっ!!」

(ご、ごしゅじん――!?)


 突風に吹き飛ばされ、私はあっという間に宙を舞う!

 反射的に翅を展開して空中制動、なんとか体勢を立て直す!


 ……くっ、距離はおよそ300メートル程。軽く吹っ飛ばされた!


「――《暴風》」


「うあっ!?」


 今度は上空から猛烈な下降気流! 一気に叩き落とされ、私は地面に激突!


「ぐ……ぅぅ……!」


 土煙を巻き上げながらもなんとか立ち上がった、その瞬間――


「――遅い」


 目の前に、東の森王の巨大な影が迫っていた!

 振り下ろされる鎌――!


「くっ!」


 ギリギリのタイミングで飛び退き、回避!

 地面に叩きつけられた一撃で、大地が大きく抉れる!


「ほう、反応は良いようだ。ではこれはどうだ――《斬撃》」

「な――っ!?」


 東の森王が鎌を横薙ぎに振ると、空気が唸りを上げる!

 巨大な“風刃”が、真っ直ぐこちらへ襲いかかる!


「ちぃっ!」


 間一髪で身を翻し、回避!

 だがその斬撃は、背後の巨木を容易く切り裂き、そのまま奥へと進んでいく。


 何だこの威力……! ガタクの斬撃とは次元が違う!


 次の瞬間、東の森王が再び鎌を振り上げる!


「連撃……!?」


 私は必死に風刃を避け続ける!

 奴は執拗に斬撃を放ち、私はそれをギリギリで回避し続ける――!


 斬撃、回避、斬撃、回避、斬撃、回避――!


 気がつけば、周囲の森は見る影もない。巨木はなぎ倒され、地面には斬撃の軌跡が刻まれている。

 まるで、この一帯だけ台風が通過したかのようだ――!


「ふむ、斬撃は決定打にはならぬか。では次は……《大鎌鼬》」


 東の森王の周囲に、巨大な風の刃が複数出現!


 ヒュンッ、と音を立て、それらが私めがけて一斉に放たれる――!


「《炎の角》ッ!」


 咆哮と共に、私は燃え上がる角を振り下ろした!

 風の刃が空を切り裂いて迫る中、それを一閃で相殺する! だが――


「くっ、次から次へと……!」


 風の刃はなおも途切れず、私を狙って次々に襲いかかる!


「はぁぁぁッ!!」


 怒号と共に、私は炎の角を振るい続ける!

 迫り来る風の刃を一つひとつ打ち払いながら、東の森王が――突進してきた!


「喰らうがいいッ!」

「おらぁッ!」


 東の森王の鎌と、私の角が激突した。

 激しい衝撃に抗えず、私はそのまま吹き飛ばされる!


「ぐあああっ!?」


 背中から地面を滑り、何とか体勢を立て直す。だが、目の前には東の森王が立ちはだかり、楽しげに笑っていた。


「炎の角か。面白い技だな……我も似たようなものを持っている。《風の鎌》!」


 奴の両腕の鎌に風が集い、唸りを上げながら刃を包み込んでいく。


「行くぞ、ヤタイズナ!」


 東の森王が地を蹴った。嵐のごとき風を纏い、一直線に迫ってくる!


「おおおおおおッ!」


 私も叫び、炎の角を渾身の力で振り下ろす! だが——


「無駄だ!」


 鎌が振るわれ、爆風のような突風が巻き起こる! 私は再び宙へ吹き飛ばされた。


「ぐぅぅっ!」


 必死に足で地を掴み、なんとか踏みとどまる。だが——


「——はあッ!」


 すぐさま東の森王が追撃してくる!

 鎌が振り下ろされるその瞬間、私は地面から脚を離し、突風を逆に利用して後方へ飛んだ!


「ほう……その回避は想定していなかったぞ!」


 東の森王が愉快そうに声を上げる。私は着地し、奴を睨みつけた。


「もっとだ……もっとお前の力を見せてみろ!」

「……くそっ」


 強すぎる。このままじゃ、絶対に勝てない。しかもあの余裕……まだ本気じゃない。

 手加減して、あの強さ……!


