まずお金を稼ごう
新都ハスタ・スピアを出て数日、ティン一行は更に別の街へと向かっていた。
で、現在森の中にて。
「もー無理! もー歩けない!」
ティンはそんなことを言って道の真ん中で座り込んだ。
現在の服装は浅美に買って貰ったオーラウェアであります。騎士服は畳んでしまっております。理由? いやだってあんな綺麗な服を着て一々旅なぞできません、と言う事らしい。
「えー……そう言っても」
「時間的に此処で野宿だから別にいいんだけど」
空を見れば赤く染まっており、そろそろ夕食時を思わせる風景だ。ティンは靴を脱いで足を揉み始める。ついでに息を吹きかける。
「足、冷やしたい?」
「うん。足が熱くて、痛い……」
ティンが言うと浅美は手を足の上に置き、ティンの足はあっと言う間に氷付けとなる。
「くぅぅぅ~~……きもちぃ~……」
「浅美さん、テント張るから手伝って」
「はーい」
浅美はそう言って瑞穂の下に向かって行く。まあやる事は簡単、テントの両端を押さえて術式を発動させてテントを完成状態にするだけだが。そんなこんなで出来上がるテント。
「夕飯は何ー?」
「鳥飯缶詰め」
食後。ティンはテントの中で足の裏をマッサージしている。
「ティンさん、足痛いの?」
「滅茶苦茶痛い……と言うか二人とも、体力すっごいねえ」
「だって、わたしは冒険暦四年だもん」
「色々と知識が要るんだよ。靴選びとか、服装選びとか」
「靴? あたしの靴って、旅に向いてないの?」
「それ、ティンさんのって何の靴?」
瑞穂が言い、テントの側に置いてある靴に注目する。
「……えっと、それは確か……孤児院の戦闘用靴。動き易さを重視してて、結構頑丈」
「ふーん。じゃあ長歩きには向かないね」
ティンは足を揉みながら瑞穂の発言に頭を捻る。
「それどう言う事? 動き易いなら歩き易いんじゃ?」
「違うよ。動き易いと長く歩けるはちょっと違う。短時間を素早く動く事と、長時間な歩き続けることは身体の動かし方と体力の使い方は全く違う。
ちょっと靴を見せて」
瑞穂は側に置いてあるティンの靴を手にとって見る。
「……これ、修行用の靴みたいだね。やたらと動き易さだけを重視して作ってあるみたい……ねえ、ティンさん。ティンさんはずっとこれを?」
「ん? うん、そうだよ」
「よく此処まで歩けたね」
瑞穂は淡々と口にする。
「え? どういう事?」
「これ、動き易さだけを重視して作ってある。これじゃあろくに散歩も出来ないくらい。この靴の履き心地は悪いと言うか、裸足に近い物だよ。よくこんなの履いて旅が出来たね」
「えっと……どう、する?」
ティンは何を言えばいいのか分からず、ただ口を開く。
「騎士服のブーツを見せて」
「あ、うん」
ティンは言われて自分の荷物の中にある騎士服のブーツを取り出し、瑞穂に手渡す。
「……ふむ。こっちは結構バランスが良い。動き易く、足が疲れ難い。本格的な戦闘用のブーツだね。ティンさん、これからはこれを履きなよ」
瑞穂は言いながら持ち主に返す。
「ん、分かった」
ティンは返事をして布団にもぐる。足のマッサージしたまま。
そんなこんなで翌日。一向はやっとこさ新しい街、アカコガネシティへとたどり着いた。
一行は街の案内板のある噴水広場の前にいる。
「で、どうするの?」
「まずは宿の確保と持ち物の検査だね。足りない物と追加する物を考案する必要があるから。一応此処なら色々物があるから予備の剣も買えるし、装備の買い替えも出来るよ。とりあえずまず最初にやるべきことは資金の補充だね」
と瑞穂が仕切っている。非常に手馴れた様子である。以前も彼女が組んでいたと言うパーティでもリーダーであったのだろうか。
「で、ティンさん。欲しいものはある?」
「そうだな……あ、じゃあ携帯型おきがえ君が欲しい! あれがあれば騎士服にいつでも着替えられるし」
「じゃあお金あげるね。瑞穂さんお財布返して」
浅美は瑞穂に手を出して財布を返せと迫る。がしかし。
「駄目。それくらい自分で稼いで。ティンさんも集るんじゃなくて、それくらい自分で買いなよ。装備や道具みたいに皆で使えるとか、パーティの戦力強化の為とかなら都合するけど、ティンさんだけが使う物なら自分で稼いで買って」
「稼ぐって……具体的に?」
ティンの言う事も尤も。今の彼女達は自由気ままに世界を渡り歩く冒険者なのだ。どうやって資金を稼ぐのか。
「こういう時は賭け勝負だね!」
「賭け勝負?」
「お金を賭けて戦うの。勝つとお金くれるんだよ」
ティンはほうほうと頷いた。確かにこの方法なら修行も出来る、お金も稼げると一見一石二鳥に見える。しかし。
「浅美さん、それは駄目だよ」
「え、どうして?」
ぴしゃりと、瑞穂はその提案を却下した。その理由とは。
「賭け勝負は一見効率的な資金稼ぎに見えるけど、実は全然違う。
良い? 賭け勝負でお金を稼ぐには絶対条件が二つあるよ。何だか分かる?」
瑞穂はティンと浅美に問いかける。二人は顔を見合わせてうーんと頭を捻る。やがてティンが手を上げる。さて答えは?
