10話 いざ大樹海へ
仕事が忙しくて書く暇がありませんでした……
「あれは百年くらい前じゃったかのぅ……。いつものように昆虫召喚で昆虫の卵を呼び出しておったんじゃが……そのとき、一匹だけ、ほかの連中よりちぃと知能の高い奴が生まれてのぅ」
ミミズさんの話によると、生まれてきた小百足は、他の虫より少しだけ言うことを聞いたので、名前をつけてやったらしい。
いずれは魔王に仕立て上げようと考えたミミズさんは、小百足に「外に出て実戦経験を積んでこい」と命じたという。
「それで、そいつは外に出ていったんじゃが……そのまま帰ってこんでのぅ。仕方ないから次の昆虫の卵を召喚していたんじゃが……まさか生きとって、あそこまで大きくなっとるとは……いやぁ、さすが儂が名付けた虫じゃのう! ハハハハハ!! ……というわけなんじゃ。だから、その……許してくれんかのう?」
今、ミミズさんはスティンガーの鋏にガッチリと挟まれている。
「スティンガー、ミミズさんを離してあげて」
(はーい)
スティンガーの鋏が開き、ミミズさんは地面にどさっと落ちた。
「ふぅ……危なかったわ……」
「つまり、ミミズさんが放置してたせいで、クルーザーはあそこまででかくなって、洞窟の守護者になっちゃったってこと?」
「そういうことじゃな」
「一つだけ聞きたいんだけど……なんであいつ、“魔王のしもべ”の称号がなかったの?」
「おそらく、百年も放っておいたから称号が消えたんじゃろう!」
「なんでそんなに誇らしげなんだよ!?」
「す、すまん……つい癖でのぅ……。とにかく今は、クルーザーをなんとかせねば!」
「いや、なんとかって言われても……今の私じゃ絶対に勝てないんだけど」
「確かに、今のおぬしではクルーザーには勝てんじゃろう……。だが安心せい! おぬしが奴に勝つ方法が一つだけある!」
「どんな方法?」
「うむ、それは――進化じゃ!」
「進化?」
「そう! 魔物というものは、ある一定のレベルに達すると、さらに上位の存在に進化できるのじゃ」
「えっ、そうなの!? 初耳なんだけど……」
「言ってなかったからのう!」
……このミミズ、そろそろしばき回そうかな。
「じゃあ、とにかく魔物を倒してレベルを上げればいいんだね?」
「うむ! だが、この洞窟でレベル上げしておると、クルーザーに遭遇する危険が高い。だから、この洞窟を出て“大樹海”へ向かうぞ!」
「大樹海か……その辺の魔物って、どれくらいの強さなんだ?」
「安心せい! クルーザーより弱い連中ばかりじゃ。せいぜいCランク程度の相手じゃろう」
「Cランク? ……それも初耳なんだけど……」
ミミズさんの話では、魔物はEからSまでランク付けされているらしい。この洞窟にはBランクまでの魔物しかいないとのことだが、地底の守護者であるクルーザーは、Aランク相当の実力を持っているらしい。
「さすが儂が生み出しただけのことはあるわ!」
……またしても、意味もなく誇らしげである。
「ところで、私のランクってどれくらい?」
「多分、Cランクじゃと思うぞ」
「“多分”って……?」
「おぬしは“魔王”の称号を持っておるからの、本来のランクとはズレがあるはずじゃ」
なるほど。称号によってランクも変わるわけか。
ちなみに、ミミズさんのランクはSだったそうだ。さすが元・魔王(笑)なだけはある。
「……おぬし、今わしのことバカにしたじゃろ?」
……なんだか心を読まれた気がしたが、きっと気のせいだ。
「よし! じゃあ、いつ出発する?」
「何を言っとる? 今すぐに決まっておろう!」
「はぁ!?」
「ここにおっては、いずれクルーザーに見つかってしまうかもしれん。それに、こやつらにも実戦経験を積ませておかんといかんからのぅ……」
ミミズさんは後ろに控える三匹の虫を見やった。
スティンガー、そしてその後ろにいる二匹――。
この二匹は以前召喚された昆虫の卵から生まれた個体だ。
一匹は“ホワイト・ロングホーンビートル”という魔物で、全長約19センチ。見た目はまさにカミキリムシだ。
二匹目は“キャタピラー”という全長13センチほどの芋虫。
……てっきり全部成虫で生まれるもんだと思ってたけど、幼虫も出てくるんだな……
私はホワイト・ロングホーンビートルに目を向けた。
身体の白い筋模様……やはりこいつ、シロスジカミキリに違いない!
