ささやかなしあわせ 50音順小説Part~さ~
ほのぼの。
爽やかな朝の風が窓から吹き込み小夜は目覚めた。
昨日開けたまま眠ってしまったようだ。
休日となると何故か決まって早く起きてしまう、これがいつもの朝だったらいいのに。
階下に降りると父も弟もまだ起きてないようでカーテンが閉まったままのダイニングは薄暗かった。
休みの日ぐらいゆっくりしたいのだろう、いつも家事は二人にまかせっきりだし。
とりあえずカーテンを開け日の光を部屋に取り入れた。
朝の光を浴びると体が本格的に活動し出す。
たまには二人の家族のために朝食作ってみようかな、小夜はなんとなく冷蔵庫を開けた。
「姉貴、何この匂い・・・。」
皿の上には焦げた目玉焼きが三つ並んでいた。
「ごめん・・・、彼方。」
「たかだが卵を焼くだけなのにどうやったらこうなるんだ?」
言い返す言葉もなくただ小さくなるしかない。
「おいおい、何だこの焼け焦げた匂いは。小夜、彼方。」
異臭に気付いたもう一人の家族、父の清和が顔をのぞかせた。
「姉貴が気まぐれで料理作った。」
小夜の焦がした目玉焼きを捨て彼方は新たに卵を取り出した。
「小夜。人には得手、不得手というものがあってな・・・。」
「重々承知致しております・・。けど目玉焼きくらいなら出来るかなって。」
「自分を過信しすぎない方がいいよ、その結果がこれだから。」
彼方は生ごみとして廃棄されたものを指さした。
「本当ごめん、これからは手出ししない。」
「それが一番安心だし、何より無駄な出費が出なくて済む。」
「彼方の意地悪。」
「まぁまぁ、とりあえず飯にしよう。俺はコーヒー淹れるから、小夜は新聞とってきてくれ。」
清和に言われた通り郵便受けから新聞を取りに行くため外に出た。
太陽がさっきより高い位置に移動して徐々に暑くなりつつある。
「お父さん、新聞。」
「おう、さぁ朝飯にしよう。」
戻るとすでにテーブルの上には朝食の支度が済んでおり
トースト・サラダ・コーヒーに小夜が作ったものとはえらく違う完璧な目玉焼きが並んでいた。
「「「いただきます。」」」
なるべく家族三人でご飯は一緒に食べるようにと清和がルールを決めたのは
五年前に妻、小夜と彼方の母親が亡くなった時だった。
こうして家族そろっての食事はやはり大切だ、食事はコミュニケーションの潤滑油の役割をしている。
妻が亡くなったことをきっかけに家族の仲がギクシャクしまうのを嫌った清和の努力と
このルールのおかげで今は三人で楽しく暮らしている。
小夜はこの時間がすきだ、忙しくてなかなか顔を合わすことがなくても
食事の時間になれば必ず家族全員揃うのだ。
それが小夜のささやかなしあわせである。