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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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早すぎた出会い

「あの、之はどういうことですか?」

 皐はこの状況に対してただただ困惑する。何故かと言えば。

「なぜそこの傭兵がいるのですか」

「鞍替えした」

 ユージの言葉に皐はその眼前に刀を突き向ける。

「信用する、とでも?」

「別に良いよ、傭兵なんてしんじねーほうがいい」

 そう言ってユージは手をぷらぷらと振って返事する。皐は眉を顰めながら。

「随分な態度ですね。自分の現状を理解しているんですか?」

「別にー? 乗ってた船が沈みかけたから乗り換えただけだよ。何時までも泥舟に乗ってるぎるは無いってね」

「……そんな簡単に意見変えるなんて」

「いいんじゃね? 俺別にあんたみたいなお侍さんと違ってそこまで義理立てするもんもねーし」

 ユージは溜息混じりに如何でもよさげに返す。皐はより忌々しげな表情をユージに向ける。その様子を見ていた格摩と武旋は。

「なあ、之なんて状況だ?」

「さあ……? それはどっちかと言うとこっちの台詞なんだが……」

 そう言って頭を捻るが、その矛先はついにも。

「そもそも、何故之を信用したんですか!?」

 呆れた表情を二人に向け、皐は尚も問いただす。

「俺は信用してない。そもそも、傭兵自体信用するもんじゃねえし」

「殴りあった。俺にとっちゃそんだけで十分信じるに値する」

「いや、やりあったのはガチだけど……」

 と、それぞれ一行。だがそんなことよりも。

「で、関哉は如何した? 何でお前一人なんだ?」

「え、っと、その」

 逆に武旋に問い返された皐は突然ばつが悪そうに一歩下がり、一瞬言葉に詰まるがやがて。

「あの人は、怪我が酷くて、途中で、置いてきました」

「おいおい、怪我人置いてきたのかよ。あんだけお前のことを気にかけてたのに」

 言って格摩は皐に非難の目を向ける。皐はさっきまでユージに向けた希薄は何処へやらと言った感じで。

「そ、そんな事よりもそっちこそティンさんは如何したんですか? いないようですが」

「それはこっちの台詞だぜ。お前、あいつと合流しなかったのか?」

「え……会わなかった、んですか?」

 問い返された皐は驚いた表情を見せた。一行は一斉にお互いの顔を見合わせ。

「……戻って回収するか?」

「止めた方がいい」

 格摩の呟きにばっさりとユージが切る。そんなユージに皐はきっと睨みつけて刀の切っ先を向ける。それを無視して。

「此処の兵士の錬度は低いしサブだけで蹴散らせる程度の連中だ。だがしかし、数だけはイッチョ前に揃ってやがる。これじゃあ背中見せて逃げたりしたんじゃ幾らでも後ろからボコってくれって言ってるようなもんだぜ? 幾らなんでも、武装して数を揃えてる集団がそれも出来なかったらアホだぜ」

