プロローグ
二つの牛車が山中の道を通っていた。
大栄帝国の都大路を出た山の中。
旅の者が行き来するのに使われている街道である。
牛車に付けられた金具が太陽の光を反射する。たくさんの従者に守られた牛車には、それぞれ身分を示す旗が付けられていた。
この国を守る帝と、その妹にあたる姫神子の牛車だ。
都から山の離宮へ向かう途中であろう。
行き会った者達は、進む一行に土下座する。
行列はゆっくりと進んでいった。
その一行が動きを止めた。
先頭を歩く男の前に、えらく痩せこけ、薄汚れた子どもが立ちはだかったのである。
「何をしておる、帝の御前なるぞ、控えろ」
立ちはだかった子どもの前で、数人の大人達が腰に帯びた刀に手をかける。
「切りたきゃ切れ! どうせ俺は捨てられたんだ。俺の家が貧しいのも、俺が売られたのも、みんな天帝が悪いんだ。文句言って何が悪い」
眼光鋭く、子どもが刀を抜いた大人たちを睨み据えた。
大した度胸である。
周りで土下座する者たちの誰かが、喉を鳴らした。
近くにいる誰もが、子どもが殺される様を思い浮かべた。
帝の行く手を遮った上に、帝への暴言の数々。不敬にも程がある。
「覚悟しろ」
一人の男が刀を振り上げた。
子どもはその姿をじっと見つめた。
刀の先端が、太陽の光をきらりと反射させた。
自らに振り下ろされる刀が、子どもの目には、妙にゆっくりと映った。