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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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それぞれ勝手に回っていく

「バクゥフ、居るな」

 派手な音を立てて誰かが暗い部屋へと入り込んでくる。部屋の内容を簡単に言うのならば、テレビだらけといったものだ。彼方此方にモニターが置かれてあり、写っているのが半分真っ暗となっているのが半分、といった所だ。

 その部屋の奥。最も大きなモニターの前の椅子に腰掛ける人物が。

「居るよ。どうしたんだい、君が此処に来るなんて」

「用件は簡単だ」

 言って男は携帯電話を取り出してある画面を出し。

「数貴は何をしている。応えろ」

 簡潔に、話した。画面を見ていた男――バクゥフはキィと音を立てて椅子を半回転させて男の出したそれを見る。

「……僕が知っているとでも?」

「お前は情報屋だ。情報を売るのが仕事だろう?」

「こりゃやられた。一本取られたね」

「茶化すな」

 男の真面目な言葉にバクゥフは苦笑を浮かべつつ、一切油断も笑みも持たせない瞳で。

「茶化してないさ……最近、数貴君の行動が読めないんだよね。急に小さい子供を生徒だとか言い出したり、情報屋の仕事に興味を持ち出したり……何と言うか」

「……まるで、自分なりに大人にでもなってきている、とでも?」

「そうとも言うかも。彼らしくない、いつも何処か子供っぽかったのに」

「誰だって、何時までも子供ではないだろうに」

「……そうだね。ピーターパンなんて何処にもいない。皆いつかは大人になる、か……僕はろくに子供やれなかったけど」

「やればいい」

 バクゥフの泣いてる様な愚痴に男は切り裂くように返す。

「誰が付き合うんだ」

「俺たちが居る」

「ハ、僕が、君達の仲間だって言うのかい?」

「逆に問おう。違うのか? リーダーはずっとそう思っていたようだが」

「嬉しいこと、言ってくれるね」

 言われて、そんな風に苦笑する。

「正直、君達が羨ましいと思っていたよ……僕には無い物を謳歌していた君達が」

「貴様には無いもの、だと?」

「ああ……僕には、青春時代なんていう都合のいいものは、僕には無かったからね」

「今からでも遅くは無い。そもそも、貴様は大きく勘違いしてるぞ。貴様は青春時代をなかったと言うが、俺たちと過ごしたあの時間は貴様にとってはその程度なのか?」

 返ってくる声は力強く、切り裂くようで怒りを込められているようで。

「話にならん。思いが足りん、絆が足りん。愛が、足りんぞ」

「愛が、足りないか……君に言われるとはね」

 自嘲気に笑うとバクゥフは立ち上がり。

「きなよ。数貴君のところへ案内しよう」

「いいのか?」

「ああ……僕もたまには、君達のように羽目を外してみたくなったのさ」



「格摩、お前何処に連絡した?」

「ちょっと連絡すればどっからでも駆けつけて、数貴に手助けしてくれる頼もしいやつらっすよ」

 格摩はそう言って携帯電話をしまいこむと状況を確認した。此処は元山賊団の親玉が居座っていた部屋であり、三人ははぐれたもう三人を待っている形である。

「……なあ、格摩。皐と関哉とティンと連絡は?」

「無理だな。あいつらとの連絡手段を持っていない。こんな事ならもっと早くに連絡先を貰うべきだったか」

「なら、正直な所あの砦にさっさと攻め込んだほうが良いぜ」

 と、最後に少年がそう意見する。二人はその声によって銃の調整をしていた少年へと視線が向ける。

「どうしてだ?」

「この洞窟はあの砦とあらゆる部分で繋がっている。此処はどうやら元鉱山ではあったようだがどっかの国が近くに砦を作った際に鉱山を改造して、隠し通路としても機能させてたらしい。この地理を確認した時に幾つか奇妙な道と扉を見つけた。その先までは雇い主的には教えられないとの事で調べてないけど」

「……流石はプロの傭兵だな」

「プロじゃなくても普通だろ。自分が守るところだぜ? 地理を把握出来る所は全部把握するわ」

 そんな風に、如何でもよさ気に少年は返す。格摩はすげえなと感心したように呟くが武旋は厳しい視線を向け。

「よくよく考えればこえー話だな。なんせこの洞窟の警護任されてたんだろ? それがこうもあっさりと寝返るなんてな」

「別に珍しい話じゃない。あんただってあるだろ? 俺たちは犬じゃあない。奴隷でもなけりゃ忠実な騎士でもない、金さえ、餌さえ貰えりゃ誰にだってつくしなんだってやる。でも、沈みかかっている船に乗り続ける馬鹿はいない……そうだろ?」

