13話 カブトvsクワガタ
来たよ……ついに来たよ!
カブトムシと並ぶ人気昆虫、クワガタムシがついに登場だ!
あの大顎の形……間違いない、あれはマンディブラリスフタマタクワガタだ!
マンディブラリスフタマタクワガタは、昆虫綱・甲虫目・クワガタムシ科・フタマタクワガタ属に分類される昆虫で、主にインドネシア方面に生息している。
フタマタクワガタの中でも最大級の種で、その大顎は根元から下向きに湾曲し、中央には一対の大きな突起、さらに先端にかけて鋸状の内歯が並んでいる。
非常に気性が荒く、同種のオスすら殺してしまうこともある、獰猛なクワガタだ。
でも……何度見てもカッコイイ!
私はクワガタの中でも、このマンディブラリスが一番好きなんだ!
特にあの大顎!
マンディブラリスフタマタクワガタは、そのツノの形から「水牛」とも呼ばれていて、私は子どもの頃からその姿に惚れ込んでいた。
いやー、しかし……本当にカッコイイ!
目の前の巨大なクワガタを、私はうっとりと見つめていた。
……カッコイイなぁ……なんだよあの洗練されたフォルム!
私はカブトムシもクワガタムシも大好きなんだよなぁ……
ああーもう、本当にカッコイイ……!
「ど、どうしたので御座るかこの者は? いきなり叫んだと思いきや、今度はこちらを見たまま黙りこんでいるで御座るよ!?」
「……あー、すまん。こやつ、たまにこういう状態になるんじゃよ」
「そ、そうなので御座るか? よく分からんが……なんだか大変なので御座るなぁ……」
はっ! いかんいかん、またトリップしてた……!
私は正気に戻り、クワガタに話しかける。
「えーと……私たちに何か用ですか?」
「用というほどのことではないで御座るが……拙者、武者修行の旅の途中で、つい最近この森に来たばかりで御座る。
だが、なかなか強者に巡り会えなくてな……。昨日、人間の戦士と遭遇したのだが、あまりにも弱すぎて瞬殺してしまったで御座る。
そして、つい先ほど上空から謎の球体が降ってきたので御座る」
「……謎の球体?」
「そうで御座る。まぁ、その球体は落ちてきた瞬間、拙者が真っ二つにしておいたで御座るが」
「そ、そうなんだ……」
その球体って……もしかして――
「それで、球体が落ちてきた方角へ向かってみたら、お主たちがいたので、後ろからつけてきたで御座る」
やっぱり! それ、私がぶっ飛ばしたローリングコガネじゃん!?
つまりこの状況、全部私のせいじゃん!
っていうか真っ二つにした!? あの硬いローリングコガネを!?
さすがクワガタ……! やっぱり大顎の力がハンパないんだよなぁ……!
――そうだ、鑑定してみよう。
私はクワガタに鑑定スキルを使い、ステータスを確認した。
ステータス
名前:無し
種族:デスブレード・スタッグビートル
レベル:23
属性:風
称号:流浪の旅人、昆虫の戦士
スキル:斬撃、斬撃耐性、怪力鋏、剣技
エクストラスキル:鎌鼬
ユニークスキル:鍬形の大顎
やっぱり強いな、こいつ……!
キラーマンティスやヘルスパイダーと互角に渡り合えるくらいの強さを持ってるぞ。
でも「デスブレード・スタッグビートル」って……名前が長いな。
クワガタでいいと思うんだけどな……。
「で、私たちを尾行してた理由って、結局なんなの?」
「ふっ、それは決まっておろう! お主と戦うためで御座る!」
「……やっぱり、そういうことですか……」
このクワガタ、確か“強者を求めて旅している”とか言ってたよな。
「お主から、とてつもない力を感じたので御座る……これまで拙者が戦ってきた者たちの中で、最も強い力を! やはりつけてきて正解で御座った!」
とてつもない力!? え、今それ私に言ったの!?
いやいや、私まだレベル8だよ!? クワガタの半分以下じゃん!? 買いかぶりすぎでしょ! ……ん? ちょっと待って。そういえば私、一応“魔王”だったっけ。もしかして「称号」にもスキルみたいな特殊効果があったりするのか?
私は《鑑定》を使い、自分の称号を確認してみた。
すると……
称号:初心者魔王
:魔王になったばかりの者に与えられる称号。力を感じさせる“オーラっぽいもの”を発する。
オーラ“っぽいもの”って何!? 要するに、見かけ倒しってことじゃん!
私は思わずミミズさんを見る。
「ど、どうしたのじゃ急に」
「ミミズさん……私って、魔王の中でもけっこう微妙な部類だったりする?」
「なんじゃとぉ!? おぬし、最近マジで儂の扱いが雑になっておらんか!?」
「おぬしら、そろそろ準備はよいで御座るか? さあ、決闘で御座る!」
クワガタが戦闘態勢に入っていた。好戦的な性格は、あの“マンディブラリスフタマタクワガタ”そっくりだな……。
今戦っても勝てる気がしない……どうしよう……
「なに悩んでおるのじゃ! 魔王たるもの、即断即決じゃ!」
「ミ、ミミズさん……でも、あいつ明らかに私より強いよ?」
「魔王たる者、申し込まれた決闘は堂々と受けて立つものじゃ! おぬしは儂に“立派な魔王になる”と誓ったじゃろうが!」
私は、ミミズさんと初めて出会った時のことを思い出す。そうだ……あの時、私は誓ったんだ。立派な魔王になるって!
