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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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いい男の条件

 煙が晴れた、崩壊した砦の部屋に此処に集った中間達が集合していた。

「それで、これから如何するかだが……一先ず適当に砦の中央に行って親玉潰すか」

「おい待て、この砦には他に仲間が居るんだが」

「知らん、放置でよし。そっちだって無意味に意識的に別行動取ってるわけじゃねえんだろ? どうせあれだろ、ケータイ……じゃねえな、その傷模様じゃ」

 言って数貴は格摩の酷い様を見る。何せ上着は完全に溶けてほぼボロボロだがまだ原形を留めているワイシャツを着ている程度だ。一応腰のポーチだけは無事だったが。

「持ってるだろうけど戦闘で失くしそうなもんで連絡取ろうなんて考えてねえだろうし、どうせ地の魔力リンクを使った連絡手段がベストだろう。まあ、別働隊に地属性もちが要るとはかぎらねえが、そこまで馬鹿って訳でもねえだろ?」

「お、おう。その通りだ。っつか、お前がやった惨状だろうが何言ってやがる!?」

「知らんタコ。まあそこから考えれば別にどーでもいいんだよ。寧ろ適当に泳がせて随時連絡取りながら適当に回収すればいい」

 と、数貴の考えを聞いていたユージは。

「なるほど……つまり、あんたがこいつらの軍師担当でいいんだな?」

「別に良いぞ。で、次の作戦行動だが」

 と、そこでけたたましい音と共にこの部屋に鉄の塊が突撃してくる。それを黙って一行は見届けた。鉄の塊の正体は正に空気を完璧に読み外した代物であり、何故にそのチョイスなのかと逆に問い返したなるレベルの代物で。

 一言で説明すれば、乗用車だった。なんかこう、高級車が突っ込んできたのだ。そのよく分からない高級車は部屋に入って早々華麗なドリフトを決めつつ停車し、中から出てきたのは。

「やあ、揃っているようだねハニー達?」

 そして。

「車体ボディ全体に特殊術式による魔術コーティングを施し、内部には各種兵器を搭載し、内容はミサイルから機関銃までなんでもござれの番人向け。タイヤには勿論防弾加工を施し地の術式によるダウンフォース付与により例え何百人轢こうが撥ね様が台風に突っ込もうがビクともしない突進力を備え、そして勿論カーナビ完全装備な為道に迷うなんて当然ありえない、それも衛星通信対応でその電波はあらゆる術式を駆使して惑星の中心だろうと電波感度は常に最高、そして流れる華麗な音楽、しかも大容量にものを言わせて高音質で億を越えるほどの曲数を収録可能、更には前後左右に外部カメラが付いており例え戦場のど真ん中に出ようと万事OK、そうそんなハイセンスな車を自由自在に操る事、それが――」

 カッ、と革靴が石垣の床を叩き、キリッとした男の微笑む顔と。


「いい男の、条件さ」


「すげえー!」


「いや、そのハイセンスな車を使って砦内で人を撥ねまくった奴の台詞じゃねえよ」


 ビリーと氷牙の賞賛と、数貴と格摩の渾身の突込みが、車内から唸った。

 ちなみに彼らの前に現れたのはそこまで謎って訳でもない情報屋のバクゥフさん。彼らを何故か車に乗せて砦内を爆走しているのだった。勿論、車の駆動音が激しくなっている為に砦中の兵士に聞こえている、よって彼らは音の原因へと向かうのだが。

 結果、爆走する車に撥ね飛ばされる兵士達と言う妙にカオスな映像が出来ている。勿論弾幕とミサイル乱舞のおまけ尽きである。

 無論、よい子の皆はやっちゃだめだよ。

 バクゥフは何事もなかったと言わんばかりに車に戻ると再びエンジンをかけなおしてアクセルを踏みなおして。

「さて、皆、聞きたいことはあるかい?」

「何でてめえが此処に居る」

 格摩と数貴がまた同時に言い切った。それを聞いたバクゥフはやれやれと首を横に振って。

「ッフ、僕はただたまには羽目を外すのも悪くないと思ってね……全く、いきなり唐突に酷いなあ。兄貴分の僕が此処に居るのが、そんなおかしいかい?」

「羽目はずし過ぎだろうがよ。っつか、誰が兄貴分だ」

 バクゥフの言葉に数貴が呆れ気味に応えた。

「っつか、この車一体なんなんだ。ハイセンスカーって言うがハイセンスとかそう言う次元じゃねえだろうが」

「この車? ふっ、良いのかい? 下手をすれば君もこの闇の世界に巻き込まれるぜ?」

「どうせどっかの国から持って来たもんだろ?」

「いや、違うけど。いろんな国の技術を我が至高にして最強の秘奥義、あえて名を付けるのならY・O・K・O・N・A・G・A・S・H・Iと言うべきかな?」

 得意げなようで、大仰に言うバクゥフの言葉に水純は無表情で。

「先生、今の言葉の羅列って解読すると横流しになるのですが如何なのでしょう?」

「あ、うんそれで合ってる」

「つれないねえ、全く君は――」

 言いかけて、車の前に現れた白刃を目にしてバクゥフは軽やかなボタン操作で車をジャンプさせ、一閃する刃を回避し窓を開けてその人物を視認すると。

「君ね、いきなり切りかかるのは如何なんだい?」

 そう言ってジト目で砦内の階段を爆走する車を切り裂こうとしたその者を睨みつける。その男の正体は。

「格摩、貴様のお膳立ては整っているな?」

「剣人、か?」

 黒髪の、黒衣を纏いし剣士。剣人がそこに居た。手にしていた刀を鞘に納めながら車に近づくとそのまま乗車した。勿論、当の昔に乗員オーバーなのだがそんな事なぞ誰も気にしていない。

