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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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大魔王、降臨

 一つ思うこと。

 ファンタジー世界に物理科学を混ぜて何が悪い。

 場所は宇宙。時は夜。

 満ちる漆黒の闇を星の光が切り裂くその世界。そこに、深紅の閃光が一つの星から立ち上っていく。立ち上った光はやがて月目前に迫り、そして消え去った。

 この星に打ち上げられた衛星はこの光景をばっちり映し、そして多くのもの達がこの絵面に絶句し或いは狼狽え恐怖に囚われ身体中から液体と言う液体を漏らし、またあるものは。

「なんだあいつか」

 と諦めと共に慣れ切ったため息を吐くのだった。

 



 見上げる空は暗い。いつの間にか時刻は夜となっており、天を星星が彩り明るく照らす。そんな世界に、そんな夜に、深紅の閃光が天を世界を焦がして駆け抜けていき、月を目前まで迫って消え去る。

 数貴の言葉に従いに一行は即座に頭を伏せていたが音が静まってから立ち上がって上を見上げたが、それを見て誰もが絶句する。

 何故ならば、その先に天井がなかったのだ。さっきまで天井があったと思わしき箇所が消えていて、夜空がそこにあったのだから。

「お、おい……何が、起きて」

「くっそ、おいこら手前どう言うつもりだ!?」

 数貴は地上より見上げて上空の見えない椅子に座り込んだなぞの男に叫び上げる。男はつまらなそうに見下ろしつつ。

「何が言いたいのかね? 我輩は呼ばれたから来た、それだけなのだが……そして問おうか、貴様は」

 言って、男は熱気の絨毯を使って成層圏、人間が生命活動を行える限界ギリギリの箇所まで打ち上げられた男を自分の目の前まで下ろし。

「君かね、この我輩を呼び出した張本人は」

「グ、グァッヴァール様、一体、之は、どう言う」

「我輩なりの、挨拶だよ。少し小指を動かしただけに過ぎん、何を怯えるのかね?」

 グァッヴァールと呼ばれた男。彼の格好を一言で言えば、棘だらけである。棘だらけの腕に首輪、炎のように立ち上がった髪にその上で奇術師の様な服をまとっている。そんな男がだ、宙に浮いた男を嘗め回すように眺める。男の表情は疑問と動揺に満ちていて、その様を見て数貴は。

「手前っ、なんのつもりだって聞いて」

「君と話をしてもいいが」

 数貴の言葉に、やれやれとグァッヴァールは目を落とし。

「我輩はこれでも礼節を重んじる。無礼を働くと言うのなら君から真っ先に消し炭にしようか?」

 言うと同時に膨大な熱気が膨れ上がるように砦の中を満たす。それで誰もが理解した、この男に下手に逆らうのはこの世で最も愚かな行為である、と。

「さて、君は我輩をここに呼び出し、そして何を願うのか?」

「む、無論! 今現在監獄内で幽閉されている魔王様の解放でございます! 大魔王グァッヴァール様のお力添えさえあれば、魔王様の解放など容易い事! それに魔王様と大間王様のお二人が揃えば世界など簡単に!」

「ほう、それが、可能であると?」

「も、勿論でございます! 故に、どうか我らと」

 言って、男は大魔王に何をされたのかを瞬時に理解する。と言うかさせられた。何故ならば、腹の中から第二の太陽を生み出されたからにほかない。そう、太陽。端的に、人間の体内に縮小された太陽が生み出されたのだ。

 つまり、現実的に言えば単純熱量千六百万度にも及ぶ高熱の球体が出現したのである。無論、太陽と言うよりただの炎ではあるがその音頭は紛れもなく太陽と同温度であり、魔法でなければ人間が蒸発している温度で、男の意識を五度狩り、五度起こすには十分すぎるほどの熱量である。

「な、なにを」

「我輩は他人に利用されるのを極端に嫌うのでね、一言で言わせて貰うのならばふざけるなと言うものだ」

 表情は一切動いては居ないが、先程とは違う明らかな怒りが瞳に浮かんでいる。

「魔王、とはあれか。先の魔王三つ巴か、ふん、下らぬ。貴様らは世界の覇者とやらお好みかね?」

「だ、大魔王様は興味ないの、で?」

 男は苦しみ、悶えながら口から炎の吐息を吐き出さん勢いでグァッヴァールと会話する。今だその体内には太陽と同等の熱量が渦巻いているにも関わらずに、だ。

「世界の管理職如きに心を動かすほど我輩は暇ではないのだ。そんなこと、やりたい者にやらせておけばよい……それともそんな下らん事を我輩にさせる気かね? ことと次第に寄れば、この辺り一体の地図を書き換えてご覧に入れようか?」

