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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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結局戻ってきた王国

 ティンは急に現実へと引き戻される。ぱっと目が覚めると同時に背中に鈍い痛みが走る。何だと思いながら周囲を見渡す。

 周囲はまだ薄暗い森で、自分は確か瑞穂に背負われていたのではと思い出して瑞穂を探し直ぐに見つけた。と言うか近くの草むらに寝袋の中に包まっている。

「……いや、入れろよ」

 思わず突っ込んだ。だが、ティンもティンで羽織っている筈のマントが何故かかけられている。つまり、眠くなったからマントを毛布にして自分は寝袋には言ったということか。

 そこまで考え、もう何もかも面倒くさくなってもう一度寝る事にした。


(……皐、悪いことしたかな)


 ぼんやりと、睡眠欲の最中でそんな事を思った。あの砦に残した人達のこと、急にいなくなったら心配するだろう、とか。でも、それを言い出せば一体自分は幾度となく勝手に何処かへ消えたのだろう。

 まずは浅美と瑞穂を置いていって、次は……と言うより瑞穂と再会しては直ぐに消えて、そして今格摩達と出会って勝手に消えて。

 そう考えると彼らとのこと云々よりも瑞穂達について行くのが全うにも思える。何せ今一度置いていった者達と二度も置いていった人達。どっちもどっちだが、無茶苦茶理論を承知で、ならば瑞穂たちと共に行くのが道理だろう。

 そこまで納得してぶつっと、消えて。

「おい、そこで何をしている」

 と、声をかけられてはっとなる。

 目を覚ませば薄暗かった森は明るくなり、口元が濡れた様な感触、口の中が乾いたような、口に土が混ざったような、嫌な感じ。

 一先ず口元の涎を拭うと顔を上げて、漆黒の男性が立ってこちらを見下ろしている。

「んぁ、えっと」

「テントもなく、焚き火の後も無い。一人は寝袋に一人はやけに豪勢なマント一枚で地面に雑魚寝……何が起きたんだ、之は。と言うか貴様ら、焚き火も無いとは正気か? この辺りは肉食獣がうろつく一帯で有名のはずだが……」

「え……?」

 男は『何が起きたんだ』と言った後から言う気が無いのかぼそぼそと一人ごちている。つまり、この辺は物騒で何でこんな奇妙な形で寝ているのかと。

 聞いてまず思ったのは瑞穂がたった一人で居ること。彼女には仲間が居た筈だが。

「ねえ瑞穂、起きて起きて」

「起きてる。今電話してるから」

「いや、この辺って肉食獣が好く出るって」

「大丈夫、何かあれば私もティンさんも直ぐ起きる」

「いやそうだけど一寸なんか聞きたいことがあるってこの人が」

 そう言ってティンは話しかけてきた漆黒の青年を指差す。瑞穂は言われて寝袋から起き出して周囲を見て、男を視認する。して瑞穂はいそいそと寝袋を丁寧にたたみ、荷物にしまい込み立ち上がって、逃げる、逃げるー。

「にゃあ」

 定位置である木陰の方へと入り込んでちらっと覗き込む。

「なるほど、重症レベルの異性恐怖症か」

「よく分かったね!?」

 ティンは一目見て瑞穂の状態を見抜いたこの男に先ずは驚くが、一方男は溜息混じりに。

「生まれつき、人の恐怖や憎悪と言った感情に敏感でね。君には一切の反応が無かったのに俺を見た途端全身が真っ黒に塗り潰れるほどの濃厚な恐怖一色に染まり切ったからな……恐らく、男性に女性としての尊厳を踏みにじられるような事をされたのだろうな」