「いや、乗るんなら斬るのは辞めてくれないかい?」

「貴様なら避けるだろ」

「嫌な信頼だ」

 バクゥフは苦笑すると再び車のアクセルを踏み込んで移動を再開させる。

「で、何処に向かってんだこれ」

「一先ずこの砦に潜んでいる連中を叩こうか。元々その為にきていたんだしね」

 そう言って砦の中を問題なく突き進んでいく。尤も、車で突撃と言うのが既に大問題な気もするのだが。

 一行を乗せた車はやがて砦中の大きな一角に突っ込み、その扉に向けてミサイルを幾つも撃ち込んで扉を破壊し、その中へと飛び込んでいった。

「っ、全員車から飛び出るんだ!」

「おい、行き成り何を」

 格摩が途中から言いかけて黙り込んだその理由は至極単純、バクゥフが押し込んだボタンによって車のドアが自動で全開となり、椅子が飛び出て乗車している人間全員吹っ飛ばされたからだ。

 結果として彼らは車から吹っ飛ばされて部屋中にばら撒かれる事となる。

 そして未だに乗車しているバクゥフは素早くボタン入力を行っていく。そんな彼の目の前には巨大な炎の塊と、鋼鉄の何かがあった。バクゥフが行き成り車から降りろと言ったのは之を見たからであり、彼がまだ乗っているのも之に対抗する為であり。

「早速使う時が来たか――とぅッ!」

 全ての入力を済ませるとバクゥフもまた車から飛び降りた。そして無人となったハイセンスカーは炎の塊に突撃し、爆炎に飲み込まれ、かつ爆炎さえも纏って鋼鉄の塊に迫って大爆発を起こす。

「くっ、僕のハイセンスカーが……あれを作るのに、一体どれほどの軍事機密を横領したと思っているんだ!? こんなことが世界に漏れれば僕は――」

「先生、あの人影でこそこそと何か打ってますけどあれってなんですか?」

「データじゃね? あれだけの軍事機密を詰め込んだ最新兵器を持って来たって事はデータとって来いって事だろうし、多分自爆装置使ったのも威力とか実用性の確認とかだろ? 下手すると開発費パクってる可能性あるぞあいつ」

 バクゥフはその大爆発を背に苦い表情で役者のような事をぶつぶつと言い、その様を見て水純と数貴が冷たく言い放った。

「なあ、バクゥフの奴が段々遠いところに行っちまったようなきがするんだけど……?」

「馬鹿だなあ氷牙。あいつは昔から遠い所に行き過ぎて俺らの後ろから追い抜いているんだぞ?」

 それを見て氷牙が首を捻るが、数貴はそんな事をあっけらかんと言い放つ。そして、車が特攻していったその鉄の塊を視認する。

「とうとう此処まで来たか、貴様ら」

「そこの銃使い」

 砦の高所、足場からこちらを見下ろして何かを言おうとしている人間に向けて数貴はユージに声をかけ、それに反応してユージは即座に鉄の塊を取り出してトリガーを。

「撃て」

 言う前に引き、一家に一台と言う名文句をつけても良いような、いやアウト過ぎる代物名づけて皆大好きスティンガーミサイルを撃ち込んだ。撃ち出された追尾弾頭は真っ直ぐに高所の人間の下へと飛び込んで爆散。

「おいこら待てそこ」

「え、何か問題でも?」

「誰がミサイル撃ちこめと言った!?」

「ライフルで即撃ちなんて無理だしそれにきっと」

 そう言ってユージは上を見上げながら弾の入ってないスティンガーを投げ捨てるとライフルを取り出して。

「いきなり地対空ミサイルか。人間への対応とは思えんな」

「魔導師への対応とも思えないな。防御術式で防がれちゃライフルとミサイルもかわらねえだろ?」

 弾倉を取替え、もう一度同じ所へと撃ちこみ。

「無駄だ……それにしても、随分なメンバーが揃ったものだな」

 晴れた煙の先、今だよく見えぬ男は胸元に突き刺さった水晶の弾丸を叩いて落とした。

「……少年傭兵に、影の英雄達に魂の盟友か。面白い……かの大魔王を呼び寄せ、獄中の魔王様を解き放つ、その前夜祭には丁度いい相手だ!」

「な、に?」

 数貴は男の言葉に一瞬だけ呆気に取られた表情を見せた。そしてカオから非常に不味そうな顔を見せながら脂汗を流しながら上を見上げて。

「え、くんの? あれくんの? いやまさか、来る訳ないよなあいつそう言うの興味ないと思うし」



「ほう、たまの暇つぶしに来て見れば面白いものが見れたな」



 その声を聴いた瞬間、数貴はとっさに全員向けて。

「手前ら全員伏せろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?」

「こ、この声はまさか、お出でになられたのですかグァッヴァール様!?」

 直後、パチンと指の弾けた音と同時に、砦の中央から巨大な爆音と共に火柱が雲を付きぬけ成層圏を貫き、宇宙空間にまで立ち上った。

 んじゃまた。

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