「めっ、滅相もございません! 我らはただ、大魔王様のご助力さえ貰えればそれで」

「ほう、それで良いのかね」

 未だ腹に極高温の炎が渦巻いていると言うのに、男の口は留まるところを知らず、その態度にグァッヴァールは下に目線を向け。

「君達のその戦力で、彼らを殲滅して見せろ。我輩を呼び寄せたと言う事は君も知っているだろう? 我輩はかつてあの者らによって辛酸を味わわされ、煮え湯を飲まされ、挙句この顔に泥を塗られたのだよ」

「は、はっ! 存じております」

「その全員が揃っている訳ではないが、それでも十分脅威と言える。君達の持つ戦力とやらで、あれらを撃滅して見せるといい」

 グァッヴァールの言葉に男は、その高温と吐き出される炎を飲み込みながら、男は持てる気力全てを絞り出して。

「その御期待、必ずや応えてご覧に入れましょう!」

「楽しみにしているよ」

 その言葉を聞いたグァッヴァールは僅かに微笑みながら男につげ、そして熱気の絨毯は連なって階段を作り出して下への道を作り出す。そして、砦の四方から一斉に兵士一同がやって来て。

 数貴はそれを見るよりも先に荷物を取り出して紐に火をつけて鉄の塊、大体人の大きさの半分の大きさもある筒を連中に投げ付けた。

「おい、今何を投げた?」

「簡単な物理化学の時間だよっ」

 格摩の問いに数貴は無垢な子供の様な声で答えて、直後に悪魔のような笑顔で全員に。

「問1、水に電気を当てると何が起きるでしょう、か?」

「先生、電気分解の事を仰りたいのですか? ですが、水に電気を突っ込んだくらいで……」

 水純は言葉の途中で全員が、絶句する。正確にはよく分からんと言う表情で返すビリーと氷牙以外だが、何故そうなったのかと言えば、数貴が最高に純粋な笑顔で電極を取り出したからだ。それはつまりどういうことなのか、付き合いの長い水純と格摩は瞬時に理解する。

「あはっ」

「や、やりやがったっ!? この人自前の電極で自分の魔法で作った水を電気分解しやがった!?」

「お前今投げたのってまさか水素爆弾!?」

「水素詰めの爆弾ですか!? いやこの人がそんな生温い物を作ったりはしない、何混ぜた!?」

「え、てきとーに火薬全般? 忘れた、やばい液体混ぜたのだけは覚えてる。いやぁ、深夜テンションで作ったからなあ、真昼間に」

 てへぺろおーと数貴が言うと同時、巨大な爆発が巻き起こった。それは正しく人一人半は入りそうな筒の中に詰められた何か――多分、気化した水素か何かかと思う――に火が入ったことによる爆発。

