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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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ことは慎重に

「って、おい。何だこの状況は!?」

「……その突っ込み、何か散々聞いたような気がする」

 関哉の突っ込みに格摩が溜息はいて下ろしていた腰をやれやれと上げた。

「鞍替え、だとよ」

「へえ、理由は?」

 関哉の軽い返しにユージもまた軽い調子で。

「雇い主消えた、おまけに金も貰ってない」

「なある。山賊共があんだけ慌ててたのもそういうことか」

「おい、どういうことだ?」

 軽く返す関哉に言葉に格摩が繋げる。

「ああ。此処に来る途中、何度か逃げ惑う山賊共見たぞ。俺見た途端、あっさり逃げやがった」

「……親玉が消えて、下の連中も戸惑っている? 山賊共はこの砦の連中と繋がっていない?」

 呟いたのは武旋。だがしかし、関哉は肩を軽くすくめるだけで。

「さあ? 俺にはかんけーねーし。んじゃ、そう言うことなら行こうぜ」

「って、待て待て。お前、この傭兵信じるのか?」

 と、格摩が言うが関哉はそんなことか、と肩をまたすくめると。

「傭兵が鞍替えなんて珍しくねえだろ? 理由も分かり易いし、強いて聞きたいのは当面の報酬だな」

「ん? ボストンバッグだけど?」

「ハハッ、武装か。そいつは余計分かりやすい、んじゃ皆行くか」

 そう言って関哉は一歩歩き出すがそれを武旋が制す。

「待て。関哉と格摩の二人が集まったのならもっと効率の言いやり方が出来る」

「と、言うと?」

「地属性の魔力を持つもの同士は、接地した物を利用した互いの存在を感知し会える奴があるよな?」

 言いながら武旋は鋭い視線で格摩と関哉を見やる。格摩は顎に手を当てて考え込み。

「うーん……昔、学校で習ってはいたが使った事なんてねえぞ? 確か、相手の振動信号を使って同じ建物にいる奴と連絡を取る手段、だったよな?」

「確かに、そんな事は出来なくはないけど……どうだろうか?」

「一先ず試してみろ。そうすりゃ携帯電話を使うよりも速くて確実な連絡手段が出来るからより正確に連絡が取れる」

「と言うことは二手に分かれるんですか?」

 そこで武旋に口を挟んだのは皐だ。

「ああ、まずは数貴や……ええっと、さっきの声ってもしかしてビリーと氷牙、か? 取り合えずそいつらと合流する班、そして次に此処の親玉と直接ぶつかってある程度的をぶっ潰しに行く突撃班だ。んで、格摩と関哉の片方をチームに分けて行動する」

「で、俺らが連絡役、と。まあそれなら下手にケータイ使うよりかは確実か」

「なら早速お互いの信号を響かせるか。それを知らなきゃ連絡も取れねえしな……何より、俺に出来るかどうかもわからねえ」

 そう言って格摩は関哉から少しはなれ、そこから壁に手を置いて意識を集中させていく。関哉も何かを感じ取ったのか、徐にしゃがみ込んで手を地面に置き、そこに意識を集中させていく。

