最七章 告白:その九杯目
俺は、その男の顔を見てゾッとしないではいられなかった。今にも口の中から細く尖った先割れの舌がひゅるひゅると伸び出して来てしまいそうだったから。まるで血も凍るような蛇にも似た面構え。酒の呑みすぎで焼けただれてしまったのだろうか、顔全体の肌が乾燥してぼこぼこと黒ずみを帯びている。まるでウロコのような肌。いつだったか絵本の中で見た“うわばみ”のようだ。
こいつなのか。さきちゃんを連れ去ったヤツは。おじさんをあんなひどい目に遭わせたヤツは――。
その時俺の心の中では、もう揺るぎない確信を得ていた。さきちゃんをどこへかくしたんだ、と。
俺は、早く紗希ちゃんを見つけ出したかった。早く見つけ出して、死んでしまったおじさんを安心させてやりたかった。だから勇気を振り絞って、その蛇男から紗希ちゃんの居所をそれとなく探り出そうとした。
「ね、ねえおじさん。ぼくもう外がまっくらでこわくて歩けないの。だから少しだけここにいてもいいでしょ」
すると蛇男は、まったく感情のない表情で、
「へんなガキだな。まあいい。好きなだけいるがいいさ」
と言って建物奥へと歩いていった。
ここに紗希ちゃんがいる事は間違いなかった。俺の鋭い嗅覚が、紗希ちゃんの柔らかな匂いを察知しているのだから。
でも、どこにいるのかはさっぱり分からない。倉庫内のヘドロのように腐った油の臭いが、紗希ちゃんの優しい香りをとんと鈍らせている。でもあの蛇男が紗希ちゃんを連れ去って、どこかに隠しているのが手に取るように分かる。ねえ、さきちゃん。さきちゃん。キミはどこにいるの?
俺は何べんも心の中で呼びかけた。広い建物の中は誰もいない体育館のようにガランとしているが、明かりの照らされている場所以外は闇のカーテンに閉ざされている。
俺は当てずっぽうでぐるぐると建物の中を廻るのだが、人の気配はまるで感じられなかった。どろりとした汗がこめかみの辺りをつたう。なんとも言えない焦りがやって来ている。さきちゃんどこにいるの。さきちゃん。さきちゃん。さきちゃん――
紗希ちゃんを思う気持ちがひどく堪えがたい重圧を呼んでいた。俺の胸の奥をチクチクとした痛みが、のべつ幕なしに襲ってくる。
そんな時だった。
「なんだ、ボウズ。探し物か?」
と蛇男が、薄気味悪い声で後ろから話し掛けてきた。
俺はいきなり声を掛けられドキドキしながらも、
「う、うん……。ちょっとさがし物をね。まえに一度ここにきた時に、たからものをうめておいたんだ」
「そうか、宝物か。それじゃオラとおんなじだな。だけんどオラの方は結局見つかんなかったけんどな」
蛇男はそう言って、むへへ、と薄気味悪い笑いを浮かべた。
「おじさんもたからものをさがしているの?」
「ああ……、でももうダメだ。その手懸かりを見失っちまった」
「てがかり?」