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イヴァーライルと言う国

 ティンがリクの手引きの下、再びイヴァ―ライル入りしから数日が経過していた。

 一緒に着た瑞穂は相も変わらず、此処を拠点としているが実際には仲間とうろうろして回っているだけで安定せず、敵襲も全く無く、本当にする事は皆無。一応客人と言う身分でこの城に身を寄せたはいいが、正直どうすればいいのか分からないのだ。そんな時。

「ティン、少しよろしくて?」

 ラルシアが、ぼーっとしていたティンに話しかけた。

「んっと、何?」

「こっちへきなさい、暇なのでしょう?」

 ラルシアはそう言うと有無も言わさずにティンを部屋から引っ張り出した。

「って、一体何なんだよ!?」

「黙りなさい」

 そう言ってとある部屋に入っていく。そこは会議室となっているのか、ホワイトボードと大きな円卓と多数の椅子がある。

「さて、貴方に今からこの国の現状を教えましょう」

「へ? 急に何で?」

「それについても教えますわ」

 そう言ってラルシアはホワイトボードに書き出していく。その内容はまず、この国の簡易的な地図だ。

「そもそも、このイヴァーライルと言うのは過去に起きた第二次世界大戦時、領地の当主であったイヴァーライルが大きな大戦を前に民を守る為に立ち上がった際、彼に忠誠を誓った四人が騎士公爵となって領土を広げ、王国となったのが元です」

「そ、そんな大昔からあるの!?」

「ええ。まず、最初に忠誠を誓ったというレディアンガーデ、次にアンヴェルダン、次にマウグストにこのデルレオンの四つの公国です」

 言いながらラルシアはホワイトボードに書き込んだマップの一番上の端っこにレディアンガーデ、その左下にアンヴェルダン、その隣にマウグスト、その三つの下にイヴァーライル、その真横にデルレオンと書き込んでいく。

「しかし今現在、このイヴァーライル王国は呪いの影響もあって国民がほぼいません。国土はボロボロ、自然は腐り、大地からは栄養素が失われ、ほぼ人が住めるとは言い難い国となっています。街はイヴァーライル王国城下町一つ、村も一つの挙句そこでは村民が農業を営んでおり、王城の食物の半分がそこから送られたものでしかなく、ほぼ商売と言える事はやっておらず税金を取るなどほぼ出来ない状態ですわ」

「ぜーきん? ぜーきんが取れないとどうなるの?」

「ぜ、い、き、ん、です。税金とはまあ、国民の義務と言うか、国民は国から様々な権利を買っているというか、借りているような状態ですわ。ですので税金を取らないと当然国を運営する為の資金がなくなります」

「え、そうなの?」

「ええ。国のお金が沸いて出てくるとでも思いまして? 国の資金は国民の税金などで賄われている事が多いのです。つまり、税金が取れないということは国の資金が底を付くという事です」

 そう言ってラルシアはホワイトボードにそう言った図を書き込んでいく。しかし、この話で思うことは一つ。

「じゃあ、この国のお金って如何してるの?」

「私と前公爵夫人のポケットマネーですわ。正直言って、この国の財政は苦しいと言うより死滅しており、もう体制としては国なんて口が裂けても言えないレベルです」

 あまりの事実はティンは絶句するしかなかった。流石にそこまでひどいとは思っていなかったが、言われて見ればラルシアの護衛でついて行ったときは殆どラルシアがお金を出していたようにも思える。

 だが、そこで新たに振ってわいて来る疑問と言えば

「それで、何であたしが関係してるの?」

「実は……女王陛下にこの国について進言して欲しいのです」

 ラルシアの困った表情にティンは首をかしげながら。

「何でまた、ラルシアがすればいいじゃん」

「いえ、私には出来ません」

 ティンの投げやりな言葉にラルシアは奥歯を噛み締めるように苦い顔で返した。

「理由は、私が社長だからです」

「社長? 社長ってのが関係するの?」

「ええ、私はノルメイアの子会社を経営する社長ですわ。ノルメイアの名前は今や世界経済にも食い込む大きな会社です。そのノルメイアの名を持つ私が大々的にこの国の支援に乗り出したし口を出せば、周囲の者はこう言うでしょう。“ノルメイアの社長はイヴァーライルを自分の好きな様に弄っている”、と。そんな事を言われてしまえば、それがアキレス腱となり私が失脚する原因、もしくはこの国が余計に悪い方向へと流れていくことでしょう」

「そ、そんな!? ラルシアは性根や性格は酷いし直ぐ殴る暴力女だけど国を乗っ取って好き勝手な事するような悪党じゃないよ!」

「え、ええ。貴方に擁護される言われも無ければ、そんな指摘をされるいわれもございませんわ? それに、貴方がどう言おうと真実が如何であろうとそう見える、そうであると思われた時点で終わりなのです」

 ラルシアはティンの言葉にこめかみをピクピクと動かしつつ、平静を装って説明を続ける。

「面倒なんだね」

「兎に角、そういった関係もあって私は表立った事は一切出来ません。ではこの国民なら、と言いたいのですが彼ら的に言わせればただでさえ、先ほど説明したとおり終わった様な国の王になり、国民として仕事を与えてくれただけで十分なのに、これ以上望むのはばちが当たると何も言えないのです」