「……お金?」
「そうだね。まずはこちらが賭けるべきお金が無いと始まらない。もう一つは?」
「……勝負運?」
ティンは続けて答える。浅美はまだ頭を捻ってる。
「違うよ。必要と言えば必要だけどそれじゃない」
「じゃああたしはお手上げ。浅美は分かる?」
「……対戦相手のお金?」
「浅美さん、一週回って逆に結果を先走ってるよ」
浅美は分かんないよーと答えた。
「……答えは相手、だよ」
「相手? 何で相手が必要なの?」
「ティンさん、私達は一体誰と勝負してお金を手に入れると思ってる? 勝利して得るお金は何処から来てると思ってる?」
「えっと……相手のお財布? じゃあわたし間違って」
「浅美さん、確かに結果的に相手の財布からお金を貰ってる。でもね、何にしても相手がいないと賭け勝負はそもそも成り立たない。
良い?
相手がいないとそもそも勝負自体が成り立たない。そして、賭け勝負で稼ぎ続けるには必然的に相手からの挑戦を常に受け続け、尚且つ戦う相手は常に勝てる相手が望ましい」
「でも、そんなの賭けじゃないじゃん」
ティンが手を上げて瑞穂に反論。
「師範代が言ってたけど、常に勝てる勝負は賭けじゃなくて一種のイカサマだって」
「イカサマも正当性があれば立派な手段だよ。これは運だけが物を言うゲームじゃない、戦闘の実力と駆け引きが物を言う勝負だよ? 上手く稼ぐには自分が常に勝ち続ける状況を生み出すのが重要なんだ。その鍵を握るのが、いかに対戦相手を絶やさずにいるかって事」
ティンは疑問符を浮かべて瑞穂に問う。内容は。
「相手を絶やさずにするってどういうこと? 勝つだけじゃ駄目なの?
「絶対に駄目、とは言わない。でも勝ち続けるのはちょっと場合によっては望ましくない」
「と、言うと?」
「勝てば勝つほど相手の強さのレートも上がっていく、と言うことだよ。中にはイカサマを使う人だっているしね。このゲームで重要なのは如何に相手の『挑戦意欲』を持たせるかって事。常に勝ってたんじゃ相当な馬鹿でも無い限り相手は居なくなる。負ければお金を失うんじゃ誰だって強い相手との戦いを避けるよ。それでも来るとしたらこちらに勝てると確信してる相手。そう言う相手は大凡が何らかの手段でこちらへの戦略的対策か、勝てると思う実力があるか、何らかの卑怯な手段を持って来てるかの何れかのパターン。どれにしたって相手にはしたくない。人間何時だって勝てるとも限らないし、土壇場で勝負運が左右する時もある」
「……えっと、ようはどういう事?」
ティンは訳分からんと言わんばかりに返した。
「要約すれば、勝てば勝つほど勝つのが難しくなっていくって事。分かる?」
「うーん、勝つほど次の対戦相手が強くなるの?」
「そう言う感じ」
「でもでも、わたしにはいざって時混沌の魔剣があるから逆転だって出来るよ?」
「それ言えば、あたしだってとっておきがあるけど」
ティンは口にしてないが、彼女の言うとっておきとは魔力の暴走による神剣召喚のことだ。瑞穂はそれを聞いてため息を漏らす。
「ねえ、私の話聞いてた? 理解してる? いざって時の大逆転なら私だってあるよ。でもそう言うの使って勝ったら誰だって『こいつとは戦いたくない』って思うじゃん。或いは向こうも『とっておきの切り札』があるかも知れない。もしかしたら取って置きの切り札さえ凌駕する実力を持ってたらどうするの?