「んじゃ、俺らは班分けだが……」

「じゃあ俺は突撃班な。その砦への侵入者とか俺顔しらねえし」

「それを言えば武旋さん以外知らないのでは」

「いや、皆格摩のダチだからな、格摩なら全員知ってる」

「え。じゃあもしかして、格摩さんの差し金、ですか?」

 皐の問いに武旋は無言で頷くと魔力を通しあっている格摩に目を向けた。

「さっき電話で呼んだそうだ。にしても速いとは思うが」

「よし、繋がった」

 言って関哉が立ち上がった。格摩も集中を切って大きく深呼吸する。

「ふぅ~……意外と疲れるもんなんだな、これ」

「ああ、俺も初めてやったが、しんどいな」

 関哉は言いながら額の汗を拭った。そこにタイミングを見計らった武旋が格摩のほうに。

「で、チームわけだが……格摩はどっちにいく?」

「あ? 俺は……どっちかと言うと突撃班っすね。俺が迎えに行くようなたまじゃねえし」

「じゃ、俺は迎えのチームに」

 そこまで言って関哉はある一つの疑問が頭に浮かんだ。誰か、格摩の友人が増援でこの砦はいったのはわかる。だが。

「って一寸待て。一体誰が来るんだ?」

「ん? 氷牙とビリーだよ。ほら、関哉なら一回会ってるだろ?」

「ああ、あの連中か……だよなー」

 と、関哉は乾いた笑いを浮かべる。その意味が読み取れた格摩と皐は呆れた視線を向けたが当人が一切気にしていない。武旋は取りだしたメモにチームわけを書き込み。

「んで、格摩とユウが突撃班、と」

「待ってください。それだと合流の時は如何するんですか? 格摩さんが呼んだのに」

「いや、呼びはしたが何処で合流、ってのはないからなあ。どっちかと言えばお互い暴れ回ることで彼方此方に痕跡残し、それを頼りに合流って感じだしな」

「……杜撰過ぎね?」

「何時も無計画だからな、それが自然になってた」

 それまで無言を貫いていたユージの突っ込みに格摩は苦笑いで返す。

「しょうがねえ……俺も突撃班に混ざるか。どっちかと言えば合流班の方がいいと思うが、あいつらの進行速度を思えば合流時に格摩達がいるかもしれねえしよ」

「では私達が合流班ですか?」

「ああ、そうなるな……で、大丈夫か?」

 問われた皐は眉を潜めた。

「……何が、でしょうか」

「置いてくほど酷い状態だったんだろ? ある程度は回復したようだが、お前に庇い切れるのか?」

「え。え、ええ、まあ、はい。多少は足手まといでしょうが、私に異存はありません」

「その辺の心配も無用だぜ。流石に動けもしねえのに痩せ我慢してまで戦場に戻るほど馬鹿って訳でもねえしな」

 言いながら関哉は奥の通路へと顔を出す。音は聞こえないが壁に手を当てる。この砦内に響く戦闘の音を拾っているのだ。

「よし、取り合えず行くべき方向はわかった。行くぞ皐」

「……怪我人は下がって下さい。私が先導します」

 と言って皐を先頭に関哉が出た。続いて格摩も同じように砦の壁に触れて砦全体に響く音をさぐる。大勢の人間が移動する音、壁にまで響く人の怒声、そしてそんな砦全体に伝わる戦いの振動。

 格摩はそこまで探り、己が行くべき方向を定め。

「よし、こっちに行くぞ」

 そう言ってユージと武旋を率いて部屋から通路に出た。



 誰の目から見てもその戦いは絶望的過ぎた。

 まずその開始から合体剣から分離しての二刀による剛剣一刀両断。地面も抉るほどの波動、剣風、痛みのあまりに男の口から体液が血の変わりにごばっと噴出して壁まで3秒足らずで配達完了の埋め込みのサービス付き。

 斬って壁激突。正に瞬殺。

 たった之だけの現象、見ていたアシェラも思わず。

「ありゃま、もう終った」

 と呟くのも当然だった。誰から見ても戦闘終了、素人にレフェリーを任せても直ぐに終了の合図を出すだろう開幕。

 亮は元の構えに戻して様子見し、そして硬直から10秒経ってから男は真っ直ぐに亮の下へとすっ飛んで行く。そして先程の事を無かったかのようにもう一度亮と切り結ぶ。

 しかしやはりと言うか男の戦況は全くよくは無い。切り結んでは切り結び、切り結んで切り結んで切り結んで切り結んで切り合ってきり合ってきり合って、ほぼ男だけがズタボロに切り刻まれていく。

 切り合っては脇腹を切られ、切り合っては蹴り飛ばされ、切り合っては肩を裂かれ、男の剣は未だに亮には届かない。

 だが、二の太刀要らずとすら謳われし剛剣をその身にくらい続けたこの男もなかなかに相当なものである。

 魔力を浴びた武器は確かに同族殺しを抑制する。

 だが痛みは確かに存在するのだ、それも死に迫ったギリギリの痛み。それを食らっても尚立って笑っているのもかなりのものである。

 笑っている。

 そう、この男は笑っているのだ。口端を引き裂かんほどに釣り上げ、その表情を愉悦に染め上げ、恍惚と上だけを見上げ続けている。

「何故だ」

 その狂気。精神が痛覚さえも凌駕して言えるとしか言いようが無い男の闘志に亮が問う。

「何故そこまでして戦う」

 切り結び、鍔迫り合いながら亮は問う。問いを投げる。男は屈する事無く、怯む事も無く、寧ろ之こそが祝福だと、之こそが快楽だと甘美な宴だとでも言うように亮に食い下がる。