「いやそんな事はない」

 その声は恐怖一色となっている筈の当人からまさかの否定の言葉が出た。仕切りなおして。

「ところで、君たちは何処へ行くんだ?」

「え? 街へ行くんだよね、瑞穂」

「うん、その筈」

 その言葉を聞いた男は眉間にしわを寄せて暫く考えて、重々しく口を動かして。

「一体、何処へ? この近くに街なぞ一切無い筈だが」

「……はい?」

 ティンは、一つ頭を傾げる。今一体この男は何と言ったのか、と。

「ねえ瑞穂。此処今どの辺? と言うか、この近くに砦ってある?」

「砦? そう言えば遠くに一つあった気がするが……それがどうかしたか?」

 答えたのは瑞穂ではなくやって来た漆黒の男。それを聞いたティンはすぐさま瑞穂に振り返り。

「……ねえっ! 瑞穂、あんた仲間が何処に居るのか知ってんの!?」

「今教えてる」

 見れば瑞穂は木陰の中で携帯電話を握ってあれこれ話し合っているようで。

「どうやって此処まで来たの!?」

「時間止めて……すっ飛んできた」

「お前って実は大馬鹿だろ!? 時間止めて此処まで来たって、単身で!?」

「来た道は記憶してる。大丈夫」

「その道戻れてないお前が言えた事なのか!?」

 ティンは、此処までの会話で唐突に思い出した。そう言えば、瑞穂は酷い方向音痴であったと。一度、浅美がそう言って瑞穂に道案内を止めさせていたのを思い出す。

 ふと、彼女は今唐突に詰んだ、と言う言葉が出てきた。

 見知らぬ土地で、元居た場所は不明。しかも相方は方向音痴と来たもんだ。だがしかし、そんな絶望を打ち砕くように男は。

「よければ俺達と来るか?」

「え、いいの!?」

 そんな提案にティンは驚きながらも救いが降りたと希望を表情に表すが、瑞穂は逆に嫌々と首を左右に降り始める。

「ああ、気にしなくていい。俺の連れは極僅かだが、全て女性ばかりだ。もう直ぐ合流予定でもあるし紹介でも」

「リクく~ん」

 と、そんな時に森の奥から声が聞こえ、そちらに振り返ると女性が二人。片方は長い黒髪を二つに割ったような髪型の女性に、もう片方は綺麗な金髪を巻き毛にした女性。

「あ、いたリク君……って、リク君がナンパしている!?」

「ああ、紹介する。こっちは地属性魔導師のパープルであっちは光と炎の魔法が使えるリリー」

「いや、その反応は期待してないんだけどなー」

 唐突に赤面して固まったリリーを他所に二人は勝手に話を進め。

「まあ、さっき紹介されたとおりパープルでーす。地の単一魔導師でーすリリーさん、何時までも固まってないで速く自己紹介!」

「え、あ、は、はい! え、えっと、リリー・フィクスウェルです。フィクスウェル財閥の娘で、後学の為に世界中を旅しております……あら? 失礼ですが、お二方とは以前に何処かでお会いしたかしら?」

 リリーはティンと瑞穂の顔を見てそんな事を尋ねながら頭を捻った。対する瑞穂とティンもまた首を傾げながら互いに顔を見合わせる。

「いや、聞き覚えはないけど……瑞穂、知ってる?」

「フィクスウェル……確か、そこそこ有名な財閥だったね。へえ、次期当主に選ばれた人間を旅に出させる風習があるって聞いたけど本当なんだ」

「そんな、次期当主だなんて……私は現当主の娘と言うだけです。ところで、其方の方は瑞穂、と言いましたがもしや氷結瑞穂さんですか? 姫連合のうちの一人で、確か漆黒の氷姫と呼ばれ、実は密かに魔王三つ巴の際に魔王の一角を討伐したとされる方ですよね」

 と、リリーが説明を終えると今度はティンが首をかしげて。

「……あれ、そうだったっけ? あれって誰が倒したのか不明だったんじゃ」

「いいえ。確かに、誰が倒したのか未だに名乗り上げてはいませんでしたが直前に魔王城で交戦する瑞穂様のお姿がテレビに映し出されており、魔王の一角が潰れたのもその直後ですので、瑞穂様が撃退に成功したのは火を見るよりも明らかです。ですが、何故名乗り上げないのかまでは……何故ですか?」

 問いかけるリリーに対して瑞穂は黙したまま目線を逸らし、ただ一言。消えそうな声で。


「――魔王なんて、何処にも居なかった」


 そう呟き、以降黙り込んだ。

「それで、俺の名はリクだ。そちらの黒髪の女性が瑞穂で君は……」

「え、あ、ティンです」

「ティンか。ではどちらに向かう? 砦の方に戻るか?」

「あー……あー、どうでしょうか? 砦はちょっと今大騒ぎになってると思うし、そんな直ぐに戻っても」

 しどろもどろと返すティンにリクは眉を顰めて。

「……直ぐに? いや如何頑張っても此処から大体五日ほど歩くと思うのだが」

「……瑞穂さん瑞穂さん、ちょいと良いですか?」

 ティンはぼそぼそと瑞穂に話しかけ。

「貴方、一体どんな手段であたしを運びました?」

「時間止めて、歩いた。あの子に好き放題させてたから」

「おいこら手前後で詳細聞かせろ」

 ティンは必死に剣に伸びた手を抑えた。



 あれから数日後。リクを先頭にして瑞穂は最後尾をうろうろしていて完全にティンがお目付け役となっていた。

 その間彼女が行っているのは通話だけだった。ずっと、誰かと何かを話しているようで、ティンが一寸距離を調整して聞いてみると。

「馬鹿はそっち。学校の成績炎と体育以外壊滅だったじゃん」

 何の話だ、とティンは心内で突っ込む。

「いや、あれは私の勝ち越し。と言うか火憐、うろ覚えで私に挑まない方がいいよ。よく知ってるのはそっちじゃん」

 とか色々話していると最後には決まって。

「あおとがよろしい様で」

『よろしい訳あるかッ!!』

 と、瑞穂は携帯を素早く耳から離し、ティンの耳にその絶叫だけが何度も響いた。

「あ、こっちじゃない?」

 暫く、歩いていてティンは唐突に言い出した。それに釣られて一行も森の奥に目を向けるが。

「多分、こっちだよこっち!」

「え、そっちって確か荒野が広がっていたような気がするけど」

 ティンの訴えにパープルはそう返すがリクは一息吐くと。

「いや違う。そっちじゃない、こっちだ」

 そう言ってティンが示した方向とは微妙にずれた方向に歩き出す。一行は一瞬呆気に取られたが一先ず一行はリクを先頭にして歩き出す。

 それから2・3日、荒野に出た一行は拍子抜けするほど真っ直ぐに、とある廃墟にたどり着き、その奥にある大きな城砦にたどり着く。その城砦の名を見てティンはその名を告げた。

「イヴァーライル王国領、デルレオン公国公爵館……」

 戻って来てしまった王国に、ティンは不思議な感銘を受けたように呟く。そしてそんな彼女の前にとある集団が屋って来て、堂々宣言する。


「あ、すんません廃品回収しにきました」

「お前ら親友を廃品呼ばわりするなっ!?」

「流石有栖、流れるような突込みだ」

「すっげ、この人本物だぁ」

「もうええわ!」

「はい、お後がよろしい」

「しくないわぁぁぁあっっ!! 何一つ、よろしい訳があるかぁぁあっっ!!」


「……なるほど、コントのデリバリーサービスか」

「いや違う」

 唐突に現れた集団にリクは冷静にコメントし、瑞穂が否定する。

 ではまた次回。

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