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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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馬鹿は行く、何処までも

 とある場所、二人の男が同時に携帯電話を覗く。そこに書いてある内容は単純な事。

『数貴が困ってる。助けに来てくれ』

 これと、場所だけが書いてあるメール内容。それを見て、同時に行動を始めた。言う言葉は場所が全く違うと言うのに。



「待ってろ数貴、今行くぞぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」



 そう叫んで同時に走り出した。行き先はよく分からないが、冷たくとも熱い氷と周囲を照らして貫く電気は全く同時に、示し合わせたように走り出した。行き先など、最初から彼らには無いも同然であるが。



 嵐のような剣戟を水純は手に持った杖で何とか防ぎながら距離を取りながら水の弾丸を打ち出していく。

「どうした小僧!? さっきから逃げてばかりではないか! 先程までの勢いはどうした!?」

「うるせぇえよ」

 呟いて水純は後ろに蹴るように床を滑っていく。足元には油が敷かれており、彼が通った後は大体油塗れである。

 水の魔法とは液体を操る魔法、そう師から教わった彼は様々な液体を操ることが出来る。普通のH2Oに酸や、油などだが、今の彼にはせいぜい戦闘中に作れるのは油が精一杯だ。師のようにニトログリセリンを大量に生産して床にばら撒いて地雷化、などと言う器用は真似は一切出来ない。

 だが油で幾ら距離を取り、敵の足を取ろうとしても彼は華奢な体躯の魔導師、純粋な剣士である男にはどうあっても分が悪い。だが、そんなものは最初から分かりきっている。分が悪かろうと何だろうと、自分のプライドと師の言葉に従って何が何でも敵を倒さねばならないだろう。

 ――幾らなんでも無理じゃね?

 何処からかそんな声が響いてくる。

 水純は気にせず構わず水の弾丸を男に向けて射出するも簡単に剣で弾かれる。戦闘慣れしている敵はこの油塗れの戦場でも既に移動のコツを掴み始めているようで、徐々に水純のアドバンテージが消えていく。

 ――変わろうか?

(煩い、黙れ)

 また脳に直接響く声。

 ――せんせーも言ってたじゃん。使えるもんは何でも使えって。俺ら、二人で一人じゃん?

(煩い、分かってる、静かにしろ!)

 ――へいへーい。

 水純は心内で怒鳴り返すと指を素早く上下運動させて魔法陣を瞬時に描いていく。その動作を連続で、次々と描き、そこから更に水の弾丸を掃射を始めるが。

「無駄無駄無駄無駄無駄ああああああああああああああッッ! その程度で俺を同行できるとでもッ!?」

 荒れ狂う双剣の剣戟に薙ぎ払われ、あっさりとふさがれる。だがそれは想定内と言わんばかりに水純は次に水流を撃ち出して男を飲み込まんとするが、それさえも双剣の前に弾かれて。

(ばけもんかよ!?)

 ――さっきから出される水、やけに綻びだらけに見えるの、気のせいか?

(うっさい!)

 ――疲れた? 俺変わろーか?

(うるせぇ……よ)

 思い、杖を手により激しく闘志を燃え上がらせて次は接近戦へと移行する。

 ――どうにか、出来る?

「うる、さい」

 襲い来る双剣を杖で防ぎ、歯を食いしばる。今なら、出来ると水純は信じて。男が笑いながら双剣を構えて。

「こういうのは意外性ついた方がいいんだよ」

 あえて片手で杖を持ち、肩で支えながら。片手をフリーにして手を差し出す。そこへ誰かがそっとその上に手を差し出し。

「さあ行くぞ」

 ――ああ、行くぞ相棒!

 水純はにっと笑って、勝利を確信した男をあざ笑うように口端を釣り上げて。



「さあ、行くぞ……立ち上がれ――!」

 口にした瞬間、水純の手に誰かの手が重なり、タッチするように交差する。



 瞬間、男が交差していた武器は瞬時に杖の先に水の刃が生み出されて水の槍になり、双剣があっさりと弾かれた。

「な、なにぃ!?」

「ったく、おせぇんだよ……!」

 男は水純の、水純であった者の姿を見る。水色のショートカット、少女のような顔つき、それは変わっていないが、服装と体躯が完全に変わっていて。華奢なその肉体には最低提言ではあるもののしっかりとした筋肉、そして服は戦闘用の軽装鎧となっており、完全に戦士の姿となっていて。

 変わり果てた水純は男を蹴飛ばして距離を取り。

「必殺、鰯の群れッ! ソラソラソラソラソラッ!」

 叫んで繰出される槍の連打、水飛沫を上げて繰出されるそれはまるで鰯の大群が一気に泳ぐ様を連想させて。

「ぐ、ぐあああああ!? な、何だ、この、槍捌き」

「まだだ! ドルフィン・ブレイク!」

 次は槍の矛先がイルカのようになり、その尻尾で打ち上げるように跳ね上げ。

「鮫狩りの一撃! こいつぁ痛いぜッ!」

 次には鮫の牙となった槍の矛先が男を噛み砕かんと食らい付き。

「止めだ! 必殺、ホエール・クラッシャアアアアアッッ!!」

 引き寄せた男に槍の矛先を鯨の形に変え、一気に叩き付け、一気に壁際まで水浸しとなった男を叩き付ける。

「こんなもんか。こんぐらいぶちのめせばいーだろ」

 ――おい、油断すんなよ。

「わーってる、安心しろって。俺はお前なんだからよ!」

言って水純っぽい人は腰を落として槍を下段に構え、吹っ飛ばされた男の方を見る。その表情は挑発するかのようで、相手が立つのを待っているようにも見受けられる。そんな彼の期待に応えるように男もまた立ち上がり。