「……確かに、そうだけどよ」

 武旋は納得したような、行かないような、そんな感じに言葉を返す。少年はやれやれと武旋に向き直り。

「お兄さん、結構疑り深いね。何、傭兵になんかされたの?」

「……なんつうか……まあ、いい印象はねえな。あ、そうだ格摩」

 苦虫を噛み潰したような声を出した後、何かを思いついた様子で格摩に向くと。

「お前、地面の足踏みの衝撃で連中が何処に居るのか探れねえか?」

「あ、はい。一寸やってみます」

 そう言って体を適当に休めていた格摩は地面に手を置いて魔力を走らせ、意識を手の先から地面へと伸ばしていく。そして洞窟一帯に染み込ませた魔力から触角へと接続し、地面と一体化して地面を踏む衝撃、振動から誰かを判断していく。

 格摩の手に伝わってくる、誰かの歩く振動。軽い、強くなく、丁寧に滑らせるような歩みで歩いてくる。だが、この歩き方では女性とは分かってもティンなのか皐なのかまでは分からない。

「――駄目だ、俺程度の魔力じゃ全くわからねえ。一応こっちに向かって一人、多分女が近寄ってくるのはなんとなく分かるが……」

「そうか……じゃあしゃあねえ、俺らだけで乗り込むぞ!」

 そんな武旋の言葉に呼応して少年と格摩は立ち上がると移動を始める。先程の洞窟を抜けてその先、謎の聳え立つあの砦。

「そういやお兄さん、名前教えてくんね?」

「何でだ?」

「いやさ、思ったんだよ」

 少年は照れくさそうに頭をかくとしっかりと。

「之から死地に赴くかもってのに、肩並べる奴が誰なのかも分からない……それってさ、嫌じゃね?」

「……そうだな、俺の名は格摩だ。お前さんは?」

「……ユージ。ユウ、でもいいよ」

 そう言ってユウははにかむ様に笑って。

「んじゃ、よろしく頼むぜ、ユウ」

「はいよ、背中に両肩、時には正面も任された」




 薄暗い城砦の中を少年は水音を立てながら歩いていた。

 完全な室内、だというのに少年の足元だけが濡れていて少年自体は足元意外に濡れているところが待ったくない。

「待て、ガキ」

「……あぁ?」

 少年――水純はガキと呼ばれ、鋭い視線を目の前の存在に叩き付ける。目の前にいるデカぶつを前に、水純は臆した様子は微塵も無く寧ろ挑発するように怒りの目線を送る。

「うるせえよ筋肉ノッポ、そこどけいや退かなくていい、退かす」

「ああ? おいガキもっか」

 男の言葉はそこで途切れた。口の中に水を叩き込まれたが故である。水純はそこからさらに幾つかの水玉を送り込むが叩き込んだ追撃は男の振るった双剣で弾かれた。

「ちっ」

「ふん、貴様も小細工か。先程砦で暴れた奴もそうだったなぁ」

「な、に」

「お? 知らんのか? こそこそと逃げ回るような卑怯者でな、あれこれと小細工しては逃げ出す、そのような奴であったのだ。ちょうどいい、貴様を片付けた後、ゆっくりとあやつを狩るとしようか。逃げ回るだけの卑怯者程度に後れを取る我らではない!」

 そう言って笑い上げる男に水純は。

「おい、手前……」

 拳を握り締め、静かな怒りを瞳に宿らせて前だけを睨みつけて。

「今、誰を笑ったよ。この達磨やろおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 宣戦布告だと言わんばかりに水圧ビームを男に打ち込んだ、が男の防御を貫くまでには至らず。

「温いわ! この程度で俺を倒せるとでも? 小僧が舐めおって」

「うるせえつってんだろうが……それ以上その口で、先生を笑うんじゃねえ」

「……ほう? どういう意味だ?」

「意味? 意味ねえ」

 水を滴らせる。水純の臨戦状態は徐々に整い、残るは目の前の筋肉を排除すればいいと言うだけで。

「意味なんか、ねえ。ただな、思うことがあるんだよ」

 男は双剣を持って水純に切りかかるも水純はその小さな体躯を利用してあちらこちらへと回避運動を取り続ける。

 そんな中、水純の表情は暗く重くなっていき。

「――ふざけんな」

 口から漏れるのはそんな声で。

「手前みたいなゴミカス如きが、何先生を語った挙句笑ってんだぶっ殺すぞ手前」

「上等だ小僧!」

 水純は胸に秘めた純粋な思いを、男に全てぶちまけた。言われた男も上等だと双剣を握りなおし。

「来い、小僧!どちらが真の身の程知らずか、教えて進ぜよう!」

「ああ、そら手前の頭にかよ!?」

 言って水純は魔法陣を描き出し、水を操っていく。

 じゃ、また。

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