 砦の壁を吹き飛ばし、と言うか周囲の人間も壁も床諸共吹き飛ばして瓦礫に変える。

「うーん、威力抑えすぎたか……ようし、深夜にローテンションで作った威力最キョウくらすの秘密兵器に」

「着火すんじゃねえ!?」

「あんた味方諸共吹っ飛ばす気ですか!?」

「吹っ飛ぶ方が悪い」

 言って、また荷物から取り出した筒から伸びる紐に火をつけたそれをぽいと投げた。先ほどまでは何なのかと呆気に取られ続けていた兵士達もその危険性を認識したのか。

「う、撃てぇ! 撃ち落せ!」

「おいおい、人の話聞いとけよ、それニトロ積んでるから撃ったりしたら」


 直後、砦の部屋そのものが爆散する勢いの大爆発が巻き起こる。

「お、おい、何だこの震動は!? くそ、格摩如何した!?」

「一体、何でしょうか!?」


「ふむ、威力足りねえか?」

「これでか!? この惨状見ても言うのか手前は!?」

 数貴はちゃっかり味方だけを守るように張った水のバリア越しに自分の手製爆弾の威力を評価する。

「衝撃吸収霧散型の水バリアで防がれるってやばいだろ。それに」

 言って、数貴は部屋の中央に鎮座する巨大な鉄の塊を見て。

「あれも無傷だし」

「お前が求めてる威力って自爆級なのかよ!? 危な過ぎるわ!」

「えいやだって、こう言う集団戦だぜ? これくらいのことでもしねえと数で劣る俺らに正気ねえじゃん」

「加えるならこいつら」

 ユージの言葉に応えるように防御術式を解いた彼らは鮮やかな動きで銃を槍を構え。

「さっきまでの雑魚兵共とえらい違いだ! こいつら練度が違う!」

「本物の残党のお出ましか!」

 弾幕を背に一気に突進し、数貴は何でもないと言わんばかりにまた筒を投げ出す。そして器用に投げられた筒は槍使いの隣に落ち、更には後ろから飛んで行く銃弾が筒を撃ち抜き、中に熱を持った銃弾が入り、火花が舞い、中の気体が引火し、爆発し。

 前衛の槍使いが爆風に巻かれて吹き飛んだ。

「格摩、壁」

「便利屋あつかいかよ!」

 数貴の言葉に悪態付きながらも格摩は前に飛び出して岩壁を彼方此方に展開して飛び交う銃弾を防いでいく。

「つか手前、本当ならもっと早く作りやがれ」

「うるせえ、真上に居座るあれが居る以上何をしようと無駄だろうが!」

 言って格摩は真上を見上げてこちらを見下ろしている大魔王を見る。

「あの野郎なら気にすんな、喧嘩すんなら何時も真っ先に降りてくるし……それに、あの大魔王は意外と雑魚だ。特に集団戦に置いてあのやろうを倒すだけなら――」

 言って数貴は上空でふんぞり返ってこちらを見下ろす大魔王グァッヴァールを挑発的な視線で睨みつけて。


「ただのボーナスステージ。そこらの雑魚と戦うより簡単だ」


 その宣言を聞いた武旋は数貴を怪訝な表情で見ながら。

「……随分大きく出たな。そんなに簡単なのか? 相手は炎を大気圏がぶち抜くほど高く上げる程の魔力を持ってるんだぞ?」

「だからだよ」

 武旋の言葉を数貴は小さい声で切り裂き。

「は? どういう」

「んなこたどーでもいい。それよりも――」

 言って、数貴はものすごく深刻な表情を見せ、腕を組んで考え込む。その様子を見て、この状況から考えて恐らくかなり重要な事なのだと一行は瞬間的に悟り一体どんな話なのかと考えを巡らせ。

「格摩君を、一体どうやって痛めつける作戦にするか」

「それそんなに深刻な問題なの!? っつかおまえなに真面目な顔で物騒なこと考えてたんだ!?」

「え、だって大体そう言う役目おうのお前だし」

「っつかなんつー作戦考えてんだよ手前は!? あほか!」

「俺は何時もこんな感じだ」

「そうだった!?」

 と、格摩と数貴は慣れた調子でコントを行うが先に格摩が折れて。

「もういい! とにかく、こいつ等全員をぶちのめせばいいんだろうが! だったら」

「おい待てよ」

 と、走り出そうとした格摩を氷牙がその襟首を掴んで止める。

「何すんだ!」

「またお前勝手に飛び出して数貴に怒られるつもりかよ?」

「ぐっ、で、でもよ!」

「それに、こいつは基本やって欲しい事があるなら何時も簡潔に、的確に伝えるだろ? だからあんな訳分かんないメール送って数貴に起こられるんだろうが」

 と、氷牙に呆れ顔で逆に説教される格摩。それを見た数貴は非常に居た堪れない表情で格摩の肩に手を置いて。

「馬鹿に言われちゃ、お仕舞いだなお前」

「誰のせいだよ!?」

「でも先生、氷牙さんでしたか? その人の言う事は基本尤もですよ? 先生の友人とは思えない冷静かつ聡明な方ですね」

「おいこらがき、手前そら俺が馬鹿だって言いたいのか?」

 握り拳を作る格摩への返答は唯一つ、本に目を落とすのみだ。もう、それで全てを悟れという感じであった。

 んじゃまた。

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