(炎の角すら通じない……超突進と組み合わせれば、あるいは……でも、外したら終わりだ)


 焦りと絶望が胸をよぎる。私は拳を握りしめた。


(遠距離攻撃があれば……でも、今の私にできるのは、せいぜい物を投げるくらい……)


 そのとき——電流のような閃きが脳裏を走る。


(……いや、あれが使えるかも!)


 私は踵を返し、全力で後方へ駆け出した!


「逃げるのか? ……残念だ。もっと楽しみたかったのだがな。《大鎌鼬》!」


 東の森王が鎌を振るい、風の刃を放とうとしたその時——私はピタリと止まり、振り返る。


「ん? 諦めたわけではなさそうだな……何か来るな」


 警戒する彼の前で、私は力を集中し、叫ぶ。


「《昆虫召喚》!」


 眩い光の中、地面に全長約六十センチの巨大な昆虫の卵が現れる。


「……なんだそれは? それが切り札か? くだらんな。興味を持ったのが間違いだったようだ」

「間違いかどうかは、これを喰らってから決めてくれ!」


 私は角をバットのように構え、助走をつけて思い切り卵を打ち抜いた!


 耳をつんざく金属音とともに、卵は回転しながら弾丸のように東の森王へと飛んでいく!


「無駄だッ!」


 彼が風の刃を放つ! だが——

 その刃が卵に触れた瞬間、音もなく掻き消えた!


「なにっ!?」


 東の森王が驚く間もなく、卵は一直線に飛来し、彼の胸部に——


「があああああああああああッ!!」


 激しく抉り、そして——貫通した!


「ギ、ガアアアアアアアアア!!」


 卵が地面に落ち、東の森王はその場に崩れ落ちる。私は叫んだ。


「どうだ! これが私の新技だ!」


 この卵には「絶対防殻」というユニークスキルがある。

 外部からのいかなる攻撃も遮断する、完全無敵の殻。つまり——


(投げれば、破壊不能の最強弾丸になるってわけ! ……まあ、《昆虫召喚》は三日に一度しか使えないけど)


 そのとき——倒れたはずの東の森王が笑い始めた。


「……く、くはははははははっ……!」


 私は構えを取り直す。


「ははははははははは!!」


 東の森王は立ち上がり、私を見据えた。


「面白い! 実に面白いぞ! 我の身体に穴を開けるとはな……気に入ったぞ!」

「お前は生かしておく。もっと強くなれ。そして、また我と戦え!」


 ……どうやら、生き延びることはできそうだ。


「お前、名はあるのか?」

「……ヤタイズナだ」

「ヤタイズナ……覚えたぞ。我は満足した! お前たち、帰るぞ!」


 東の森王が背を向け、仲間のキラーマンティスたちも撤退を始める。


「さらばだ、ヤタイズナ! 我は楽しみにしているぞ! くははははははははッ!!」


 風を巻き上げながら、高らかに笑い、森王は去っていった。


 ——私は脱力し、ため息を漏らす。


「……あ、鑑定するの忘れてた」


 急いで《鑑定》を発動し、奴の情報を確認する。






 ステータス

 名前:なし

 種族:ディアボリカ・マンティス

 レベル:200/300

 ランク:A+

 属性:風

 称号:東の森王、殺戮者

 スキル:斬撃

 エクストラスキル:風の鎌、大鎌鼬、昆虫の重鎧、暴風

 ユニークスキル:死神の暴風刃







「……うん。手加減してくれてたとはいえ、よく生き延びたな、私」


 私は空を見上げる。


(あいつを倒せるようにならなきゃ、立派な魔王にはなれない……もっと強くならなきゃ!)


 新たな決意を胸に、私は卵を抱えて、ミミズさんたちのもとへと戻っていった。

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