……まあ、そのあとミミズさんのこと、ぶん殴ったけど。
「わかった! やるよミミズさん! あいつを倒してみせる!」
「うむ! その意気じゃ! さすが儂の名を継ぐ者じゃ! 絶対に勝ってくるのじゃぞ!」
「ああ!」
私はクワガタの正面に立ち、構えを取る。
(ごしゅじん、がんばってー!)
(ご主人さま、ファイトです!)
(主殿、貴方が勝つと信じております!)
後ろからスティンガーたちの声が飛んでくる。……負けられない理由が、また一つ増えた。
「では、始めるで御座るぞ!」
「どこからでも来い!」
クワガタが突進してきた。私は咄嗟に横に跳び、ギリギリで回避する。
「なるほど、この程度の速さでは避けられてしまうで御座るか。ならば、これはどうで御座る! 《斬撃》!」
「なっ!?」
クワガタが大顎を振った瞬間、衝撃波が飛んできた!
私は慌てて避けたが、かすってしまって背中に傷ができた。上翅が裂けたけど、戦闘には支障なさそう。
衝撃波はそのまま後ろの木を真っ二つにして、ようやく消滅した。
って、なにあれ!? あんなの飛ばしてくるとか、反則でしょ!!
「ほほう! 拙者の斬撃を避けたのは、お主が初めてで御座るよ! やはり、ただ者ではないで御座るな!」
クワガタは上機嫌に言ってきた。
「ふふん、私を舐めてたら、痛い目見るよ?」
「うむ、確かにその通りで御座るな! ならば拙者も、本気で行かせてもらうで御座る!」
「来るか……!」
私は構える。すると、クワガタの周囲に風が巻き起こり始めた。無数の風の刃が、奴の周りに漂い始める。
「行くで御座るよ! 《鎌鼬》!」
ヒュン!
その音と同時に、無数の風の刃が私に降り注ぐ!
「くっ!」
ギリギリで回避するも、最後の一撃が背中をかすめた。
「ぐうぅっ!?」
(ごしゅじんー!?)
(ご主人さま!?)
(主殿!?)
スティンガーたちが心配そうに声をあげる。
「大丈夫、かすり傷だよ」
本当はかなり深いが、平気なふりをして答える。
「強がりはやめた方が身のためでござるよ?」
「しもべの前で弱音を吐くわけにはいかないからな」
「立派な心構えでござるな! だがその傷では、拙者の《鎌鼬》を避けるのは至難の業! 食らうでござるよ! 《鎌鼬》!」
再び風の刃が襲いかかってくる。
「くぅぅっ!」
避けきれず、体を鋭く切り裂かれる。
このままではまずい……どうすれば……!
私のスキルは《鑑定》と《昆虫召喚》だけ。
だが召喚は明日まで使えないし、《鑑定》は相手のステータスを見るだけのスキルだ。
くそ! 私に戦闘用スキルさえあれば――
そんなことを考えていたとき、頭に声が響いた。
《条件を達成しました。スキル《風属性耐性Lv1》を獲得しました》
……は? 条件達成?
よくわからないが、スキルを手に入れたらしい。
その瞬間、風の刃の痛みが和らいだ。
……これなら、いける!
「おらぁっ!」
私はクワガタに向かって突進を仕掛ける。
「なっ!? ごはぁっ!?」
不意を突かれたクワガタは反応が遅れ、私の突進をまともに食らって吹っ飛んだ。
……が、すぐに体勢を立て直してくる。
「ぬうぅ……拙者の《鎌鼬》をあれほど受けて、なぜ動けるのでござるか!?」
「ふふふ……気合いだ!」
「気合い!? 気合いで動けるものでござるか!?」
そう、人間というものは――気合いさえあれば大抵のことはできるのだ。
……今の私は虫だけど。
「今度はこっちの番だ!」
再び突進を仕掛けるが、今度は避けられる。
「くっ! 《鎌鼬》!」
クワガタが再び風の刃で攻撃してくる。
だが今の私は《風属性耐性》でダメージが軽減されている。もう怖くない!
このまま、一気に勝負を決める!
そう思ったとき、再び声が響く。
《条件を達成しました。スキル《超突進》を獲得しました》
またスキルだ!
私はすぐさま《超突進》を発動する。
「くらえっ、《超突進》!」
スキルを使用した瞬間、体が発光し――
とてつもない速度で、クワガタへ突っ込む!
「な、速い……っ!?」
超突進を受けたクワガタは吹き飛び――
「ぐわあああああああああっ!?」
木に激突し、そのまま地面に倒れた。
「ぐぅぅ……無念でござる……」
もう動けないようだ。
その瞬間、また頭に声が響いた。
《デスブレード・スタッグビートルとの戦いに勝利しました。
ヤタイズナはレベル16になりました。
スキル《昆虫の鎧》《角攻撃》を獲得しました》
おおっ! 一気に8レベルもアップした!?
しかも新スキルまで……これは間違いなく、《超突進》のおかげ――うっ!?
……なんだ? 体が……重い……
力が……抜けていく……まさか――
私は自分自身に《鑑定》を使い、《超突進》の詳細を確認した。
《超突進》:
身体の全エネルギーを用いて強力な突進を繰り出す。
使用後は一定時間、行動不能になる。
なるほど……強力だが、反動も相応に大きいわけか。
次に使う時は……気をつけなきゃ……
(ごしゅじん!? しっかりしてー!)
(ご主人さま!? どうしたのですか!?)
(主殿!? 主殿ー!?)
「安心せい、疲れて眠っておるだけじゃ……よい戦いぶりじゃったぞ。今はゆっくり休むがよい」
「ああ……わかったよ、ミミズさん……」
私はそのまま、ゆっくりと――眠りについた。