シロスジカミキリはコウチュウ目カミキリムシ科に属する甲虫の一種で、インド東部から朝鮮半島、日本では北海道から九州まで広く分布している。ミヤマカミキリと並んで、日本最大級のカミキリムシでもある。
体は光沢のない灰褐色。前翅には黄色の斑紋や短いすじ模様があり、前胸背には縦長の斑点が二つ。
これらの模様は死ぬと白くなり、和名“白条”の由来ともなっている。
触角の長さは体長の1.5倍ほどで、オスの方がより長い。
大きな複眼と発達した大顎――このバランスがたまらない。いかつい見た目がまたイイ。
シロスジカミキリは、私が一番好きなカミキリムシだ。
あの大顎と複眼のバランスは完璧で、昆虫の中でも間違いなくイケメンの部類に入る。
いや、本当にカッコいい! まさにイケメン昆虫だよ、こいつは!
「……おい、なにぼーっとしとるんじゃ、おぬし」
……はっ! いかんいかん、また自分の世界に入り込んでた……気をつけねば。
次に私はキャタピラーを見る。……頭に二本の角がある。
おそらく、こいつはオオムラサキの幼虫だ。
オオムラサキはチョウ目タテハチョウ科に属する日本の国蝶で、タテハチョウ科の中では最大級の種である。
成虫は前翅長50~55mmほどで、オスは青紫色の光沢をもつ美しい翅をしている。メスはひとまわり大きいが、翅に光沢はなく、こげ茶色をしているのが特徴だ。
成虫の美しさが有名なオオムラサキだが、実は幼虫も意外とかわいいのだ。
正面から見ると、顔文字の「(・ω・)」にそっくりなのである。
キャタピラーもまさにその顔をしている。間違いない、これはオオムラサキの幼虫だ。
……いやあ、本当にかわいいな、こいつ。
マジで癒し系昆虫だよ、これは……癒されるわ~……
「おい! いい加減にせんか!」
ハッ! しまった、また没入していた……しっかりしないと。
「こやつらにも、良い名を与えてやらんとな」
「名前か……そうだ!」
私はホワイトロングホーンビートルを見る。
「お前の名前はソイヤーだ!」
“ソイヤー”とは、ノコギリで木を切る人という意味だったはずだ。
私が名付けると、ソイヤーが鳴き声を上げた。
(ありがとうございます主殿。私はソイヤー。貴方に生涯忠誠を捧げます)
おお……性格もイケメンだよ、こいつ。
さて、次はキャタピラーか。名前、どうしようか……悩むな。
「うーむ……そうだな……よし! お前はパピリオだ」
パピリオとは、ラテン語で“蝶“を意味する言葉だ。
(ありがとうございますご主人さま。私はパピリオ。これからよろしくお願いしますね)
「うむ! 名前も決まったことだし、そろそろ出発するぞ!」
「出発するのはいいけどさ……途中でクルーザーに遭遇するんじゃない?」
「フフン、問題ない! 儂のユニークスキル《穴堀の神》でトンネルを掘り、外に出ればよいわ!」
「え、そのトンネルができたら、誰でも簡単に最深部に来れるんじゃないの?」
「……ば、馬鹿者! そのようなことを考えていないとでも思っているのか!」
「今の“間”はなんだよ!?」
「と、とにかく! 儂は今からトンネルを掘るので、20分ほど待っておるのじゃ!」
そう言うと、ミミズさんはものすごい速さで壁に穴を掘り始めた。
「す、すごい……これがユニークスキル《穴堀の神》の力か……」
(ひじょうしょくすごーい♪)
(非常食さん、すごいです!)
(非常食殿、見事です)
……この二匹、最初からミミズさんのことを非常食扱いしてるんだな……
――20分後。ミミズさんが戻ってきた。
「待たせたのう! トンネル完成じゃ!」
目の前に、幅3メートルほどのトンネルができていた。
「すごいなミミズさん、見直したよ」
「フフン! やっと儂のすごさがわかったようじゃのう! それでは、出発するとするかのう」
「よし、みんな行くぞー!」
((はーい!))
(了解です!)
私たちはトンネルに入り、上を目指す。
――トンネルに入って1時間、ついに地上へと到達した。
「ここが……ランド大樹海……」
見渡すかぎり、一面の緑。木々が生い茂り、小鳥がさえずっている。
なんて美しい場所なんだ……ただ――
「キシャァァァァァァァァ!!」
「ギチチチチチチチチチチ!!」
目の前で、全長2メートルの巨大なカマキリとクモが殺し合いをしているせいで、美しい風景が完全に台無しだ。
「……ミミズさん?」
「……なんじゃ?」
「ひとつ、聞きたいんですけど」
私はまさかと思いながら、問いかける。
「最後に地上に出たのって……何年前ですか?」
「たしか……900年前じゃったのぅ……」
「またこのパターンかああああああああああああああああああ!!」
目の前の殺し合いを無視して、私は思いきり叫んだ。
――ランド大樹海。
この森は現在、人間界においてCランク~Bランクの魔物が多数生息し、最大でAランクオーバーの魔物まで確認されている、極めて危険な樹海として知られている。
ランク付けをdからeに変更しました。