「信用するとでも?」

「信用するしない以前だよ。あんた、この砦にどれだけの兵力あるのか知ってんの? 構造は? 兵種、武装の全てを知ってるのか?」

「え、な、そ、そんなの、今着たばかりの私が」

「知る訳ねえ、そうだろ?」

 ユージの指摘に皐は思わず引き下がる。そこに武旋は付け加えるように。

「その上、お前の元同僚の存在だろ?」

「ああ。あいつがいる以上、いよいよこの砦の兵力が馬鹿にならなくなってきた。あんたら、少年傭兵の一兵士に求められた兵力って知ってるか?」

「そ、そんなの知りませんよ」

「……一人で百人並みの戦闘力、とかか?」

 格摩と皐はそれぞれユージの問いに答えていく。だが、武旋だけは神妙な面持ちのまま黙り込んでいた。ユージはそんな彼に向き直り。

「じゃあ答え、どうぞー」

「……一人旅団、だろ? 手前等一人で軍隊を蹴散らせるほどの技量と実力、そしてセンスを要求されてた筈だ」

「正解」

 静かに答えるユージに、格摩と皐は思わず絶句する。

「冗談抜きで、俺ら一人一人で読んで文字通りのワンマンアーミー。それが俺らな訳だ、さっきのあいつはまあ、なんつうか、思いっきり油断してたし」

「何より、遊んでたしな。俺の知ってる奴らなら、この砦なんてもう消し飛んでるしな」

「……そういや、よ。さっき大地震が起きたじゃねえか。あれ、心当たりねえか?」

 武旋の言葉に、格摩はポツリと漏らす。その言葉に返って来る言葉は無い。ならば。

「もしかして、ティンがやったとか……?」

「ねえだろ、そいつは。だとしたら、あいつは一体何者なんだ?」

「さあ……」

 皐が呟くと同時。砦中に響く言葉が轟いた。



 ティンはこの状況に困惑していた。砦の壁を突き破って現れた二人の戦士を見る。二人は互いに見合うと。

「あれ、ビリーじゃん?」

「あ、氷牙だ!」

「何でここに?」

「格摩のメールで。数貴がピンチだって」

「俺も同じメールを貰った! でも、之文面がおかしいんだよな……」

 そう言って氷牙は携帯電話を開いて届いたメールを再確認する。だがビリーは。

「はあ? 変なとこなんて何もねえだろ?」

「そうかな……? 何か、すっげえ細かい事を見落としているような……」

「細かい事は良いんだよ! 数貴が助けを求めてる、それで良いじゃねえか!」

「うー……ん? よくは、ない、ような?」

 氷牙が呟くとビリーは無視して唐突に走り出して砦の中に突っ込んでいく。氷牙は良いのかと悩んでいたのだが、まあ良いかと走り出した。ティンはそれを見届けると周囲を見渡す。

 二人の乱入により周囲の兵士達は皆一掃されており、立っているものは自分以外誰一人として居らず、仮面達の襲撃さえない。仕方ないとティンは二人の後を追う形で歩き出した。

 砦の中は広く、自分もどうやって此処まで来たのかさえろくに覚えていなかった。薄暗い道を倒された人間の残骸を目印に歩いていく。



「いやぁ、良き哉良き哉。気まぐれに出向いてみればこんな拾物があるとはなあ」



 唐突に、声が降って来た。何処からなのかとティンは周囲を見渡す。だが姿は見えず。

「んん? にしても妙に曇った黄昏だな」

 振ってくる声は上なのか、だが上には暗闇ばかりで何も見えない。

「そんなにおびえる必要は無い。ついでに言えば、故あって名もかたれぬ。之はいわゆるイレギュラーな展開ゆえな、我らの出会いは本来ありえないのだよ」

「どういう、こと? 何を言ってるの?」

「気にしない方がいいし、直ぐに忘れたほうがいい。所詮、あり得ぬ会合……これも一つの偶然がもたらした出会いだ」

「……えーと。小難しい事を言っているのは、何とかわかった」

「別に難しい事など言っては居らんよ。ようはどんな物にも、そして事柄にもタイミングと言うものが存在する。そうだな、では私と君が今此処で出会った意味を十全に考慮し、今私が君に伝えるべき事を。そう、いわゆる未来からの予告と言う奴だ」

 何処からともなく響く軍靴の音。どうやら声の主が暗がりからこちらへと歩み寄ってきたらしい。そして静かに告げた。


「私は、君の今直面している問題、謎の襲撃者への解決策を授けることが出来る」

「なん、だ、と……!?」


 ティンは、驚愕のあまり絶句した。今、彼女にとってそれはとんでもない情報であったのだから。何故ならば、今の今まで何の手がかりも情報さえ掴めなかった仮面の連中の情報なのだから。

「慌てるな、今は渡せぬよ」

「何でッ!?」

「今渡してなんになる? 貴様の問題はそれだけか?」

 聞こえてくる凛とした声。闇に紛れ、ティンの側をゆっくり歩く誰か。

「安心せよ、時が来れば必ず貴様に伝えるべき事を伝えると約束しよう」

「そんなことより、今渡せ! そうすれば」

「そうすれば何だ? それで全部が丸く収まるとでも?」

 誰かの鋭い言葉にティンは思わず押し黙る。響く声は凛としていて、まるで高貴ささえ感じさせるような……そう、王の気配を漂わせていた。

「ではさらばだ。私はそこそこ忙しいゆえな、もう去らねばならぬのだよ。貴様が今相手にするべきものはこの先にこそいる」

 そう言って、その誰かは去って言った。だが、その前にと言わんばかりにティンの周りに居る第三者を掴み取った。ティンは振り返ってそれを見る。

「ああ、ついでに之を回収するよ」

「き、さまッ!? 何故此処に!?」

「それはこちらの台詞なのだが……」

 ティンはその後姿だけを確認する。白いマントに刻まれた見覚えの無い国の紋章、そしてそのマントに飾られた長い青い髪。そして直後に人は術式に飲まれて消えた。

 それを見届け、目に焼き付けたティンは前を見て歩き出す。一体この先に誰が待っているのかと。

 そして、辿り着いた先には。

「ほう……これは中々に良さそうな剣士がいたものだな」

 漆黒の阿修羅が、敗者の山を築いてティンを待ち構えていた。

 んじゃまた。

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