「大変なんだね、この国も……」

「そこで、貴方ですわ!」

 と、ラルシアはそこに来てティンを指差す。

「え、あたし?」

「ええ、貴方です。ただの一介の、それも女王と親しい間柄を持つ冒険者である貴方だけが女王陛下に進言出来るのです」

 そこまで言い終えるとラルシアは今まで以上に真剣な表情でティンを見。

「あなた、女王様は好きですか?」

「え、あ、うん。好きだよ、エーヴィア女王」

「この国は好き?」

「うん、好きだよ。皆いい人だし、何というか、あったかくて。すっごくいい国だと思うよ」

 聞き終えるとラルシアは満足気に、獲物を仕留めたような笑みを浮かべると。

「ええ、ならば十分ですわ。質問は?」

「んっと、あたしが陛下に進言ってのすればいいんだよね? 具体的になんて言えばいいの?」

「今、この国にとって足りないのは一にも二にも人材ですわ。兎に角魔導師、地属性の魔導師が足りません」

「何で地属性の魔導師なの?」

 ティンの質問への返答はなく、ホワイトボードに書き込んで行く。

「魔導師が必要なのは国土の問題です。呪いの影響で国の大地がボロボロ、栄養がなくて地面が固いのです。地属性魔導師が必要なのはそう言った地面を柔らかくするためです。後は命属性の魔導師が居れば肥料を生み出すことが出来、そうなれば畑の面積が広がりまたは穀物の収穫量を上げ、それらを他の街へ出荷して貿易が出来ますわ。つまり、村が商売を出来るようになるのです」

「ふむふむ、じゃあ魔導師を集めるには如何すればいいの?」

「魔導師を簡単に集めるなら、大概は研究所か魔法学校ですわね。基本的に非戦闘用の魔法が使える人が欲しいのならそう言った施設が有効的ですわ」

 その時、ティンの頭にふっと一つの風景が思い浮かんでいた。昔、師範代に連れられて買い物に行ったとき、人が大きな建物に吸い込まれるようには言っていく光景を見た。彼女は問う。

『ねえ、あれは何?』

『あれは大学だよ。魔法大学』

『へー』

 沢山の人が大学に吸い込まれていく絵が彼女の瞳焼きついていく。いつまでも、いつまでも、その姿は彼女の脳裏に刷り込まれていった。故に。

「そうだ、学校だ!」

「はい?」

「大学だ、大学を作ろう!」

 ラルシアはティンが急に叫んだと同時に魔法で部屋の扉を開けていた。彼女は商人である、商人である以上は商人として最低限にして最大限の努力で最大限の利益を得る、それが商人だ。だからこそ彼女は知っている。

「ん? どうした?」

「人が居ないなら魔法大学を作ればいいんだよ!」

 女王がこの部屋の前を通るのを知っていた。エーヴィアは急に響いてきた台詞につられて顔を覗かせる。それに気付いたティンは女王の前に出ると。

「陛下、陛下! 大学! 魔法大学だよ!」

「はあ。大学ね。それが?」

「魔法大学を作って人を集めるんだよ!」

 聞いたエーヴィアは腕を組んで頷いて返事すると。

「ふむ、まあ確かに有効な手立てだ。学校なら教員や生徒の名の下に多くの魔導師を抱え込めるし、教材と称して様々な魔法道具を仕入れられるし、何より大学なら国営に必要な最低限の魔導師も来るだろうしな。だがティン、言ったからにはお前も手伝うんだろうな?」

「え? あ」

「ええ、その通りですわ。まさか、言った本人が何もしないなんて、ある訳ないではないですか」

 とラルシアが後ろから行って来る。そこでこっそりとティンに。

「腕を捻じ切られたくなかったら黙って頷け」

 とささやく。如何聞いてもただの脅しだろうが気にしてはいけない。ティンは言われたとおりにうなづくと。

「そうか。じゃあ後は私が色々やっとくから裏頼むわ」

 エーヴィアは言うと部屋から出て行く。ラルシアは一歩前に出ると。

「では、頼みますわ。私も出来うる限りのサポートをいたします。さあて、忙しくなりますわ!」

「なんか、楽しそうだね」

「勿論でしてよ。エーヴィア女王は前々から目をつけていましたから、いつかこの日が来てもいいようにとあれこれ準備していたのがついに動き出すのですわ。楽しいに決まってます。さあ、明日からが大忙しですわ!」

「えっと、あたし何をすれば……」

「とりあえず大学の教師や生徒となる魔導師を集める事ですわね」

 何でもないと言わんばかりに言う彼女だが、ティンからすれば何故と言うかどうやってとしか言いようがないが。

「魔導師は多くが研究機関や開発会社、大学などに所属していますがそれと同じくらい旅をしているものもいますわ。そう言った人達を誘うのですわ。彼らは基本的に旅歩いていますが、中には宿屋と契約して長い間居座ってたりする例もあります。そう言った人を誘うのです」

「でも、断られたりとか」

「ご安心を。宿屋と連携を取れば向こうに拒否権はありません。宿屋としても、一定金はくれる代わりにずっと部屋を埋めている迷惑な客あつかいが多い、引き取り領は要求されるでしょうが、人材をくれると言うならどんな金額でも安いと言うものですわ」

「なるほど。じゃあ今から?」

「いえ、明日からです。今日と明日には詳しい話が付いてるでしょうから、すべてはそこからでお願いいたしますわ。では御機嫌よう」

 そう言ってラルシアは本当に楽しそうに、まるで役者が演じているような雰囲気で楽しそうに部屋から出て行った。

 じゃ、また。

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