「無論だろう。論ずるに足らん」

 男はその問いを切り裂く。意味などないと。

「己が全力をとして尚越えられぬ壁があるのだ。男として生まれた以上、目指すならば上だろう」

 言って男は渾身の一刀で亮を押し出す。

「ならば、それに挑み超えようとするが当然の理」

 また亮と男の刃が激突し。

「簡単に越えられぬ壁だからこそ燃え上がる」

 刃を交え、お互いにその刃を振るい向け合い。

「何をしても超えられぬ。ならば我が全てを絞りつくそう」

 火花が舞い、それでも男の刃は亮には届かず。

「之が見たかった、之を感じたかった。見よ、この俺の無様な姿を!」

 一瞬の隙を付いた亮の一撃が男を弾き飛ばす。

「何をしても至らず、何を持っても超えられぬ」

 だがそれでも男は立ち上がり。

「求め続けた瞬間が、ついに来たのだ」

 亮にその刃を向ける。そのズタボロな肉体で。

「病み付きになるほど感じる血の熱さ、諸手を挙げいざ礼賛しよう」

 両手を上げるような構えで亮に駆け出し男は声高々に謳いあげた。


「俺は今、生きているッッ!!」


 その一刀、大振りすぎたその一刀。それがついに亮の肉体に届く。

 僅かな一刀だ、掠ったとしか言いようが無い一撃。ただ亮の防具に刃が触れただけともいえるその一刀。

 だが彼はやってのけた。

 負け知らずとされる剣帝に、これはズタズタになりながらも攻撃を当てるに至ったのだ。これを奇跡と呼ばずしてなんと言う。

「ふむ、思わず拍手喝采を送るところだった」

 高みの見物をしていたアシェラは言いながら両の手を叩くポーズを解いて下を見る。男の舞踏は今だ終らず、そしてその狂気に当てられ困惑する亮もまた男を仕留め切れていない。

 いや実際この剣帝が全力を出せたとして、この男を倒せるのだろうか。

 狂気に身を委ね、それを祝福として快楽を貪るこの男。これが先程自分が至るべき究極と言われた。自分はこの男のようになれと言われた。

「否」

 しかし、己の夢と理想はこんなものかと亮は問う。こんなものでは決して無い。だがしかし、それでも。

「否ッ!」

 

 亮は、この男の事を一瞬でも。刹那の間でも羨ましいと感じた。


 ただただ上だけを見上げ続けるそのあり方。男として生まれた、だから上を目指す。それも緩やかな坂を上るのではない、絶壁を登るのだと言う。

 憧れざるをえない。

 そのあり方を共感せざるを得ない。

 共に求道の者、亮は男のあり方にどうしようもなく惹かれてしまった、魅せられてしまった。もしもアシェラが言うこの男から見習うべき箇所があるとすれば、正しくこの狂気。

 ただただ上だけを目指し続ける、それを祝福とさえ取れるその狂気。

 苦難も辛苦も、全てが越えた先にある達成感を彩る為のスパイスに過ぎないとこの男は声高々に謳っているのだ。

 だから、問うた。


「その先に何を求める」

「――は?」


 男は切られながらも眉を顰めた。その狂気が、快楽に満ちた笑みが此処に着て初めて歪む。

「その先、壁を越えた先は如何する? また壁を探すのか? その頂上に甘えるのか?」

 問う。この男の果てを、その狂気の果てに掴む何かを問う。

 この質問、自分に投げ返されても亮は即答できる。出来るだけの夢を、彼は握り締めている。だが。

「果てなど無い」

 無表情で、男は返した。

「そんなものは不要だ。求めても手に入らぬ、全力をとして尚届かぬ、だからこそ目指す価値がある、それだけだ。寧ろ果てなど邪魔だ」

「――愚か」

 その答えを、亮は男ごと斬り裂く。

「聞いた俺が呆れるわ、下らんぞその答え!」

 亮は吼えた。叶えたい夢がある、だからこそ亮は男とより共感を求めて問いを投げたのだ。

「貴様が、貴様みたいな男が吐くのはまさか世迷言とはな! まるで世に飽きた道化の言葉だ!」

「な、に?」

 しかし、返って来たのは逃亡者の泣き言のような言葉。果てを求めず、ただただ求道のみを求め続ける、ああ確かにそれは狂気の所業だ。

「その程度の男とは、失望したぞ!」

 そこから繰出される亮の剣戟から油断と情けが消え去った。数刻前の剣戟が遊戯だったと言わんばかりの鮮やかな剣舞、男は無残にも切り刻まれて地を転がる。

「高みを目指す、だが目指すだけか! 貴様、それでも剣士か!?」

「何を、戯けた事を」

「戦のみを求める、手段を得る為に目的のみを設けた道化が。俺に挑むならば、まずは己の成したい夢の一つでも語って見せろ!」

 亮は踏み出し、男は立ち上がって構え直して亮の二刀に蹂躙される。

「期待外れだアシェラ。この男に最早用は無い」

 言って、亮は地に伏す男を一瞥する事さえも無く剣を納めた。

 んじゃ、また。

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