「き、さま……如何いうことだ? 今の身のこなしは……」

「さあな、それよりも続けようじゃねえか。それとも怖気づいたのか?」

 水純っぽい人はそう笑って男を見る。煽られた男もまた口端を釣り上げて笑うと。

「まさか。これは久しぶりに楽しめそうだぞ!」

「へえそうかい、じゃあ思う存分やらせてもらいますかっと!」

 言うと駆け出し、水純っぽい人は穂先を床に擦らせながら一気に距離を詰めていく。

「愚かな! 槍使いの癖に距離を詰めるか!」

 男は笑うと双剣を構えて水純っぽい人を遠慮なく男の懐に潜り込んだ。男の言うとおり、この距離では完全に槍使いではなく剣士の間合いになって、最終的には格闘家の間合いにまで詰まっていた。これでは槍の本領は発揮できない。

 だがしかし。

「鰈の遊泳ッ!」

 低く、より低く構えられた槍の矛先を地面すれすれから地面を掠らせながら足を切り払った。

「なっ、こいつ!?」

 続いて槍を地面に突き立てて一瞬崩れて無防備になった頭部へと回し蹴りを叩き込み。

「行くぞ奥義!」

 回し蹴りから地に足を戻して蹴り飛ばされた男に距離をつめ。

「ドルフィン!」

 イルカの曲芸が如く、槍で打ち上げ更に持ち上げた足を振り落とし。

「クロス・ブレイク!」

 蹴り付け、地面目掛けて叩き付けて更に。

「追加だ、いっくぜぇ!」

 跳ね上がった相手に槍で薙ぎ払って槍の柄で殴り、更に滑って移動しながら槍で突き柄で殴り切り裂き蹴り斬り付け、更に回り込んで槍を回転させて切りつけ殴り蹴り突き刺し殴り斬り裂き蹴り倒し。

 その動きは正にいうなれば魚介の遊泳。海底を遊び場とする魚達の競演。

「必殺!」

 距離を取り、体を縮めて力を溜め始める。――それは、魚達の作り出す輝くステージ。

「オーシャンズ・クライマックス!」

 叫ぶと同時に、締めと言わんばかりに槍が男を貫く。それはまるでカジキの如く。

「カハッ」

「終了、っと」

 水純っぽい人は槍を引き抜き、肩で担ぐ。そしてあらぬ方向を向くと。

「こんなもんか……で、何時もどんの?」

 ――暫く、このままでいい。好きなだけ暴れて良いよ。

「……どういう風の吹きまわしだ?」

 ――こっからはお前で戦ってくれ。先生に言われたノルマはこなしたけど……その後の行動を考えたらお前がある程度動いて僕を動かしてくれると助かる。

「はいはい。こう言うのなんて言うんだっけ? 運びや?」

 ――煩い、さっさと動け。

 虚空に浮かぶ本物の水純が呆れた顔で溜息をついた。



 格摩達は静かに砦に潜入する。中は辺り一面水浸しで、何が起こり、誰が何をしていたのかが一目瞭然な状態。

 格摩は目を丸くしながらぽつりと。

「……之、全部あのガキが?」

「いや、あいつ確か最終的には砦の外に出たって言ってるから、之は違う誰かがやったんじゃねえか?」

「……数貴か?」

「違うな」

 武旋と格摩の話し合いにユージが否定する。

「その数貴って奴の事は知らないが、之は扉から顔を出すと同時に魔法を一斉掃射した後だな。逃げながら、じゃない。最初は勢いよくやっていたら分が悪くなって逃げ出したんだろうな。それも彼方此方に」

「……よく分かるな。最初から知ってたのか?」

「魔法の後から見る限り、射角がおかしい。何でどいつもこいつも彼方此方から撃たれた後何だ? 複数から囲まれて攻め込まれた後、と認識するのが妥当だな」

 そう言ってユージはボストンバッグからサブマシンガンを二丁構える。その様子に格摩も武旋も戦闘の構えとなり。

「寧ろこっちが聞きたい。この砦、そんな十数人で攻め込まれるようなことがあるのか?」

「それはこっちが聞き返したいぜ」

「だ、ろうな。正面から撃った後に、複数人にしてはやたらと至近距離で纏まっていて時間差がある……一人か二人くらいかで無双したのかね」

 言いながらユージは最初の部屋から動いて次の部屋へと進むと、そこには武装した兵士達が詰まっていて、即座に部屋の中に向けてサブマシンガンを打ち込んだ。

「て、敵襲だ!?」

「嘘だろおい!?」

「ばったりとかそんな次元じゃねえぞ!?」

 叫びながら銃弾の中を掻い潜って格摩が潜り込んで前列を殴り飛ばす。

「じゃあ、大暴れと行くぜ!」

 んじゃ、また。

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