そう言うことも考えれば時には負けること、無理なら快勝し続ける事は避けるべきなんだよ。
一回の戦闘で数回は攻撃を受けたりして『こいつには頑張れば勝てる』とか『何度か戦った後ならスタミナ切れで勝てるかも』と思わせるのが重要なんだよ。
そう言うことを考えながら戦える?」
「……うーん、師範代に『相手に攻撃をさせたら、あるいは受けたら負けと思え』って教えられてるから無理かな? 浅美は?」
「……確かに無理だとは思うけど、この中じゃあ一番防御力の低いと思う瑞穂さんが言う台詞じゃないよね?」
浅美は『今日のお前が言うなスレは此処ですか?』と言わんばかりの表情をしてる。彼女は基本回避重視の軽装剣士だ。物理防御は低めだが、防御を完全に何処かに置いて来た瑞穂ほどではない。
「でも浅美さんみたく鬼畜レベルの回避力は無いと思うよ?」
「瑞穂さん、それ自慢出来る事じゃないし。そんなんだからいつもボロボロになるんじゃ」
何故か、二人の間に不穏な空気が流れ始める。まあ喧嘩するほど仲が良いとは言うけどね。
「で、結局瑞穂が賭け勝負で稼ぐって事でいいの?」
「まあ、そうなるね」
「それであたしと浅美はどうするの? 戦ってお金稼ぐのが駄目となると……」
「じゃあ闘技場に行く? 大会でもやってたら一気にお金も稼げるよ」
「駄目だよ浅美さん」
浅美の提案も瑞穂がぶった切る。
「闘技場の大会は参加費があるし、何より時間がかかるしその上時間をかけた分の見返りも少ない。失った時間は膨大だよ? そのうえ優勝以外は失った時間に見合う程の物とは言えないし、そもそも優勝賞金自体大した事が無かったらどうするの? もっと言えば、大会は何時もやってる訳じゃない。狙うならなるべく大きな物にするべきだけど、そもそもこの街に闘技場があるの?」
瑞穂はいって案内板に注目する。そこに書かれた情報によれば。
「無いみたい、だね」
ティンがいった。
「じゃあ闘技大会に参加は無理だね。と言うことで二人には短期バイトをして来て」
「はーい」
「え、まってよ二人とも」
浅美が返事をした後、ティンが異を唱える。
「バイトって冒険者を雇ってくれる店って、あるの?」
「じゃあ、まずは場所を移そうか」
と言うことで一行は『冒険者サポートセンター』と書かれた施設の中に来た。
瑞穂は受付のお姉さんと色々話している内にティンの方に向き、カードを手渡す。
「はい、これが冒険者ライセンス。これで冒険者サポートセンターのサービスを受ける事が出来るよ。身分証明書と履歴書としても使えるから失くさないで」
「分かった」
ティンは言われて瑞穂から冒険者ライセンスを受け取る。瑞穂は『バイト検索用』と書かれたプレートが張り付いたパソコンを弄っている。
「で、これを使って冒険者のバイトを募集してる所を調べる事が出来る。それで軽く面接を受けてくれば良いよ」
「ふーん……何処で働くのが良い?」
「そうだね……此処の喫茶店なんてどう?」
瑞穂はパソコンから『主に女性募集。短期、長期どちらも可』と表示されたページを開く。ページには喫茶店の場所と内装の写真が表示されている。
「此処だね、分かった。じゃあ行こうよティンさん」
「待って、募集人数は……うん、二人以上だから良いね。じゃあ浅美さん、ティンさんをお願い」
「はーい」
浅美は返事をしてティンの手を引いてサポートセンターから出ると魔法を操り、風の翼を展開すると空を飛んだ。
ティンにとっては計三度目となる空の旅である。
真下に見える街の風景は中々に良い眺めだ。以前は街がゆっくり見る事が出来ないほど速かったが、今度は非常にゆっくり飛行。
と視界が思いっきり揺れた。どうやら目的地が近いから浅美が降下体勢に入ったようだ。
緩やかに迫る地面。そして目的地であるカフェの前に来るとゆっくりと二人は地面に降り立つ。
「じゃ行こうか」
そう言って二人は店の中へと入る。
店内のロッカー室内にて。髭を蓄えたナイスミドルな店長が、自慢(かどうかは知らないが)の髭を撫でながら嬉しそうに二人を交互に見ながらコメントする。
「で、浅美くんにティンくんか。分かった、じゃあ早速制服を着て働いて貰う事になるけど構わないかな?」
「はーい」
「え、あの良いんですか?」
と、あっさりとまずは働けと言われる二人。対して浅美はあっさり返事をするが、思わずティンは聞き返してしまった。
「ん? 何がだい? ああ、ティンくんはバイトは初めてだそうだね。でも浅美くんはバイト経験あるのだろう?」
「うん、こういう事は何度かしてるよ」
「なら、仕事は彼女から教わると良い」
「え……っと。そんなんで、良いんですか?」
ティンは何か納得いかない様で尚も食い下がる。働かせてくれると言うんだから素直にうんと言え。
「ん? 何か問題でも? ああ、そうか。採用の合否については問題ないよ、うん。採用だ」
「そ、そう、ですか?」
「ああ、二人とも綺麗な金髪に可愛らしい外見をしている。丁度女性冒険者のバイトが一気に辞めて行った後でね、男ばかりになってむさくなった後なんだ。君達みたいに可愛い子が入ると嬉しいよ」
「えっと……そう、ですか?」
ティンは照れ臭そうに……ではなく、混乱した表情で返事する。どうやら、可愛いと言う表現に疑問があるようだ。
「ああそうとも。じゃあ早速だが頼んだよ。女性用の制服はそこの部屋の中にあるロッカーにおいてあるから」
店長は奥にある『女性更衣室』と言う札が張り付いた部屋を指差すとささっと出て行く。
「じゃあ着替えよ」
「あ、う、うん」
ティンは戸惑い気味に頷いて浅美について行った。
次からティンと浅美のアルバイトとなります。