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光と闇の因縁

 ティンは人生最高に空気の悪い瞬間に遭遇していた。修羅場とは正しく今のような瞬間の事を言うのだろうと、彼女は思う。

 状況は簡単だ。

 場所は玉座の間、そこの中央。そこには男女が立っている。片方は漆黒の男、もう片方は純白の女。つまり、この国の元王子リクと現女王エーヴィア。その二人が、怒りの視線をぶつけ合っている。周りのメイド達までもこの空気の悪さに誰も入ろうとしなかった。やがて、片方が口を開く。

「――貴様、家臣の前で無様を晒すか?」

「抜かせよ坊や。また昔みたいに泣かしてやろうか?」

「安い挑発だな。底が見えるぞ」

「直ぐ剣を握る早漏小僧が何言ってやがる。いい加減学べよ、クソガキ。またボコられて泣きわめくか? もう泣きつく母親は居ないぞ?」

 玉座の間は凄く広い。大勢の人間――それも軍勢クラスの人数が此処に入る事も可能とするほどの代物だ。そんな部屋が、殺気で充満している。正に此処は一種の戦場と化していた。鉄風雷火吹き巻く戦場をたった二人で形成されている。

「貴様には、どちらが格上が教え込む必要があるようだな」

「ああ? 手前の体にか?」

「何時までも昔と同じと思っている。地に付すのは貴様と知れ」

「今時はやらねえよ、その厨弐病」

 この異様なまでの殺気と殺気の応酬。互いの視線と視線が互いを射抜き合う重圧に誰も割って入れない。そう思っていた所に。

「ただいま」

 空気を読まず、入って来る人物が一人。誰かと言われると。

「あれ、どうしたの?」

 それは氷結瑞穂。彼女はづかづかと二人の前までやって来た。ティンは玉座間へと続く正門の方を見ると火憐と有栖が両手で顔を覆っていた。その様子が全力で物語っている。

(もうやだあいつ……)

 ティンは二人の気苦労と言うものを思い知る。一緒に居た頃は感じなかった面倒くささをひしひしと感じて来た。

 瑞穂の気配を感じた二人はそちらへと意識を向ける。

「退いて、邪魔」

 火憐と有栖は同時激しく手招きをする。その様子から分かる事は唯一つ。

(もういいから帰って来いこの馬鹿女!!)

「……背後で騒いでる連中は一体何なんだ?」

 瑞穂は言われて後ろに振り返った。

「……何してるの?」

(お前が何してるんだよ!?)

 二人は無言でほぼ同時にツッコミを入れるが瑞穂は一切気にせず。

「いや、邪魔だから邪魔と言っただけだけど」

(空気読めよお前!?)

「めんどくさい」

「口に出してしゃべろ。喋らずに通じ合えるお前らがめんどいわ」

 その様子を見てたエーヴィアは思わず突っ込んだ。実際一切口を開かずに対話を行う二人にはツッコミどころしかない。

「便利だよ? 目を見るだけで意思の疎通が出来るって」

「んな事ができんのお前だけだよ!」

「え、火憐も有栖も出来るけど」

「すっげえなおい!?」

「ふん、下らん話だ」

 切り裂くように言ったのはリク。再び火花が散るようなにらみ合いが始まる。

「おう、居たのかこの泣き虫」

「仏頂面騎士が、よく言うな」

「昔みたいに泣かしてやろうか?」

「同じ台詞を。何度言う気だ貴様」

 互いに睨み合い、武器を握り締める。だが直後に二人とも同時に空中でくるりと一回転する。

「全く、何時までも子供みたいな事を言わない」

 気付けばディレーヌが二人の間に立っていた。くるりと回った二人はそのまま頭から床に落ちて嫌な音を立てる。

「っ〜っ母さん何すんだ急に」

 言いながらエーヴィアは立ち上がるがすぐまた地面に突っ伏した。

「何って、年下の幼馴染が来る度に因縁付けて喧嘩するなっさけない娘を諌めにきたのよ。ほんっといい年して情けない」

「お、奥方! お久しぶりです、まともな挨拶もなくご無沙汰しております」

 リクは頭を抑えながら立ち上がり、エーヴィアも立ち上がって。

「おいてめえ、何いいこちゃんぶって」

「ええ、いいのよいいのよ。おばさんにとって可愛い甥っ子みたいなもんだから気を使わなくても」

「おいこらそこの母親聞いて」

 エーヴィアは何度も立ち上がるがその度に地面に倒れこんだ。エーヴィアは面倒になって地に伏せたままの体制を維持していると今度は急に立ち上がる。

「何時まで寝てるの、この子は」

「寝かせた奴がなに言ってやがる」

 そう言ってエーヴィアの足元で金属音が響いた。見ればエーヴィアの足がディレーヌの足を押さえつけていた。

「ちょっと、なんて悪い足なのかしら。母親の足を踏み付けるなんて」

「人の事を蹴ったり払ったり投げる奴が言えた事かよ」

「出来の悪い子を躾けるのは母の役目よ?」

 ミシミシ言いながら互いの足を押し付けあう二人。やがて互いを蹴り飛ばすように距離を取って。

「ごめんなさいねリク君。うちの子がアレすぎて」

「あ、いえ。その、すいません」

「いいのよ、謝らなくたって。あ、そうそうティンちゃん」

 と、そこで玉座の間に入らずに居たティンに話しかける。ティンは何も言わずに反応し、いつの間にか立ち往生してたメイド達もささーっと仕事を始める。

「ちょっとお仕事頼まれてくれない?」

 それではまた。

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